第21話:封術師の襲撃、鍋の封印を狙う影
――コポコポ、と音を立てる鍋の湯気。
それはふたりのために、野草と豆のスープを温めていた音だった。
その朝もまた、静かで穏やかな時が流れていた。
だが――不意に空気が裂けた。
「来る――!」
ユヒの怒声とともに、鍋の中から紫電の火花が飛び散る。
次の瞬間、結界がはじけ、森の樹木が根元から裂けた。
「お久しぶりね。アマギリ・美咲」
現れたのは黒衣の女魔術師。
肩までの黒髪に、黄金の瞳。手には封術の紋を刻んだ呪符。
「わたしはクレメンティア・ロス=ガルド。精霊封術師であり、“あなたの鍋”を封じに来た者よ」
◆◇◆
「鍋を……封じる?」
「ええ。あの鍋は“記憶干渉器”。異邦人の情動と精霊の契約によって成り立つ、不完全かつ危険な遺物」
「遺物……って……」
クレメンティアが放った呪符が、ヴィクトリアの肩先をかすめる。
「っ……! なにこれ、重い……!」
「精霊の加護を剥がす“封重符”。あなたの騎士たる資格も、今は通じないわ」
ユヒが鍋の中から浮かび上がる。
「チッ、今までの追っ手とは格が違ぇ。オレを“道具”として扱ってくる魔術師かよ……最悪だな!」
「ユヒ、守って……! この鍋も、ヴィクトリアも……!」
◆戦闘スキル発動!
美咲のスキル効果備考
《防沸結界》鍋の湯気による結界を展開し、魔術干渉を弱体化持続3分/鍋が冷めると解除
《調味加護:勇気のスパイス》食事済みの対象に、精神耐性とスキル成功率補正対象:ヴィクトリア
「なら……行くよ!」
ヴィクトリアが再び剣を構える。
しかし、魔術師の手から飛んだのは――“鍋封じの刻印”。
「受けなさい!《精霊封印式・銀火ノ陣》!」
呪陣が地を走り、鍋の底に火花を走らせた瞬間――
「させないッ!!」
美咲は咄嗟に手をかざし、鍋に自分の“記憶”を流し込んだ。
◆特異スキル発動:《記憶融合煮・自己防衛式》
効果:鍋と契約者(美咲)の記憶が融合し、自動的に魔力干渉を拒絶する
追加効果:鍋の「芯」に宿る精霊が覚醒状態へ遷移する
「なっ……!? 鍋の精霊が……“自我覚醒”を!?」
ユヒの身体から、熱光の翼が広がる。
「言っただろうが……! この鍋は、ただの鍋じゃねぇんだよ……!」
炎の奔流がクレメンティアを押し返す。
彼女は呪符を振り払って後退する。
「ふふ……面白い。やはり、あなたは“あの遺構の娘”だったのね」
そう言い残し、彼女は闇へと姿を消した。
◆◇◆
「はあ……はあ……助かった……?」
「ギリだな。だがアレ、また来るぞ。完全に“追う対象”と認識された」
ヴィクトリアが倒れ込む美咲を抱きとめる。
「怖かったら……置いていっていいよ……私」
「バカ。私は一度も“あなたを背負ってる”なんて思ったことない。
あなたは、私が“隣にいてほしい”と思った人なんだから」
ふたりの手が、またそっと触れ合った。
その中には、恐怖もあった。けれど――確かな温もりがあった。
▽ スキルログ更新
スキル名効果状態
記憶融合煮・自己防衛式鍋と美咲がリンクし、精神的防御を共有発動条件:強い感情を介した精霊の共鳴
鍋精霊ユヒ(覚醒段階1)自我発動による言語・戦闘介入の拡張次回、名称変更イベント予定あり
▽ あとがき
ついに“鍋”そのものが狙われるフェーズへと突入しました。
敵はただの追手ではなく、“精霊の歴史”と国家機密に関わる封術師――
しかも美咲の過去とも関わりがありそうです。
次回は、第22話『風祭の村と、鍋の名前』。
ふたりはようやくたどり着く“精霊の村”で、鍋の真名と、ユヒの過去を知ることになります。
【いいね】【評価】【フォロー】が、鍋の火を絶やさぬ灯となります。
引き続き、どうぞ応援よろしくお願いいたします。




