第14話:スープに宿る記憶、貴族たちの陰謀
「ユヒ、あの公爵……何か、知ってるよね?」
夜の屋敷、窓辺に鍋を置いて美咲が問うと、湯気の中から小さな影がふよふよと現れた。
「ああ、確かにな。あいつ……鍋の精霊のこと、半分くらい知ってる」
「精霊のこと? つまり、私の鍋に宿ってるってことも……?」
「うすうすな。たぶん、“あの事件”を知ってる」
「事件?」
ユヒは珍しく黙った。だが、その沈黙は重かった。
「……鍋に宿る精霊は、かつて“戦乱”のなか、国家に利用されていた」
「鍋を通して感情を操り、兵士の心を統制したり、貴族の記憶を封じたり……」
「それって、料理じゃなくて……」
「魔法だよ。でも、料理という“形”を使えば、誰にも気づかれず心を変えられる」
美咲は、静かに鍋に手を当てた。
「だから、あのスープには“温もり”が必要だったんだね……」
◆◇◆
その翌日。
王都では、“料理大会第二ラウンド”の前哨として、「貴族試食会」が開催された。
格式高い貴族が集まり、参加料理人の腕を“政治的に”測る非公式イベント。
「公の競技ではないからこそ、怖いのよ……」
ヴィクトリアは囁くように言った。
「ここで“誰に評価されるか”で、王宮での扱いも変わる。しかも、貴族たちは美咲に注目してる」
その視線の先、貴族のひとりが声を上げた。
「アマギリ嬢。我が家の料理長の“魂のコンソメ”を食してみては?」
「……ええ、もちろん」
出されたスープは、完璧だった。
黄金色の透明なコンソメ。香り、塩加減、すべてが“教科書通り”。
けれど――
「……冷たいですね。味じゃなくて、“心”が」
会場にざわめきが走る。
そして、美咲は自らの鍋を火にかけた。
使う素材は、昨日仕入れた城外市場のありふれた野菜。
けれど、その皮も根も、無駄にせず、コトコトと丁寧に煮込んでいく。
《スキル発動:回想の匙》
| 効果:食べた者が「過去の家族の食卓」を追体験する |
| 条件:素材と記憶に共鳴があること |
「これは、“日曜日のスープ”と呼んでいます。
ただの具沢山のポトフですが、母の味です。……料理人の、原点です」
一口。
貴族の老婦人が、スプーンを口に運ぶ。
「……あら……これは……昔、実家で……母が……作ってくれた……」
手が震え、涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「……この味は……料理ではなく、“家族”の記憶……!」
《スキル発展:記憶解放(鍋精霊共鳴)》
特定の記憶に強く結びついた味を媒介に、感情の“封印”が解除される
政治的記憶すら断片的に浮かび上がる場合あり
そのとき――
「やめろ!」
貴族団のひとりが立ち上がった。
若い、冷たい目の男。セレスト公爵の側近、ルイ・グラント。
「その鍋……記憶を操作している! 危険だ!」
「違います。私は記憶を“戻した”だけ。……料理で癒したんです」
「……その鍋は、かつて“帝国制御鍋”と呼ばれ、暗部に封印されていた遺物だ。触れる者は記憶に呑まれる」
「……!」
観客がざわつくなか、セレスト公爵が現れる。
「落ち着きたまえ、ルイ。……君の言い分は分かるが、我々がすべきは恐れることではない」
そして、公爵は美咲に近づく。
「君の鍋には、古の精霊《ユヒ=スプネール》が宿っているのだろう?」
「……どうして、それを……?」
「私は、“かつて君と同じ鍋を持ち、同じ声を聞いた者”の末裔だからだよ」
▽ 成長ログ:美咲の料理スキル
| スキル名 | 効果 | 備考 |
| ----------- | ----------------------- | ----------------- |
| 回想の匙 | 食事を通して“家族や記憶”を呼び起こす | 精神治癒・懐古効果大 |
| 記憶解放(鍋精霊共鳴) | 精霊ユヒと同調し、心の封印を解く | 政治的な“真実”にも触れる危険あり |
| 精霊認識(外部) | 鍋精霊を知る者には、美咲の料理が“特別”に映る | 新展開・精霊同族の登場フラグ |
▽ あとがき
いよいよ鍋の過去と、帝国の“料理による記憶支配”の闇が浮かび上がってきました。
セレスト公爵は美咲の“共鳴者”として新たな側面を見せ始め、ユヒの正体も明らかになりつつあります。
次回はついに明かされる“鍋精霊の本当の名と使命”、
そして美咲が料理人としてだけでなく、“人の記憶をつなぐ者”として新たな役目を得ることに――
次回**第15話『鍋精霊の真名と、封印された宴』**もお楽しみに!
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