第54話:試練の始まり
今回は短めになります。
申し訳ありません。
「……俺は、一体何をすれば良いんだ? 試練とは――」
冬馬の問いに、銀翼の龍王シルヴィアはゆるやかに首を傾けた。氷のような銀瞳が、迷いを許さぬ静謐な光を宿す。
「特別なことは何も無い。ただ――耐えれば良い」
響く声は美しくも冷たく、言葉の重みを含んでいた。
「真神冬馬よ。貴様は本来、我の力の適合者ではない。酷なことを言うようだが……貴様には“才能”は無い。この試練は、貴様の命を奪う結果になるやもしれぬ」
残酷な宣告。
しかし、それを告げられても冬馬の表情は揺るがなかった。そんなことは、とっくに知っている。自分に生まれながらの天賦など無いことなど、百も承知だ。
それでも――進むと決めた。孤児院の義弟や義妹たちを守るために。シスターを守るために。そして雪菜を守るために。
今はそこに、ネクサス支部で出会った仲間たちも加わった。シャロン、宗一郎、アイリス……守りたい者が増え、大切な人たちが増えた。失うわけにはいかない。
冬馬は瞳に決意を灯し、正面からシルヴィアを見据えた。
「俺は……絶対に諦めない。必ず試練を越えて、みんなのもとへ帰る!」
一瞬、龍王は瞳を閉じる。呼吸をひとつ整え、再び開かれた銀瞳は、今や烈光を宿していた。
「よかろう。我が力を受け取り、耐えてみせるがいい」
次の瞬間、眩い銀光がシルヴィアから迸った。冬馬は思わず片手で視界を遮る。光が薄れたとき、そこに立っていたのは――人の姿のシルヴィア。
銀色の長髪は星明かりのように輝き、濃銀の瞳は深淵を湛えている。これまで数多くの美女と接してきた冬馬でさえ、息を飲むほどの神秘的な美貌。圧倒的な存在感が、ただ立つだけで空気を支配していた。
「良いか?」
鈴の音のような声が、空間を震わせる。
「これより、力の移植を始める。貴様に注がれる力は、貴様の心と体を破壊しようとするだろう。適性のない者が力を継ぐとは――そういうことだ」
シルヴィアは胸の前に両手を重ね、ゆっくりと開く。その掌の間に、銀色の塊が生まれた。
それは魔力でもオーラでもない、形容不能な“力”そのもの。空間が軋み、周囲の空気が重く沈む。触れる前から冬馬の心臓は激しく打ち、肌が総毛立った。
「……我はシルヴィア本体から別れた分体に過ぎぬ。当然、力も本体と比べれば大きく劣る。それでも、貴様が生き残れるかは賭けだ」
銀光が脈打つたび、冬馬の全身は鋭い針で突き刺されるような圧迫感に包まれる。
「――いくぞ」
シルヴィアは、掌に宿した力の塊をそっと冬馬へ押し出した。
次の瞬間、銀色の奔流が冬馬の胸へと突き刺さり、そのまま体の奥深くへと吸い込まれていく。
骨が軋み、血が沸き立ち、意識が白く染まる――。
試練が、いま始まった。
ブックマーク、有難うございます!
嬉しいです!




