第13話:決着の鼓動
「陸さん!」
冬馬が声を張り上げた。
「残りの強化魔法は一発だけでいい!それを雪菜に!……あと、少し無茶をします。回復をお願いします!」
一瞬の逡巡の後、陸は頷いた。
「了解です。ここまで来たら、俺の命も預けますよ」
続けて雪菜が、D級の3人に語りかけた。
「ボクと冬馬で必ず変異種の隙を作る。その瞬間、全力で仕掛けて!」
ベテランハンターたちは目を合わせ、うなずく。
「了解。全力で、いくよ!」
雪菜は更に振り向き、F級・E級の計6人に声を届ける。
「みんなは無理をしないで。安全マージンは絶対確保して。その上で、可能なら追撃を!」
「「はいっ!!」」
声が揃う。全員の士気が一点に集中した。
冬馬の体から、圧縮されたような気の塊が放たれた。
「……《フォースアクセル》。全身強化・第四段階……いくぞ!!」
大地が爆ぜた。
冬馬の踏み込みに、地面が裂け、破砕音が響く。
変異種の切断された腕は、既に再生していた。
変異種が丸太のような腕を振り下ろすも——冬馬はギリギリで躱した。
頬が裂け、血が宙に飛び散る。だが止まらない。
懐に潜り込んだ冬馬の両拳が、正面から変異種の両脇腹に突き刺さる。
「うぉぉぉぉぉぁぁあッ!!」
気合と共に撃ち込まれた双撃。骨が砕け、臓腑が潰れる感触。
それでも変異種は振り下ろす。右腕が唸りを上げた。
冬馬は左拳を引き抜き、即座にガード。だが——
「くっ……ッ!」
メキメキ……と嫌な音が響く。冬馬の左腕が軋み、折れた。
「冬馬さん、回復を!」
陸の魔力が飛ぶ。冬馬の腕が癒え、即座に戦線復帰する。
その一瞬の間に、雪菜の技も完成していた。
「《ツインマジック・エレメンタルソード》!!」
剣を雷と炎の双属性で包み、強化魔法を帯びたその刃を構える。
変異種の注意は冬馬に向いたまま。
その隙に——雪菜は無音で左側面に回り込み、渾身の一閃を首めがけて放つ!
ギリッッッ!
しかし、変異種は左腕を犠牲にしてガードした。
腕が宙を舞い、血が噴き出す。
剣は変異種の首の三分の一ほどで止まった。
「ちっ……!」
それでも、冬馬は右拳をなおも腹部へ——深く、深く突き刺していた。
「グオオオオオオッ!!」
変異種が初めて、悲鳴を上げる。
雪菜は斬り込んだ剣に全力を込め、叫ぶ。
「これで終わりだああぁぁッ!!」
変異種は咄嗟に体を捻り、今度は右腕を雪菜に向けて振るう。
冬馬は叫びながら、左拳を、変異種の右拳にぶつける。
「うおおおおおっ!!」
肉と骨のぶつかる音が、空気を裂いた。
冬馬の拳と、変異種の拳の骨が砕けた。
「今だッ!!!」
冬馬が叫んだその瞬間——
D級3名、F級とE級がそれぞれ3人ずつ、計9人の全力の一撃が変異種の背後から一斉に降り注いだ。
剣、槍、魔法、斧。怒涛の連撃。
「「おおおおおおっ!!」」
その怒涛の一撃群に、変異種がよろけ、たたらを踏む。
そのタイミングに乗じて、さらに冬馬の右拳が、腹部を貫く——その衝撃を支点に、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
雪菜の魔法剣が、変異種の首を——
斬り飛ばした。
肉の裂ける音、骨の砕ける音、そして絶叫。
黒き巨躯が膝をつき、地面へと崩れ落ちる。
最後まで残っていた強個体のオーガたちは、その様を見て震え、恐怖に背を向けた。
「逃がすな!」
動けるハンターたち——D、E、Fの9人が連携して討伐へ走る。
すでに連携は完璧だった。
練習もない、訓練もない。それでも命を預け合った仲間として、全員が動いた。
数分後、すべての敵が沈黙した。
——討伐完了。
トウキョウ・ネクサスの任務記録に残る、大型遠征クエスト。
ハイオーガ変異種を含む脅威の殲滅。
そしてそれは、雪菜と冬馬、仲間たち12人による勝利であった。