第1巻 第5章 - 法が沈黙する時、正義は血で書かれる
序文
闇は多くのものを隠してしまう。夜の足音、犠牲者の震え、裁きを下す者の手に握られた鋼の冷たさ。法が無力であり、正義の言葉が虚無に沈む場所では、残されるのは血のみだ。この物語は英雄や悪党についてのものではない。それは光が消え、影が声を帯びる境界に立つ者たちの物語だ。かつて失った光のために影となった者たちの物語である。
夜の通りは、わずかな街灯にしか照らされておらず、少女を路地の迷路へとさらに深く誘い込んでいた。彼女のヒールがアスファルトに神経質なリズムを刻み、心臓が胸の中で激しく鼓動していた。背後に誰かの視線を感じていた。
背後の足音が速くなった。彼女もまた。
追跡。
少女が角を曲がった瞬間、救いではなく立ちはだかったのは行き止まりの壁だった。振り返ると、そこには中年男が立っていた。獰猛な笑みを浮かべた男が一歩踏み出す。彼女が叫んだ瞬間、男の手が素早く彼女の口を塞いだ。
「一言でも声を出したら、切り裂いてやる」と彼は冷たく刃を彼女の喉に押し付けながら唸った。
服が引き裂かれ、酒臭い息が彼女を襲う。少女は逃れようともがいたが、力の差は歴然だった。男が彼女の下着に手を伸ばしたその時――
カチリ。
何か冷たいものが男のこめかみに突きつけられた。男は凍りついた。
「立て。服を整えて、消えろ」と冷徹な声が響いた。
少女は勢いよく首を振った。暗闇の中、高い人影が立っていた。手に持つ銃が男の頭にしっかりと押し付けられている。男の目に恐怖が宿った。
「早く」と声が再び命じた。
震える手で服を引っ張り、鞄を掴んだ彼女は、救い主を一瞥することもなく走り去った。
路地に残されたのは、二人だけとなった。
「お願いだ…やめてくれ…何でもする…」男は手をゆっくり上げながら泣き声を上げた。
銃声。
弾丸が膝に命中し、暴漢はアスファルトに倒れ、痛みで吠えた。
「くそっ…何だ…何が欲しいんだ?! 話し合おう…」
二発目の銃声。
股間。
男の叫び声は一瞬、路地の壁すら震わせるほどだった。
人影は微動だにしなかった。
「や…めて…お願い…」
男の声が途切れた。
見知らぬ男は首を傾げ、平板な声で言った。
「お前の慈悲は死だ」
三発目。
闇が再び通りを飲み込んだ。見知らぬ男は銃を仕舞い、硝煙の匂いと法が果たせなかった正義を残して夜に溶けた。
地下鉄がトンネルを疾走し、窓外の灯りが断続的な帯となって顔を滑る。車内には見知らぬ人々。読書する者、居眠りする者、スマホを救命具のように握り潰す者。
彼はただ窓を見つめている。
だが、そこに映るのは――反射ではない。
過去だ。
夏。
太陽が高く輝き、空気は熱せられたアスファルトと咲き誇る木々の香りに満ちている。
彼女が笑い、くるりと回り、彼の手を引く。
「遊ぼうよ!」
彼女はいつも光だった。彼の太陽だった。
「大きくなったら、私があなたを守るよ」
彼女は笑って彼の髪をかき乱す。
「ばかね」
彼は二人がずっと一緒だと信じていた。
だが、ある日、彼女は帰らなかった。
雨。
母の嗚咽。
警察官の灰色の顔。
空虚な言葉。
二日後、彼女は見つかった。
壊され、踏みにじられて。
医者は「すぐに死んだ」と告げた。
嘘だった。
彼女は戦った。
爪を立て、噛みつき、もがいた。だが、相手が強すぎた。
骨を折られ、歯を叩き落とされ、喉を締め上げられて喘ぎ、震えながらも諦めなかった。
そして…その後、男はナイフを取り出した。
犯人は逃げおおせた。
だが、似顔絵が残った。
豚のような脂ぎった顔。
