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第7話:鍋精霊の名は“ユヒ”




「……おい、そこの人間。聞こえてんだろ?」


朝の静けさの中、美咲は思わず頭を抱えた。


昨夜、城下の騒動を収めた後――

屋敷に戻ってから、例の鍋から何度も“声”が聞こえるようになったのだ。


「頼むから静かにして……朝のスープの味がぶれるから……」


「料理の最中こそ俺の出番だろ!」


鍋の中から、湯気と共にふわりと現れるのは――

目のようなものがついた湯気の精霊。丸く、小さく、ふわふわと浮いている。


「……あんた、名前とかあるの?」


「おう、あるとも。“ユヒ”って呼ばれてた」


「ユヒ。……鍋精霊にしちゃ、かわいすぎない?」


「ほっとけ。見た目で勝負してねぇ」


朝食の席で、ヴィクトリアもユヒの声を聞き、ぽかんとした。


「……本当に、鍋から……声が……」


「うん。どうやら“共鳴”したことで、常時喋るようになっちゃったみたい」


「礼を言っとくぜ、人間。長いこと眠ってたけど、お前の料理で目が覚めたんだ」


「つまり、美咲の料理は、精霊をも起こす魔法の味……!」


「やめて。そのキャッチコピー恥ずかしい」


ユヒによれば――


・この鍋は“癒しの炉”と呼ばれる古代道具のひとつ

・心と体を癒す“穏の精”が宿っていたが、長らく誰にも使われずに眠っていた

・“鍋に愛を注いだ者”にだけ声が届くようになっている


とのことだった。


「……でも、どうして私の世界から、こっちに来たんだろう。鍋ごと」


「それ、俺も不思議だわ。異界転移の巻き添えか……あるいは、“選ばれた”のかもな」


「いやいや、私はただのスーパー帰りのアラフォーだよ」


「その“ただの”が一番強ぇんだよ、この世界じゃな」


その日の午後、美咲は鍋とともに、屋敷の裏庭で近所の子どもたち向けにスープを振る舞っていた。

“魔鍋の女”という噂は、少しずつ“美味しいスープのお姉さん”へと変わり始めていた。


「あ〜〜、癒されるぅ……」「おかわり〜!」「ユヒー、もっとしゃべって〜!」


「うるせぇ、食ってから言えっ!」


ユヒもすっかり人気者である。


「……ふふ、あなた、本当にこの世界に必要な人だったのね」


ヴィクトリアがぽつりと呟く。


「どうだか。でも、鍋を振るう場所があるなら、私はここでいいかなって思ってる」


そう答える美咲の背後で、鍋がまた、かすかに光を放っていた。


それは、鍋と料理と心がつながった、小さな証――。


▽ 成長ログ:美咲の料理スキル

スキル名効果備考

鍋精霊“ユヒ”との常時会話ユヒの助言により、料理効果の質が上昇状況に応じて“補足解説”が入ることも

穏の共鳴対象の精神状態に応じて料理効果が変化怒り・悲しみ・不安を鎮めやすくなる

鍋語(鍋精霊語)他の精霊道具と意思疎通が可能になる(可能性)今後の出会いに影響あり

▽ あとがき

第7話では、ついに鍋に宿る精霊“ユヒ”の名前と正体が明かされました。

このユヒは、美咲の料理人生のパートナーとして、今後も一緒に物語を彩ってくれます。


次回は、王都から届く“料理大会”の招待状――

新たな舞台、新たな出会いとライバルが、鍋の火をさらに熱くします。


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