第8話:料理大会招待状と謎の仮面料理人
「お届け物です、ヴィクトリア様!」
屋敷の使用人が差し出した封書は、分厚く、金の箔押しがほどこされた見事な封筒だった。
ヴィクトリアは封を切ると、ぱっと目を見開いた。
「……来たわ。ついに来た!」
「なにが?」
「これよ、美咲。『王都料理大会・春の祭典』の招待状! あなたを推薦しておいたの!」
「推薦って、勝手にエントリーされたってこと!?」
「その通り。だって、今のあなたなら絶対に通用する。むしろ、勝ってしまいそうな勢いで!」
『王都料理大会』――それは、春の祝祭に合わせて行われる、帝国最大級の料理イベント。
王都の宮廷料理人、地方領主の専属シェフ、さらには冒険者ギルドの出張飯係なども参戦するという一大イベントである。
「一般参加は予選があるけど、侯爵家からの推挙なら最初から本戦。堂々と鍋を振るえるわ!」
「えぇ……私、城下の屋台料理人レベルなんだけど……」
「だからこそよ。今の帝国料理界には、“庶民の心”が足りてないの」
ヴィクトリアは拳を握りしめ、美咲をじっと見つめた。
「あなたの料理は……きっと“王都”にも届く」
◆◇◆
その日の夜、寝室に戻った美咲は、鍋の蓋を開けてぽつりと漏らした。
「大会、出るべきかな……」
「出とけ出とけ。鍋としても見てぇよ、王都の火加減ってやつを」
「軽いな……でも、嫌いじゃないよ、そういうの」
そのとき、鍋の内側に、一瞬だけ奇妙な影が映った。
仮面をつけた人影――。
「……今、誰か映らなかった?」
「……いや、気のせい……じゃねぇかもな。なんか、鍋の奥がざわついてる」
「ざわつく鍋って何……?」
美咲は額に手を当てた。だが、それは前触れに過ぎなかった。
翌日。大会の出場者一覧が届いたその瞬間――
ヴィクトリアがページをめくる手を止める。
「……この名前」
そこには、見慣れない文字列でこう記されていた。
料理人名:マスカレイド・グレイ(仮面の灰)
所属:なし/流派不明
出場資格:皇太子直轄推薦
「……この人物、王都でも“正体不明”の存在。料理大会にだけ、なぜか毎年出場している。しかも、誰も勝てていない……」
「つまり、ボス枠……!」
美咲の背に、料理人としての本能がぞわりと波打つ。
「ふっふっふ。美咲 vs マスカレイド……鍋 vs 仮面、開幕の時が近い……!」
「やる気出てきてるし」
▽ 成長ログ:美咲の料理スキル
スキル名効果備考
鍋の野望(覚醒)鍋の精霊ユヒが独自に“大会モード”へ入る発動中、味覚感度+20%、失敗耐性上昇
名声の芽料理大会など大規模な舞台で知名度に応じた補正を受ける観客の反応により効果変動
鍋の鏡像鍋に映ったものが稀に未来の敵意や魔力を映し出す精霊との信頼度で解像度上昇
▽ あとがき
今回の第8話では、新章「料理大会編」の始動を描きました。
この大会を通じて、料理×バトル×キャラドラマを強化していく予定です。
仮面のライバル“マスカレイド”も登場。彼はただの料理人ではありません。
その正体、背景、そして“美咲との接点”も徐々に明かされていきます。
次回**第9話『王都へ! 鍋と旅路と、屋台の誘惑』**では、美咲とヴィクトリアが王都へ旅立ちます。
道中イベント、旅料理、そして不穏な影も……?
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。