第25話:炎の街と、鍋泥棒団の襲撃
リーヴェルの夕暮れは、いつも賑やかだった。
市場に灯るランプ、煮込み屋の湯気、道化の笛の音。
しかしその日は、違った。
爆音。
次いで、火柱。
「火事……!?」
「いや、これは――襲撃だッ!!」
通りを駆ける兵士の叫び。
市壁の上に立つ男が、豪快に笑った。
「ハッハー! 聞け、庶民ども!
俺たちゃ《焚火団》! 伝説の魔鍋を戴きに来たぜ!!」
燃え上がるリーヴェルの街角。
その中心に、美咲とヴィクトリアは立ち尽くしていた。
◆◇◆
「鍋を狙って……!?」
「ヴィク、逃げて。あの人数相手に正面からは――」
「馬鹿言わないで! 私の“家”を放り出せるわけないでしょう!!」
ふたりはすぐに姿を隠し、裏通りから対抗策を練る。
ユヒ(鍋精霊)が浮かび上がる。
「“焚火団”はただの盗賊じゃねぇ。魔道鍋ハンターだ。
鍋を奪って、精霊を抽出し、売り捌く連中だ」
「……最悪」
「けど、奴らの本命は“スープを操る心”だ。つまり、お前らふたりだ。
シレンツィアだけ盗んでも、味は再現できねぇ」
ヴィクトリアが目を細める。
「つまり、こちらが“心を揺らがせなければ”……奪われることはないってことね」
◆◇◆
戦いは始まった。
襲撃者の一人、火精魔術を操る女・ザビーナが広場に現れる。
「お前が鍋の女か。ふふ、いいわね。
ちょうど夕飯時、たっぷり“煮込まれて”もらうわ!」
ヴィクトリアが前に出る。
「あなた、鍋を“料理道具”じゃなく、“戦利品”としか見ていないのね」
「は?」
「だったら、あなたの味覚は救えない。美咲、お願い」
「うん!」
美咲は鍋に手をかざす。
「《煮沸展開・第二層》!」
鍋の中に熱の陣が走り、風と共にスープの香りが渦巻いた。
ザビーナの魔炎が近づく――
だが、香りのバリアがそれを消し去る。
「な、なにこれ……火が……封じられる……?」
「鍋には、守る力があるの。
温かいものは、人の心も包むんだよ!」
◆◇◆
戦いの末、焚火団の一部は撤退。
街の火も、スープを水源にした魔術で鎮火された。
「あなた……料理で戦うとか、意味わかんない……!」
ザビーナは、スープに包まれ、最後に一滴だけ――涙を落として、眠った。
戦いのあと、リーヴェルの住民たちは集まり、
シレンツィアの鍋にスープをよそい合った。
「……本当に、戦ったのね。鍋で」
「まあ、鍋だからね」
「笑えないわよ、ほんとに」
ヴィクトリアは、美咲の頬にそっと寄り添った。
「でも……ありがとう。私、“家”って、誰かの腕の中にもあるんだって、気づけたの」
「ヴィク……」
「次は、私が煮込む番よ。あなたの未来を」
夜の街、二人は寄り添いながら鍋を見つめた。
スープの湯気が、まるで明日へと続く光のように、夜空へ上っていった。
▽ 絆ログ更新
項目内容
鍋の進化《シレンツィア・護》:戦闘時、自動で“心防壁”を展開可能に
絆段階Sランク(精神的リンクの強化。敵の感情攻撃に対し相互防御)
新スキル《煮沸展開・第二層》:スープの蒸気で範囲魔術の一部遮断効果
▽ あとがき
今回はついに、街ごと巻き込んだバトル展開でした。
“鍋”はただの道具じゃなく、絆・想い・そして“帰る場所”の象徴。
ふたりの関係も、一歩先へ進みました。
次回、第26話『ヴィクトリアの鍋、そして初めてのスープ』
悪役令嬢が、自分の手で“誰かを温める料理”を作ります。
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