ネズミのように近い目。
垂れ下がった二重あご。
薄くまばらな髪。
いつも半開きの口、灰色の歯。
汚物。
腐臭を放つゴミ袋。
それでも、彼は生きていた。
年月が流れた。
彼女を守れなかった…
でも、他の人を守る
そして、彼はそいつを見つけた。
地下室。
暗く、湿っている。
カビと錆、恐怖の臭い。
犯人が意識を取り戻す。
縛られた手。
コンクリートの床。
掠れた、途切れそうな声。
「何…何が起きてるんだ?!」
カチリ。
金属が皮膚に突き刺さる。
ゆっくり。
滑らかに。
叫び声。
「彼女を覚えてるか?」
「お前は誰だ?!」
答えはない。
新たな切り傷だけ。
「晩秋。狭い通り。彼女は戦った」
犯人が固まる。
目に理解らしきものが一瞬よぎる。
「俺は…俺は…」
カチリ。
爪の下に金属。
抉り出す。
引き抜く。
男が叫ぶ。
「お前は怪物だった。今も怪物だ」
バキッ。
腕を折る。
関節をねじる。
指を逆へと曲げる。
犯人は涙に咽ぶ。
「もう…やめてくれ…神のために…お願いだ…」
「彼女もそう頼んだ」
さらなる切り傷。
次に二つ目。
数時間の責め苦。
皮膚を一枚ずつ剥ぎ、歯を引き抜き、タバコで瞼を焼き、目を閉じさせない。
犯人は譫言を吐き、祈り、吠える。
彼はただ耳を傾ける。
そして写真を取り出す。
それは清らかだ。
そこにいるのは彼女。
生きて、笑っている。
写真を近づける。
「見ろ」
犯人は嗚咽に詰まる。
「彼女はお前を見ている」
「彼女はお前を覚えている」
くぐもった銃声。
静寂。
地下鉄が減速する。
彼は瞬き、現実に戻る。
降りる時間だ。
手をポケットに突っ込み、彼は群衆に紛れて消える。
前には――新たな狩りが待っている。
局長は重厚な木製の机に座り、指を組んでいた。顔には集中した表情が浮かび、疲労と苛立ち、そしてマリには読み取れない何かが混じっていた。
机の上には薄いフォルダーが置かれていた。彼は無言でそれを中央に滑らせ、内容を開いた。
似顔絵。
恐ろしいほど詳細に描かれた白黒のスケッチ。30歳ほどの男。美しいが冷たい顔は、まるで石から削り出されたよう。高く尖った頬骨、鋭い顎のライン。薄く固く結ばれた唇は、滅多に笑わない者のもの。そして目…空虚で無慈悲、獲物を追う捕食者のよう。
暗い髪から、一筋の銀髪が際立って飛び出し、他の髪と鮮やかに対比していた。髪は少し乱れていたが、その無秩序さは自然で、ほぼ意図的な美しさがあった。
「こいつだ」と局長がついに口を開いた。声は平坦だったが、その裏には重みが潜んでいた。
九条が椅子の背にもたれ、腕を組んだ。
「134の死体…」と彼は静かに呟き、首を振った。「ミス一つもない」
ステファンが身を乗り出し、似顔絵の顔を凝視した。
「特定のタイプを殺してる」と彼は考え込むように言った。「殺人鬼、変質者、強姦魔。死に値する連中だ」
「だが、殺してる」と局長が厳しく付け加えた。「法はそれを許さない」
マリは黙っていた。彼女はその絵を、空虚な目を見つめていた。彼は誰だ? 怪物か? 救世主か? 裁く者か?
彼女は息を吐き、フォルダーを手に取り、報告書に再度目を走らせた。
「見つけ出す」と彼女は静かに言い、ファイルを閉じた。
重く圧迫する沈黙が部屋に漂った。
「見つけて…その後どうする?」とステファンが局長を見ながら小さく尋ねた。
局長はゆっくりと手を机から離し、再び似顔絵に目をやり、言った。
「その先は…どうするか決める」
ポストスクリプト
次の章で、ペドファイル殺しが本当はどのような存在なのかが明らかになります。