第11話:選択と判断
オーガの群れを遠目に確認した雪菜は、わずかに唇を噛んだ。
やはり、ハイオーガがいる。C級相当の脅威だ。予想通り——しかし、油断できる相手ではない。
(どうする……?)
自分を含めてC級は二人。もう一人は、穏やかな物腰の男性ハンター、陸。
年齢は三十手前。雪菜より経験もある。が、彼は戦闘よりも統率・補助に長けたタイプだった。
そして——冬馬。
(冬馬なら……本気を出せば、ハイオーガも倒せる。でも……)
ここで彼が突出すれば、それは隊全体の評価に響く。
皆、この遠征で少しでも実績を残し、次の仕事や昇格に繋げたいのだ。
それに、評価の場を奪うような戦いは、いずれ人の恨みも買う。
(でも、命を危険にさらすのは絶対にだめ……)
雪菜は深く息を吸い、迷いを断ち切ったように言う。
「チームを二つに分けましょう。リーダーは私と陸さんで」
その提案に、全員がうなずいた。
雪菜チームはD級3名と雪菜本人、計4人。撹乱とヘイトコントロールを担当。
陸チームはE〜F級の7名と陸。雑魚の殲滅と後衛支援に集中する編成。
全員が頷き、武器を構えた。雪菜はハンドサインで静かに開始を告げる。
最初に動いたのは雪菜チームだった。
魔法、剣技、槍術、それぞれの持ち味を生かし、強個体のオーガたちにダメージを与え、挑発していく。
雪菜も前衛に出て、土属性の初級魔法「ストーンバレット」を放つ。
威力は低いが、ハイオーガの注意を引くには十分だった。
同時に、陸チームも動き出す。
冬馬は危なっかしいF級3人を守りながら、鋭く正確な拳で、弱個体のオーガや、群れに混ざっていたコボルト、ゴブリン、スライムを撃破。
的確な防御と最小限の攻撃。
さらに、トドメをF〜E級の仲間たちに譲る配慮も忘れない。
「この人……なんでF級なの……?」
「気づいた? あの人がいなかったら、私たちもう何回怪我してたかわからないよ……」
そんな声が自然と漏れ始めていた。
雪菜のチームでも、D級の3人が見事な連携で強個体オーガのヘイトを引き、雪菜が隙を見て魔法を撃ち込む。
(この3人……やっぱり本物だ。自分の評価より、仲間を優先してる……!)
雪菜は拳を握る。嬉しさと、誇り。
そして何より——希望。冬馬だけじゃない。信じられる仲間が、確かにここにいる。
やがて、雑魚個体はすべて倒された。
残るは十数体の強個体と、ハイオーガ。
だが、そこで異変が起こる。
ハイオーガが突如方向を変え、F級の男女二人に突進を始めたのだ。
「っ……なぜ、あたしの方を無視するの……!?」
雪菜は魔法の属性を即座に切り替えた。
「雷よ、貫け!《ライトニング!》」
放たれた雷撃がハイオーガの肩を焼く。が、奴は怯みすらしなかった。
その視線は、確実に“倒せる弱者”を狙っている。
(この個体……知性が高い!)
雪菜は即座に剣を抜き、魔力を集中させた。
「《エレメンタルソード:ライトニングカノン!》」
剣身に雷が集い、眩い光が走る。
そのまま雪菜は、雷を纏った一閃でハイオーガの胸元を切り裂いた。
「グォォォォォオッ!!」
確かに、ダメージは通っている。
が、ハイオーガの回復速度は凄まじく、裂けた肉が瞬く間に癒えていく。
だが、そこへD級の3人が援護に回った。
「任せてください!」
一人が槍で足を払い、もう一人が二刀で斬撃を浴びせる。
最後の一人は土魔法を詠唱し、地面から無数の岩槍を突き上げた。
「《ロックニードル!!》」
ハイオーガの体が貫かれ、怒号が森に響いた。
その隙に、冬馬は別の強個体へ。
「《セカンドアクセル!》」
アクセラレーターを二倍に開放。
脚甲の一撃がオーガの首をへし折り、拳が次の敵の顔面を粉砕する。
「……っ! F級で、ここまで……!」
冬馬はトドメを刺さず、F級3人に目配せする。
「行け!お前たちが、やれ!」
動揺しつつも、彼らは息を合わせて仕留める。
E級の3人も協力し、確実に一体ずつ強個体を削っていく。
その間に、雪菜は再度ハイオーガとの間合いを詰めた。
(もう少し……あと一息!)
陸が全員に向かって叫ぶ。
「今です、皆さん!強化魔法、防御魔法展開!」
魔法陣が全員の足元に広がり、力と守りが満ちていく。
冬馬とD級3人は、残った強個体へ突撃。
そして、雪菜を含むF級3人とE級3人、計7名がハイオーガへと殺到した。
剣が、槍が、雷が、そして拳が、ハイオーガの体を削り、裂く。
「これで、終わりだぁぁッ!」
叫びと共に、雪菜の剣がハイオーガの心臓を貫いた。
「グオォォォォアァァァァッッッ!!」
断末魔が森に木霊し、静寂が訪れる。
誰もが、息をついた。
ほんの一瞬、気が緩んだ、その時だった。
「まだだッ!! 終わってないぞ!!」
冬馬の叫びが、全員の耳を打つ。
雪菜の背筋が、ゾクリと凍りつく。
見れば、森の奥から、さらに巨大な影が——
(なに……あれ……!?)