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XX7.顕現

お読みいただきありがとうございます。

8/10追記:九月二十八日を九月二十九日に変更しました。


 十月三日


 そういえば、ヒッパソスってスマホは持ってるみたいだけど使ってるところあんまり見ないな。使ってるって言っても土日くらい。まあ、平日は学校に行ってしまっているから知らないが。

 ていうか、ヒッパソスって僕が学校にいる間何をしているんだろう?時々図書館から本を借りてくる事があるが、本を読むだけで一日が全部潰せるとは流石に思えない。

 今日も、その図書館に行く日だったらしい。

「じゃあちょっと行ってくる」

「いってらっしゃい」

 お昼ごはんを食べてすぐ部屋に戻る事もなく家から出ていってしまった。

 なんか、ヒッパソスもこの家に馴染んできた、というよりこの街に馴染んできたな。...ちょっと、馴染みすぎていないか?

 その後リビングで家族でダラダラしていたら月曜日までの課題がある事を思い出した。今日は土曜日だから今日と明日でやらないと...

 今やろうか。明日まで待ってもやる気は出ないだろうな。別に好きでもない社会のレポートだからなおさら。

 暑さも和らいできて、もう部屋に入っても冷房は必要なくなった。暑くても扇風機で十分だな。半分くらいまで埋めてあったレポート用紙を広げようとして気づく。

 ...あれ、スマホ忘れていってる...?

 机の上に黒いカバーをつけたスマホがほっぽってある。ヒッパソスのものだ。ど真ん中に自信を持って置かれてるもんだから気付かないわけには行かない。ベッドの上にどかそうとすると勝手についてしまった。持ち上げると反応するあれだろうか。

 ―ん?

『Gotcha!』

 一時間前、LINEの通知が来ていた。その相手は...

『Johns』

 彼だった。

 なんだ。別に不思議じゃないだろう。僕だってつないでいるし。まあ、ずっといっしょにいるようなものだからほとんど必要はない...一時間前?

 一時間前ならお昼を食べる前だ。家にいるんだから、メッセージでやり取りをする必要なんてあったのか?『Gotcha』だから了解と言っている。てことは、この前にも何かしらの会話があったはずだ。...でも、目的があってもなくても勝手に人のスマホを見るのはあれだろう。そもそもバレたら困るし、やめておこう。

 その時だった。また通知音が鳴り響き、画面に表示されたメッセージに対しては僕は目を疑うしかなかった。

『Still, I feel sorry. I hate Tau because he was a terrible bully.』

 ...え?



 九月二十九日


 ...これは、タイスケの字だ。

 角張った一つ一つの文字。入学してから今に至るまで、いろんな場面でクラスメートの字を見てきた。タイスケはクラスで目立つ存在だからタイスケの字はより記憶に残っている。雰囲気とは裏腹にきれいな字だなと思っていたからすぐにわかった。

『バカ』

『クズ』

 一つ一つ、幼稚な悪口の羅列だった。

 これは...いじめ...?

 数ページおきに、水性ペンのようなもので書かれている。大小バラバラ、乱雑に配置された言葉の数々が脳に突き刺さってくる。確かに、これなら持って帰れるはずがなかった。家で取り出した瞬間、誰かに見つかってしまえばすぐにバレる。被害者という事が。

 なんで...?

 タイスケは仲が良い友だちではない。あくまでクラスメートであり、それ以上の関係ではない。でも、いつもある明るくクラスの中心人物という印象からの落差でショックが大きかった。

 でも、言われてみれば心当たりがあるかもしれない。運動会。あのとき誰も何も言わなかったのは裏で叩くためだったのだろうか。いじめがバレないための表面的な明るさだったとでも言うのだろうか。練習のときからずっと、気に入らないという理由だけでワカバの事を蔑んだ目で見てきたのではないだろうか。

 それも、数学というワカバが愛してやまないものがあるから。そのすべてを、ワカバを苦しめるための"口実"にしてきたんじゃないか?

 ...知ってしまった以上忘れる事はできない。忘れる事は許されない。タイスケを許す事はできない。

 ワカバは、まだきっと友達だから。

 ―これは、いじめだ。

 タイスケがしている事。他にもなにかあるんじゃないか。

 いろんな事を思い出したら突然一人でここにいるのが怖くなってしまい、とりあえず今日は帰る事にした。そもそものタイムリミットも迫っているから。


 家が近づいてきてから、気付いた今日職員室に向かえなかった事を後悔した。

 第一、これがいじめと決まったわけでもないし、ワカバが何を望んでいるのかもわからない。もしかしたら、ただの悪ふざけかもしれない...それは、ないか。

 でも、俺だと憶測でいろいろな事を口にしてしまうかもしれない。考えてみればこれらもすべて現実から逃れるための口実であった。

 ただその口実が正しいとされるならば、俺が今誰かにワカバの事を相談するのも認められない。その相談相手が友達だったりしてしまったら噂となって広がってしまう可能性も否めなくなる。

 学校で考えていた事の続きをドアの前でまた描いていく。

 そういえば、この本は川田に貸していたんだ。

 そう、川田に貸していたはずだ。

 あの本がもともと持っていたものと同じなら、本来川田から返されるはずだ。なのに、タイスケの文字があった。あれがタイスケが書いたと決まった訳では無いが―

 じゃあ、もしかして川田もタイスケといっしょに...

 ...英太?

 英太がこの前渡してきた小さい段ボール。あれってもしかしてあの本が入っていたのか?確かに、重さがそんな感じがしたかもしれない。そうすれば時系列的にも辻褄が合う。

 でも、俺は中身の事を知らなかったように英太も知らなかったのだろう。タイスケか川田から渡されたものをそのまま俺を経由してワカバに渡しただけ。怪しまれないよう、"先生から"という情報を英太に注ぎ込んだ。ワカバが先生とその事で話をしてしまったら元も子もないが、ワカバが自分から気さくに先生に話しかけられるわけがないと踏んだのだろう。

 そもそも、英太がいじめている側だったとして、誰かに見られてはいけないものをその誰かに託すだろうか。もっと言えば俺はワカバと仲が良いから、余計に困るのではないか。

 やっぱり、英太は何も知らないのだろう。そうでないと筋が通らない。

 という事は怪しいのは川田とタイスケだった。

 ...俺は、明日からどうすればいいだろうか...

 先生に話すなら放課後の方が良い。他の生徒がいると困るからだ。

 でもその前に―

 暑いからいい加減家に入る事にした。ただいまと叫び気味の大きな声で言うとリビングにも聞こえたようで、母のおかえりが返ってきた。二階の部屋まで言ってバッグを置いてから下に降りる。肩が軽くなったが頭は重いままだ。

 ―川田と話してみたい。

 これまで、誰かから見た印象に振り回されていたが実際に会ってみると意外といい人だったという事が何回もあった。川田に関しても、絵梨花からの印象からの想像はそこまで良いものではなかったが本当は違うかもしれない。

 ワカバに対しての行動が想像通りなら、それがひっくり返る事はないと思うが。

久しぶりに有出てきました。

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