第30話:砂上の祭と、指先の誓い
砂漠の街ザラブは、夜が深くなるほど賑わった。
今日は年に一度の“砂上の祭”。
音楽隊が太鼓を打ち、剣舞が火花を散らし、街は色とりどりのランタンで埋め尽くされていた。
「……賑やかね。昼間あれだけ物々しかったのが嘘みたい」
「お祭りって、そういうものだよ。
悲しいことも、怖いことも、忘れられる魔法みたいな夜」
ヴィクトリアはそっと美咲の手を握った。
「それでも、忘れたくないものもあるわよ」
「……うん。私もそう思う」
◆◇◆
二人は露店をひやかし、踊り子の演舞を眺め、小さな籠の中で咲く砂花の香りを吸い込んだ。
「ねぇ、美咲。今日は鍋は置いてきたんでしょ?」
「うん。シレンツィアも休ませなきゃ。だから今日はただ……ヴィクと“ふたり”でいたい」
「じゃあ……今日は特別な日ね」
「え?」
「いつもは鍋とあなたと私で“3人”だったでしょう?
今日はあなたと私、2人だけの日」
ヴィクトリアが少し意地悪そうに微笑んだ。
◆◇◆
祭りの最後、ランタン飛ばしの時間が訪れた。
砂漠の夜空へ無数の小さな灯が昇っていく。
願い事を書き込んだ紙灯籠が、風に乗って遠くへ旅立つのだ。
「何をお願いしたの?」
「秘密。……でも、叶ったら教えてあげる」
「ずるいなぁ、ヴィクは」
「でも、あなたも教えてくれないじゃない」
ふたりはくすくす笑い合い、やがて静かになった。
ヴィクトリアが美咲の手を取り、そっと指先を絡める。
「……指切りしよ」
「指切り?」
「こっちでは、こうやって指を絡めて、願いを“二人で一緒に縛る”の。
ひとりじゃ叶えられないことでも、二人なら叶えられるかもしれないから」
「……うん」
二人の指がぎゅっと結ばれた。
願いの言葉はない。
でもそれはきっと――もう、互いの胸の中で同じだった。
◆◇◆
祭りが終わり、路地に戻ると、鍋の中で静かに休んでいたシレンツィアが微かに湯気を上げた。
「……見せつけやがって。ったく」
「なにか言った?」
「何もー」
美咲はヴィクトリアの肩に寄りかかる。
「ヴィクと、こうしていられるのが、私のいちばんの願いかな」
「……馬鹿。私も同じよ」
夜風が二人の髪を撫で、願いをそっと攫っていった。
▽ 絆ログと鍋の小さな変化
項目内容
絆段階SSS+(互いに心情を隠せない領域へ。精神感応が自然発動)
鍋の共鳴シレンツィアが“願いの余韻”を記録。次のスープに小さな幸福補正が乗る
レヴォニアヴィクトリアの感情を強く感じ取り、鍋の味を“恋の余熱”で少し甘くする癖がついた
▽ あとがき
今回は戦いや陰謀を離れ、完全に**“ふたりだけの日”**を描きました。
鍋のない夜は、少し不安で、少し自由で――
それでもやっぱり、ふたりが隣にいるだけで充分。




