第18話:暗闘の予兆、封じられし炎
「――ヴィクトリア様、どうかお考え直しを」
そう言って、美咲たちの前に現れたのは、
エルミナ家の分家筆頭にして、“王都の火”と異名をとる女騎士だった。
名を、イレーネ=ヴァン=エルミナ。
燃えるような赤髪をひるがえし、まっすぐにヴィクトリアを見据える。
「あなたが“鍋の巫女”とまで呼ばれる異邦人と深く関わることは、エルミナの名に泥を塗る行為。私にはそれが許せません」
ヴィクトリアは一歩も引かず、毅然と答える。
「美咲は、私の“命の恩人”よ。料理で心を救ってくれた人。……家の名よりも、大事な人」
その言葉に、美咲は思わずヴィクトリアを見つめるが――
イレーネの双眸には、煮え立つような嫉妬の炎が燃えていた。
「……では、その“信頼”、本当に確かなものか。料理人としての力だけでなく、“人”としての信頼に値するのか。試させていただきます」
◆◇◆
三日後――
王宮主催の仮面晩餐会《偽面の祝夜》にて、美咲とイレーネの料理対決が急遽決定された。
テーマは「他者の想いを込めた一皿」。
「他人のために料理を作るのは得意だけど……“勝つため”に作るのは苦手かも」
「美咲、あなたは戦うためじゃない。誰かのために、作ることができる。それがあれば、きっと大丈夫よ」
ヴィクトリアがそっと手を握る。
だが、美咲の視線の先――
舞踏会の陰、仮面の女貴族たちが美咲を睨んでいた。
「異邦人が、公爵家の後継者と特別な関係だなんて……」
「“鍋ひとつ”で貴族社会を這い上がろうとするその姿、癪に障るわね」
「ヴィクトリア様を射止める気……?」
人々のささやきが、嫉妬の罠となって、じわりと美咲を締め上げていた。
◆◇◆
決戦の時。
イレーネは、エルミナ家代々に伝わるレシピ“紅蓮のビーフコンソメ”を披露。
美しい、しかし火のように強い味。口の中で支配される圧倒的な濃度。
「これは……王都でも名を轟かせた伝説の一皿……」
「だが、どこか冷たい。……味は熱いのに、心に届かない」
そして、美咲は鍋を手に、静かに火を入れた。
素材は、ヴィクトリアの好物である**“淡水カボチャと小麦団子”**。
昔、彼女の亡き母が作ってくれた“夜のおやつ”だという。
《スキル発動:記憶再煮》
食べた者の“受け取った愛情”を呼び起こすスープを作る
「これは、“おやすみ前のあたたかいスープ”です」
香りがふわりと舞い、観客が目を細める。
ヴィクトリアがスプーンを口に運ぶ。
「……っ……母の……母の味……っ」
涙がぽろりとこぼれた。
イレーネは立ち尽くす。
「なぜ……なぜ“貴女”が……ヴィクトリア様の、大切な記憶に触れられるの……?」
美咲は静かに、鍋を見つめて言った。
「料理って、相手のことを知りたいって思う気持ちの証明なんです。
私は、ヴィクトリアを知りたい。だから、料理を作り続けるだけ」
その瞬間、鍋の湯気が優しく揺れ、観客から自然と拍手が沸き起こった。
▽ 絆進化ログ:美咲とヴィクトリア
| 項目 | 内容 | 備考 |
| ---------------- | --------------------------- | ---------------------- |
| 絆ランク:A+ | 感情共有のレベルが深まり、共闘時の精神支援が可能に | 愛情と信頼に基づいた料理効果の強化発生 |
スキル: | 特定の人物との“共有記憶”をもとに特化料理が生成される | 今後、恋愛イベント分岐に影響を持つ重要スキル |
▽ あとがき
今回は、ついにヴィクトリアを巡る“外部からの嫉妬”と“貴族社会からの圧力”を描きました。
イレーネというキャラは今後も登場し、美咲への感情が“対立”か“共闘”か分かれる運命になります。
また、ヴィクトリアとの絆がついに深度を超え、物語の新しい扉が開きました。
次回、**第19話『帝都追放令、そして逃避行の朝』**では、
“鍋の真実”を恐れた帝国が、美咲に“追放”という処分を下します。
だが、ヴィクトリアは――彼女の手を、離さない。
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