第19話:帝都追放令、そして逃避行の朝
王都政庁、深更。
暗い回廊に、ひとつの令状が打ち付けられる音が響いた。
「アマギリ・美咲、追放」
署名:帝都宰相官邸/枢密院七将連名。
罪状:王家の機密“記憶封印”に関与し、未許可で精霊を従える行為、および上級貴族への感情操作の疑義。
静かな圧力が、美咲の背に忍び寄る。
「……追放……?」
美咲は唖然とした顔で、枢密官の言葉を聞き返した。
「あなたの存在が、帝都の秩序を乱していると判断された。正式な手続きは取られる。処罰ではない、“措置”だ」
その言葉は冷たく、無機質だった。
美咲がどれだけ癒しをもたらし、心を救ったとしても、
それは“上層にとって都合の悪い真実”を明かすものでもあった。
◆◇◆
「……許せない……ッ!」
ヴィクトリアが拳を握り締めた音が、書斎に響く。
「美咲は、誰も傷つけていない。料理を作って、心を救っただけなのに……!」
その怒りは、幼き日より冷静さを叩き込まれてきた彼女には、初めてのことだった。
そして――
「美咲を、私が“連れて出る”。帝都なんて、いらないわ」
◆◇◆
夜明け前。
二人は、人目を忍んで帝都南門の裏道へと向かう。
馬車には最小限の荷物と――鍋一つ。
「本当にいいの? あなたまで帝都を捨てることになる」
「“捨てる”んじゃない。“離れる”だけよ。あなたと一緒に」
美咲はふっと笑い、鍋を両手で抱きしめる。
「ありがとう、ヴィクトリア。……この鍋は、あなたと出会えて、ずっと“満たされてる”気がする」
「その鍋、私も大事よ。あなたがくれるごはんは、私にとって“帰る場所”だから」
言葉ではなく、瞳が全てを語っていた。
◆◇◆
しかし、帝都はそれを許さない。
出発直前――
「アマギリ・美咲、王都外への移動を禁ず。逮捕状を発令せよ!」
騎士団が門前に集結。
先頭には、またしてもイレーネ=ヴァン=エルミナの姿があった。
「令嬢、引いてください。命令には逆らえません」
だが、ヴィクトリアは――剣を抜いた。
「“守りたい料理人”がいるの。命令より、私の心のほうが大事」
美咲の背に立つヴィクトリアは、騎士団を見据えて、叫ぶ。
「彼女は私の料理人で、私の友で、私の……」
そこまで言って、言葉が詰まった。
だがイレーネはその姿を見て、ふっと目を伏せた。
「……勝てませんね、あなたには。貴女が選んだ料理人、どうかその鍋で“世界を変えて”ください」
◆逃避行ルート:ヴィクトリア・同行確定
項目内容備考
旅の目的地離宮跡地/辺境の精霊村/砂漠の風食の祭殿などランダム分岐鍋のスキル進化フラグが多数あり
ヴィクトリアの立場帝都との断絶、エルミナ家の継承権停止今後、王家・反体制派との接触可能性あり
関係深化イベント発生二人きりの生活、記憶を巡る料理イベント恋愛イベント分岐または運命選択発生予告
▽ あとがき
美咲とヴィクトリアの関係が、ついに帝都を超えて“逃避行”という舞台へ広がりました。
この章では、信頼、葛藤、そして恋に近い感情がゆっくりと進行していきます。
次回は、第20話『旅の鍋と、二人だけの朝食』。
追われる中での、束の間のやすらぎと、新たな旅の始まりを描きます。
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