第2話:努力の果てに見えるもの
なんといいますか・・・色々設定が・・・。
ご不快に感じましたら、心よりの謝罪を。
ハンターは、大きく分けて二つの系統に分類される。
魔力を操る「魔法系」、そして肉体を鍛え上げる「格闘系」。
その中にも、剣士、ガンナー、召喚士、強化術士、支援術師……多種多様な専門職が存在する。
雪菜は、魔法系よりの剣士だ。
魔力の流れに剣術を重ね、攻防を織り交ぜた戦いを得意とする。
一方――冬馬は、魔法を一切使えなかった。
魔力の適性は「ゼロ」。
オーラにはかろうじて目覚めたが、その素質は驚くほど平凡。平均値をほんの少し下回る程度の、何の変哲もない数値だった。
それもまた、彼が長く最下層に留まっている理由のひとつだろう。
だが――冬馬は諦めなかった。
魔法が使えないなら、オーラを鍛えればいい。
オーラの素質がないなら、体を鍛え上げればいい。
誰にも知られぬ場所で、誰にも認められず、血が滲むという言葉すら生温く思えるほどの、狂気じみた鍛錬の日々。
才能が無いと知った少年は、努力でそれをねじ伏せた。
そして冬馬がその末に編み出した技が――
《アクセラレーター》。
自身の肉体能力と五感をオーラで強化する技術。
一見すれば、ただの強化系。魔法系の基礎術として誰もが通る「身体強化魔法」の延長に過ぎない。
周囲は言った。
「努力してまで、それかよ」
「魔法も使えない雑魚が、苦労して基本魔法を再発明?」
「くだらねぇ」
だが、彼の《アクセラレーター》は、凡百のそれとは違った。
それは――任意倍率での強化が可能だった。
基礎使用時の強化率は1.5倍。そこから自らの意志で倍率を上げ、2倍、3倍へと段階的に出力を引き上げることができる。
さらに、冬馬自身が成長すればするほど、《アクセラレーター》の効果も比例して上がる。
まさに、彼の努力と連動して進化する技だった。
現在の冬馬が扱える最大倍率は「三倍」。
それ以上は、骨が軋み、筋繊維が裂け、命すら脅かす危険域に達する――はずだった。
だが、その日。
限界を、冬馬は越えた。
都市の外れ。
空を覆う巨大な影――《ガストワイバーン》。
Bランク以上のハンター集団が必要とされる、危険度の高い亜竜種。
今回の襲撃には、都市最大のハンターズ事務所『摩天楼』からもメンバーが派遣された。
だが、タイミングが悪すぎた。
近頃のモンスター活性化により、上位ハンターの多くは他地域へ出払っていた。
即興の戦力では、亜竜種に対抗するにはあまりに心許ない。
そのため、人手不足を補う形で、新人ハンターまでもが駆り出される異例の事態となった。
雪菜が駆けつけたとき、すでに戦闘は始まっていた。
その戦場で、誰よりも先に動いていた男の姿があった。
――冬馬だ。
彼の戦いに、派手さは無い。
しかしその立ち回りは、まさに老練の職人のように堅実だった。
無理をせず、自分の身の丈を知り、同時に周囲への配慮を欠かさない。
新人のフォローをさりげなく行いながら、確実に敵の攻撃を削いでいく。
その姿を見て、雪菜は思わず小さく笑った。
「……全く、アイツは……」
だが、状況は厳しさを増していった。
ガストワイバーンは、それ単体でも脅威だが、周囲には取り巻きの小型飛竜も控えていた。
新人ハンターたちは次第に疲弊し、反応速度も鈍っていく。
雪菜の脳裏に嫌な予感が過る。
(マズい……この戦力じゃ、持たない……せめて、Bランクがあと数人でもいれば……!)
その時だった。
摩天楼所属の若き新人ハンターが、疲労で足を取られ、転倒した。
すぐ目の前には、ワイバーンの影――!
――殺される!
「くっ……!」
咄嗟に雪菜が飛び込む。だが、すでに魔力も、剣も限界だった。
受け止めた一撃で、愛剣が砕けた。
(マズい……! このままじゃ……!)
次の瞬間――。
狂爪を振り下ろすワイバーンの前に、ひとりの男が立ちはだかる。
「……っ!」
紅いオーラを纏ったその背中。
その男の名を、誰よりも雪菜は知っていた。
冬馬――彼の奥の手、《アクセラレーター・4倍》。
限界を超えた出力。
膨れ上がる筋肉。紅蓮のオーラが地面を焦がす。
「フォースアクセル!」
右腕に装着した手甲で、冬馬はワイバーンの顎を真上に打ち抜いた。
打撃によってブレスの詠唱が阻害され、口腔内で爆発が起こる。
悲鳴を上げ、空へ逃れようとするワイバーン。
だが――冬馬はそれを許さなかった。
跳ぶ。
地面を抉るほどの脚力で、冬馬はワイバーンの高度を超える。
「――喰らえ」
拳に込めた全ての力。
渾身のオーラ波動が、空中のワイバーンを直撃した。
その巨体が、無残な音と共に地面へと墜ちる。
「今だ――!」
冬馬の怒号が、戦場に響く。
「ツインマジック! エレメンタルソード!」
雪菜の詠唱が重なる。
折れた剣の柄に、雷と炎の刀身が宿る。魔法剣――双属性の刀。
それに続き、摩天楼のメンバー、新人たち、そしてソロのハンターたちが、怒涛の如く攻撃を浴びせかけた。
雄叫びと怒声が入り混じり、嵐のような斉撃がガストワイバーンの身を貫いた。
亜竜の咆哮。
そして――断末魔。
ガストワイバーンは、地に伏した。
戦場に、安堵と歓声が広がる。
「やった……!」「倒したぞ!」
雪菜は辺りを見回し、すぐに彼の姿を探した。
見つけた。
地面に座り込んだ冬馬が、荒い息をつきながら、戦いの終わりを噛みしめていた。
その姿を見て、雪菜は胸をなで下ろす。
(ほんと……昔から、そうだよ)
彼女の脳裏に、かつての記憶が蘇る。
――努力だけで、ここまで来た男。
誰よりも不器用で、誰よりも真っ直ぐな男。
そして、その手を――
いつか、もう一度、握り返したいと願った、たった一人の人だった。
雪菜は昔を思い出す。かつて、今と同じように冬馬に守られ、手を差し伸べてくれた時があった。




