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第2話:スープの香り、誤解をほどく匙



「この鍋で、私の体と心を癒す料理を作れ、と?」


少女――いや、ヴィクトリア令嬢は剣を構えたまま、美咲をまっすぐに睨んでいた。

その瞳には猜疑と緊張、そして微かな期待が混ざっていた。


「いきなりそんな無茶振りされても……」


美咲はひとつ息を吐く。

確かに、異世界だろうと料理をするのは慣れている。だが、調味料も火も、何もない状態で?


(……いや、ある)


足元には、乾いた小枝と枯れ葉。

ポーチには、非常用に忍ばせていた塩とコンソメの粉末――。


「やってやろうじゃないの……。私の鍋で、人ひとり救うくらい、なんでもないわ」


美咲はしゃがみ込み、手早く火を起こし始めた。


「ほう……火まで操るのか。やはり鍋の力……」


「いや違うから!これは“着火剤”ってやつ!文明の利器!」


慌てて否定するが、ヴィクトリアはどうやら“異世界の常識”を信じていない。


美咲は鍋に湧いた湯へ、森で見つけた根菜らしきものと、干し肉を小さく切って加え、コンソメの粉を少し落とす。

やがて、ぐつぐつと沸き立つスープから、滋味深い香りが漂い始めた。


「……この香り……これは、癒し……?」


ヴィクトリアは鼻をひくつかせる。

その様子はまるで、空腹を我慢する子犬のようで、思わず微笑んでしまう。


「召し上がれ。これは“コンソメスープ”っていうの。……魔鍋の力なんかじゃない、ただの家庭の味よ」


美咲は差し出した木の器を、そっとヴィクトリアの前に置いた。


しばしの沈黙のあと――ヴィクトリアは、そっと匙をとった。


「……あつっ……でも、やさしい……」


小さな声でそう呟いたヴィクトリアの表情が、次第に緩んでいく。


その瞳には、警戒も疑念もない。

ただ、体の奥まで染み込んでいくスープの温もりに、戸惑っている少女の姿があった。


「……誤解、だったのかもしれない……。あなたは、本当に料理人……なのね」


「うん、まぁ。できれば、いきなり“魔鍋使い”とか言われない世界で生きたかったけどね……」


ふたりは、ぽつぽつと火の明かりの下で話し始める。


そして、美咲は気づいた。

この世界には、“ごはんを一緒に食べる”という、何よりも強い魔法があると――。


▽ 成長ログ:美咲の料理スキル

スキル名効果備考

異界の鍋使い(仮)素材の持つ癒し効果を高める使用回数によって派生スキルあり

火起こしの知恵自然素材から安定した火を作る火の精霊親和に影響

食事会話(潜在)同じ食卓についた相手と信頼度が上がる会話によって追加効果派生あり?





▽ あとがき

ご覧いただきありがとうございます。

第2話では、美咲が異世界での“第一歩”を鍋で踏み出すお話でした。

料理を通して誤解を溶かす展開は、今後もこの物語の軸になります。


引き続き、悪役令嬢とのちょっとずつ縮まる距離と、鍋をめぐるあたたかな交流をお楽しみいただければ幸いです。


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