第48話:「真神冬夜」
こちらの話は、少しお休みをいただくかも知れません。
誠に勝手で、申し訳ありません!
男は、一歩シャロンに近づき、静かに口を開いた。
「はじめまして、シャロン・セイルズ先生。
私の名は――真神冬夜。この子……冬馬の兄です」
その言葉を聞いた瞬間、シャロンの意識に激しい衝撃が走った。
まるで雷に打たれたかのように、体の芯から凍りつく。
「……まがみ……とうや……?」
シャロンの口から漏れた言葉は、震えていた。
――真神冬夜。
それは、この世界に四人しかいないとされる“現存S級ハンター”のうちの一人。
生ける伝説。
その名を冠する者は、国家規模の災厄を単独で鎮めた者、または世界の命運を変えた者のみ。
ランクの昇級に明確な昇級基準があるA級までとは異なり、S級はあくまで「世界の意思」とも称される、選ばれし存在への“認定”であり、詳細は一切秘匿されている。
だからこそ、四人の名は広く知られていながら、その顔を見た者はいない。
その一人が――今、自分の目の前にいる?
「……うそ……真神冬夜……? 本当に……S級ハンターの……?」
呆然としたまま、シャロンは問い返す。
だが男はただ、穏やかに頷くだけだった。
月明かりに照らされたその顔は、どこか儚げで、そして深い哀しみを湛えていた。
その時、ふと、男の言葉の一部が頭の中で繰り返される。
「……冬馬の兄……?」
「待って……冬馬の、お兄さん……?」
シャロンの脳裏に、次々と疑問が噴き出してくる。
彼女は必死に思考を巡らせる。
――冬馬と雪菜の家族について、私たちは何を知っていた?
彼らの両親は、二人の目の前でモンスターに殺された。
……そう聞いていた。だが、それだけだ。
どんなモンスターだったのか。どこで、どのように襲われたのか。
シャロンは――いや、誰も、それ以上を“知ろうとしていなかった”。
(……おかしい。あまりに、何もなさすぎる……)
誰もが「彼らを傷つけたくないから」と、あえて踏み込まなかった。
だが――それだけなのか? 本当に?
否。違う。
それは、まるで“意識の外”にあったかのようだった。
彼らの過去に触れるという発想自体が、誰の中にも存在していなかった。
まるで、その記憶にフタがされていたかのように。
彼らが育った孤児院。
そして今や家族のような存在となった、トウキョウ・ネクサス支部の仲間たち。
ギルドマスターの御堂宗一郎、受付嬢のアイリス・ベルモット。
ベテランの彼らですら、両親の死の詳細について、一度も言及しなかった。
それどころか――
雪菜と冬馬、本人たちすら、両親の話を一切しない。
あたかも、はじめから存在しなかったかのように。
(……変だ。おかしい……おかしすぎる……)
「彼が……冬馬が、あなたの弟……? でも……冬馬の名前は……」
そこまで言って、シャロンの意識が凍りついた。
(――冬馬の……ファミリーネームって……なんだっけ?)
言われてみれば――誰一人として、彼らの苗字を口にしたことがない。
それは“当たり前”のようでいて、“異常”だった。
書類上どうなっていたのか、誰かが気に留めてもおかしくないはずだ。
それなのに、誰もそれを疑問に思わず、ただ「冬馬」と「雪菜」と呼び続けていた。
まるで、何かが“そうさせていた”かのように。
「……なぜ、いままで……誰も気づかなかったの……?」
シャロンは、自分自身の無関心に、ゾッとした。
それは彼女だけではない。
トウキョウ・ネクサスという組織全体、いや、社会の“認識”すら、操作されていたのではないか。
そんな悪寒が背を走った。
真神冬夜――この男は、一体何を知っているのか。
冬馬と雪菜の本当の出自とは何なのか。
そして、今まで“見えなかった”ものの正体は……
いま、すべてが動き出そうとしていた。
これより物語は次のステージへと移行します。
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