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第4話 「強くなるって、決めたから」


それから、二人は共に切磋琢磨し、自らを鍛えていった。


あの日から——

雪菜は一人称を「私」から「ボク」へと変えた。


「ボクは、冬馬の横に立つんだ! 強くなるんだ!必ず相棒に!」


それが、当時の雪菜の口癖だった。


雪菜には、生まれつき魔法の才があった。しかも一属性にとどまらない、複数属性への適性。

それは、ハンターの世界でも極めて稀な、いわば“逸材”だった。


けれど、雪菜はその才能に甘えることなく、剣術にも真摯に取り組んだ。

魔法の修練を積み、剣の稽古に汗を流す。

冬馬と共に、追いつき、追い越され、そしてまた追いつく。

互いの背を追いかけるように、日々を重ねていった。


だが、次第に——

その差は、広がっていった。


雪菜の才能が開花する一方で、冬馬には、際立った才能がなかった。


魔法の適性はゼロ。

剣の筋も平凡。

弓も、槍も、錬金術すらも、特筆すべき才能は見られなかった。


唯一、開花したのは、「オーラ」の量。

それも、平均をわずかに下回る程度。


次第に、二人の力の差は歴然となっていった。

“冬馬の隣に立ちたい”と願っていた雪菜は、いつの間にか、彼よりも遥か先を走る存在になっていた。


それでも——

冬馬は、決して諦めなかった。


くじけず、腐らず、笑われても、馬鹿にされても、歯を食いしばって立ち続けた。

自分自身にだけは、負けないように。


そして何より、雪菜が——

どれほど先へ行っても、振り返って、自分を信じて待っていてくれることを、冬馬は知っていた。


ハンターになって数年。

雪菜はランクを三つ上げ、Eランクに昇格していた。

将来的にはベテラン帯であるDランクも狙える、そんな声もあちらこちらから聞こえてきた。


一方の冬馬はというと、ようやく最低ランクHから、ひとつ上のGへと昇格したばかり。

ようやく討伐依頼を受けられるようになった程度だった。


けれど、そのG級の討伐依頼で得た報酬で——

冬馬は、世話になった孤児院へ仕送りを始めた。


自分にかける金は最小限。

服も道具も、必要最低限のものだけを残し、あとはすべて孤児院へ。


それは雪菜も同じだった。

ランクアップによって報酬が上がると、彼女もまた、孤児院への送金を始めた。


優しく、美しいシスターと、弟妹たち。

飢えて泣いていた日々を、もう繰り返させたくはなかった。


やがて、雪菜の名前はハンターたちの間でも知られるようになった。

若くして有望、容姿端麗、複数属性の魔法適性。

「次世代を担う天才ハンター」として、噂になった。


そして、ある日——

雪菜のもとに、ハンター事務所からスカウトの声がかかる。


それは、最大手のひとつ、『摩天楼』からだった。


突然の話に、雪菜は戸惑った。


最近は、ランクの違いもあって、冬馬と顔を合わせる機会は減っていた。

任務も別々。すれ違いが増えていた。


彼女の夢は、“冬馬の隣に立つこと”。

それなのに、もし『摩天楼』に所属すれば、さらに差は開いてしまう。


でも——

『摩天楼』に入れば、安定した高報酬が得られる。

孤児院の子供たちや、やつれたシスターを、もっと支えられる。


雪菜は悩み、久しぶりに冬馬へ連絡を取った。

すべてを話し、相談する。


すると——冬馬は、まるで自分のことのように、心から喜んでくれた。


「何を迷ってるんだよ!受けるべきに決まってる!

……そっか、雪菜が……そっか、そっか!」


無邪気な笑顔と、眩しいくらいの声色で、祝福してくれた冬馬。

その姿を見て——

雪菜は、ほんの少しだけ、胸の奥がちくりと痛んだ。


寂しい、と、思ってしまった自分に。


けれど、雪菜はスカウトを受ける決意をした。

摩天楼の職員と面談を行う際、雪菜は勇気を振り絞って言った。


「……あの、もう一人。摩天楼に、入れてもらえませんか?」


それはもちろん、冬馬のことだった。


職員は数日後、冬馬の調査を行い、そして淡々と告げた。


——不合格。

それだけだった。


嘲りも、同情もない。ただ、事実として。

冬馬は、摩天楼の入団基準を満たしていない。


「……そうですか」


雪菜はうつむき、拳を強く握った。


悲しかった。

悔しかった。


冬馬は、強くなる人なのに。

どんな才能よりも、強く生きているのに。

誰も、それを見ようとしない。


だから——

雪菜は、心の奥で誓った。


「強くなってやる……もっと、もっと強くなって。

……そして、冬馬を——」


摩天楼に限らず、多くの事務所では、ランクが上がれば発言力も高くなる。

実力を示せば、理不尽な壁だって壊せる。


いつか——

冬馬を、自分の力で迎えに行くために。


その日を信じて。

その未来を掴むために。


雪菜は、改めて心に刻んだ。


——ボクは、絶対に強くなる。

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