第18話:仕組まれた名指し依頼
最近、アップする時間が滅茶苦茶ですみません…。
私生活が…。
冬馬は手早くシャワーを浴び、訓練着からギルド用の軽装に着替えると、いつもより少し硬い足取りでネクサス支部へと向かった。
ギルドに一歩足を踏み入れた瞬間――空気が、いつもと違った。
(……これは、何かあったな)
重苦しい沈黙と、どこか張り詰めた空気。
冬馬は違和感の正体を探るように、フロントへと進み、受付の女性――アイリスに声をかける。
「どうも、アイリスさん。俺が呼ばれたって聞いたけど?」
努めて普段通りの声で。
だが、彼女の表情は明らかに張り詰めていた。
それを見た瞬間、冬馬の中で警戒レベルが一段階上がる。
「……冬馬くん。ギルマスが、至急って……本部から、あなたに名指しの依頼が来たの」
「……名指し?」
冬馬の眉がわずかに動く。
ギルド本部からE級ハンターに直接依頼? それ自体が不自然だ。
「詳細は……ギルマスから。私たち、守秘義務があって……」
その一言で、冬馬の警戒は赤信号に切り替わった。
(守秘義務? それも俺に?)
そんな命令がE級任務に添えられることなど、聞いたことがない。
「……分かった。支部長室、通っていいか?」
「ええ……冬馬くんが来たら、すぐ通すように言われてるわ。……気をつけて」
アイリスの最後の言葉には、明確な不安が滲んでいた。
冬馬は軽く会釈をし、支部長室の扉へと向かう。
ノックの音に応じて、中からくぐもった声が返ってくる。
「……入っていいぞ」
冬馬は扉を開け、静かに中へと足を踏み入れた。
「失礼します。……俺に名指しの依頼と聞きましたが?」
室内には、ネクサス支部のギルドマスター、宗一郎の重苦しい姿があった。
普段は穏やかなその男が、今はまるで、毒でも飲んだかのような顔をしている。
「ああ……本部からだ。ご丁寧に高位承認印付きでな」
「承認印……ってことは、依頼そのものは本物か」
(偽造の線は消えた……だが、それが逆に不気味だ)
冬馬は考える。E級の俺に、なぜ本部が直々に?
不自然どころの話ではない。
宗一郎は渋面のまま、苦い声を絞り出す。
「……拒否はできん。依頼はお前一人に限定されている。破れば――お前だけでなく、関係者全員に厳罰だと、そう明記されていた」
その言葉に、冬馬の背筋を冷たいものが走る。
「関係者……?」
その言葉の重さが、嫌でも伝わる。
孤児院の子どもたち。
育ての親であるシスター。
雪菜、シャロン、アイリス、ギルドの仲間たち――
全員に、咎が及ぶ可能性がある。
「……Eランク任務で守秘義務に承認印、さらに他人への罰則付き……そんなの、明らかにおかしい」
「分かってるさ。俺たちもな。だが、お前も思い当たる節があるんじゃないのか?」
宗一郎のその一言に、冬馬は即座に一人の名を思い浮かべる。
――ギルバート・グレイモア。
A級ハンターであり、雪菜に異常な執着を持つ男。
その手の届かないところはない。そう思わされるだけの“何か”がある。
(まさか……ギルバートが、そこまで……?)
だが、もしそれが真実なら、たとえ罠でも拒否はできない。
雪菜を巻き込むわけにはいかない。孤児院も、仲間たちも――守らなければ。
「……つまり、選択肢なんて最初から無いってことだな」
冬馬は目を伏せ、短く息を吐く。
「分かりました。この依頼――受けます」
宗一郎は一瞬、目を伏せ、そして顔を上げて言った。
「……すまんな。だが、くれぐれも油断はするな。依頼の表向きは、E級のグロウジャガー討伐。だが――絶対にそれだけじゃ終わらない」
「ええ……分かってます。準備は、万全にします」
そう言って、冬馬は頭を下げる。
「――行ってきます」
その背中には、いつになく冷たい決意が宿っていた。