第17話:罪と祝宴、鍋の向こうで笑うもの
「……あの鍋の中に、帝国が封じた“罪”があったなんてね」
静かな庭園の噴水前。
月明かりの中、ヴィクトリアは美咲の隣で、そっと手を添えていた。
「私、ずっと思ってたの。あなたの料理は、あたたかくて、優しくて……だけどそれ以上に“深い”って」
「……料理って、こんなに人を壊すものだったんだね。知らなかった」
「壊したんじゃないわ。揺らしただけよ。あの人たちの心が、あなたのスープに反応しただけ」
美咲は小さく笑った。
「慰め上手だなぁ、ヴィク」
「違うわ。私は本気。あなたが震えてるなら、私がそばにいるだけ」
その言葉に、心の底がじんわりとほどけるような気がした。
◆◇◆
翌日、ヴィクトリアはある場所へ美咲を連れ出した。
王都近郊の丘にある、古い孤児院。
「私の母が、子どもの頃にここで育ったの。戦争で、全部失ったあとにね」
「……そうだったんだ」
「私がこの鍋とあなたを信じてるのは、理由があるの。
あなたの料理は、私が知らなかった母のことを、少しだけ感じさせてくれたの」
ヴィクトリアは鍋に目を落とし、そっと言った。
「あなたが作る料理の中には、“大切なもの”が溶けている。それは、私にはない……たぶん、帝国にもない」
「でも、あったかもしれないんだよ。昔はきっと、みんな誰かのためにごはんを作ってた」
「……ねぇ、美咲。これからも一緒にいてくれる?」
「当たり前でしょ。私の料理は、あなたが食べてくれないと完成しないんだから」
ふたりは笑った。
手のひらが、ふと、指先だけ触れ合ったまま離れなかった。
◆◇◆
その夜、再び鍋を火にかけたとき――
「……おう、バカップル。こっちは見えてんだぞ」
「黙ってろユヒ!」「やかましい鍋!」
「こちとら爆発しそうなんだよ!こっ恥ずかしさでな!!」
美咲もヴィクトリアも顔を赤らめながら、笑い合った。
だが――その裏で、帝国中枢では“彼女たちの動き”が監視されていた。
◆闇の動き:宰相派密使の記録
『鍋を封じるべし。スープの香りは“罪を呼び戻す”。
アマギリ・美咲とエルミナ令嬢の関係は要注視。
鍋精霊ユヒの存在、すでに“神話体系”に近似。』
▽ 成長ログ:美咲とヴィクトリアの絆
項目内容備考
絆ランク:Aお互いに心の傷を理解し支え合える関係に戦闘時の支援効果が上昇
特殊スキル:《共鍋反応》ヴィクトリアが見守る中で作る料理は必ず“精神回復効果”を付与感情干渉・混乱解除にも対応
イベント発生フラグ将来的に“絆”を起点とした重大選択イベントが発生恋愛・共闘・別離など分岐の鍵に
▽ あとがき
第17話では、重くなりがちだった帝国の陰謀に対して、
ヴィクトリアとの関係にフォーカスを当て、あたたかい時間と“心の救済”を描きました。
ただし、陰は着実に忍び寄っています。
鍋の力、精霊の真価、そして“美咲という料理人”を、帝国が放っておくはずがない――
次回、**第18話『暗闘の予兆、封じられし炎』**では、ついに美咲が“追われる者”となります。
それでも彼女は、鍋を手放さず、食卓を守るために立ち上がる。
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