26.中身
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九月二十九日
絶対におかしい。
最近ワカバが遅刻して学校に来る事が増えたし、帰るときだって不自然なくらい足早に出ていく。できる限り、長い時間学校にいたくないと思いを表面的にも感じる。喋るところも全然見ないし、内側の思いが行動として現れているような気がする。
そこまではまだわかる。いくら誰かと会話をかわさないとはいえ、学校にいて周りに人がいる以上ストレスは感じたっておかしくない。というより、人と話さない事自体がストレスになりやすいと思う。
...ただ、やっぱりなにか違うのだ。
しばらく眺めていて、やっぱりワカバから放たれているオーラはどこか周りと違う。立ちふるまいから何から何まで、明らかの周りとなにか違う。暗すぎる。
なにより、昼休みに教室にいる事がなくなったのだ。
憶測ではあるが、ワカバには申し訳ないが、あのワカバが、外で誰かの遊ぶなんてしていないと思う。しているはずがない。外で楽しく遊ぶなんて姿想像する事もできない。一学期は、ずっと教室にいたのに。
かといってどこに行ったのかは知らないが...
だから今日の昼休み、給食が終わって片付けた後すぐにワカバがその"どこか"へ行ってしまう前に呼び止めようとした。
「ワカバ、」
...でも、まるで気付かなかったかのように、何も感じなかったかのように、出ていってしまった。振り返りもしない。なんの反応も返ってこなかった。
無視...?
時間がとまったみたいだった。まだ教室には人が多い。ドアの近くにいたら邪魔になりそうだったから、そのままどくしかなかった。
え、どうして?
あとになったらきっと思う。なんで、追いかけようとしなかったのか。でも今に限っては、もうどうしようもないと信じる事しかできなかった。
だって、追いかけるべきだったんなら、俺がワカバを見捨てた事になるから。
嫌われた...?
頭の中は強い衝撃で埋め尽くされ、それ以外何も考える事ができなかった。クラスで一番仲が良かったというところからのショックでもはや体が軽くなったように感じる。教室にいないじゃない、いたくないのなら、俺の事を避けていると言っているようなものだ。 失意のままドアから離れるが、どこへ向かっているのかわからなかった。
明日もこうなるのだろうか...
理由はわからずとも、少し時間が経ってからそんな恐怖が現れる。
すると、ワカバの机が目に入った。どこか気になって、少ししゃがんで中を覗き込んでみた。中には教科書やノートは入っていない。ただ、何かが入っていた。
これ...
だめだ。今はみんながいる。勝手に見たらどう思われるかわからない。
すぐに立ち上がった。ただその一瞬の景色は鮮明で、絶対にそうだったように思える。
え、なんで?
自分の記憶と噛み合わない。...というか、もはや、それならワカバがあんな感じなのと矛盾する気がする。おかしくないか?
いや、もしかして...
嫌な言葉が浮かんできてしまった。想像を広げすぎて事実から遠ざかってしまっては困る。
今日の放課後とか、ワカバはどうするんだろうか。もしずっとこうなら、みんなが帰った後にもう一回確認する事もできる。これに関しては、家に帰ってもモヤモヤしたままになってしまいそうだ。できる事なら今日中に解決しておきたい。
そうそう、今日は火曜日じゃないから美化点検もない。うん、部活終わりにでもどうだろうか。先生もいないだろうしちょうどいいんじゃないか?
...とにかく、何故か、これに関しては自分以外に知られてはいけないような気がしていた。絶対に。もし知られてしまったら、事がより大きくなってしまうかもしれない。
ワカバは何を望んで...
放課後
「勇利どこいくの?」
「ちょっと忘れ物した」
部活の終わる時間が完全に下校しなければいけない時間の三十分前だから助かった。部活終わりに入っていったのは初めてだったから、この時間の校舎の暗さに初めて驚く。電気がついているとはいえ、その光は夜の落ち着いた壁に吸い込まれているようだ。自然の光がだんだん減っていくのが昼の校舎とのギャップであった。
階段を登って教室を見つける。職員室から近いわけではないから、廊下には人が一人もいない。人気がしない。何も感じないので逆に怖くなってしまい振り返ってみたがやっぱり誰もいなかった。廊下と違って教室は電気がなかったから前から入ってスイッチを押そうかと思ったが、油断したが故に変に誰かに見つかったりもしたくなかったので廊下からの光で我慢することにした。
ワカバの席は前の方でも後ろの方でもないので光が届かない。だから、ほとんど視界から情報を得ずに机の中に手を入れて取り出す。手のひらで中に入っている物を感じ取ったとき思った。
...持って帰っていない。
やっぱり、思ったとおりだった。ワカバのお守り―
廊下に出ると誰かに見つかってしまうかもしれないから教室からは出ずにドアの近くまで移動した。疑問を抱く以前に、本物かどうか知りたかったのか、反射的にその本を開いていた。
『万物は数であ―』
バタン。
閉じてしまった。
なんで、こんな大切にしているお守りを学校に放置しておいていったのか。
そもそも、どうやってワカバは川田からこれを取り戻したのか。取り戻せたのか。
そのすべてをこの一瞬で理解できてしまった気がする。
え...?
見間違いではないかと思いもう一度見てみるがやっぱりそうだった。脳が理解を拒んでいる。
なんで...?
そして、その事実があるという事に少し納得してしまっている自分が、一番許せなかった。
8/10追記:九月二十八日を九月二十九日に変更しました。




