24.足枷
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九月十二日
夏休みも終わり、二学期に入った。選挙ポスターも貼られ、完全に選挙ムードになっていた。割と仲のいい小学校時代からの友達からは廊下ですれ違ったときに頑張ってねと言われた。選挙活動としてやらなければならなかった事は想像以上に多く、部活などとも重なってこれまでで一番忙しい夏休みになった気がする。とはいいつつ、ポスターだったりは七月にすでに提出していて、特別疲れたわけでもなかったのだが。
「これまでに伝えてきましたように、私の強みはやはり実行力です。誰か、もしくは自らの理想や考えを実現するための力が、私にはあると思います。しかし、根本的に考えてみますと、現実にする以前にその理想がなければ、実現を試みる事さえできません。
その理想を考えたとき、私は一つの事に思い当たりました。それは、いじめをなくすという事です。」
生徒会選挙立会演説会。全校生徒は一番眠いであろう金曜日の六時間目に体育館に集められ、生徒会選挙立候補者による演説を全員分聞く。聞いてる側は早く終わってほしいと思っているのかもしれないがそれは立候補者にとっても同じで、緊張のせいで今日は授業に全く集中できなかったし、原稿をずっと脳内再生していた。ただ何回暗唱しても脳内再生しても緊張せずに話せるなんて事にはならなそうだった。
ステージの上でマイクに向かって話すのは初めてだ。意外にもマイクを通しての音量は大きく、そこまで大きな声を出す必要もなさそうだった。
ただ、それでもろれつが回らない。文章は頭にちゃんと入っているはずなのに言葉がうまく出てこない。話している側からすれば苦しく感じるが、聞いている側はどう聞こえるだろうか。
自分がしゃべり終えて自分は下がり、右にいた推薦者である英太が何かをスラスラと話し始めている。
「こんにちは。一年三組の―」
ただ緊張が解ける事はなく、まったく聞く耳を持てなかった。直立不動、目のやりどころに困るので体育館の向こう側にある大きな窓を眺める。
「ご投票、よろしくお願いします」
最後に二人で頭を下げた。体育館の中では拍手が響いて、それはすべてが終わった合図だった。立候補者としてのプレッシャーがなくなって身が一気に軽くなった。高揚感を感じたのはいつぶりだろう。夏休み、演説原稿の暗記を始めてからずっと、感じていた背負っているものの重さがなくなった。
今思うのはここまでのプレッシャーを英太も背負っていた事である。あんなに軽い気持ちで推薦者を頼んだ自分が懐かしい。何も文句を言ってこなかったのには感謝しかない。
そのあと残りの書記候補の何人かの演説を聞いてどことなくボーっとするだけの時間が過ぎていった。全部が終わるとクラス順に体育館からでていくよう促され、最終的には立候補者だけが残った。
「選挙結果は来週の月曜日の朝に下駄箱近くに張り出されるのでよろしくお願いします」
多分、立候補者の名前が張り出された場所と同じだろう。朝登校してきたと同時に現実を知らされるのは怖い。落ち込む人のためにも放課後とかにしてほしかった。喜ぶ人にとっては一日中緊張せずに済むのでいいんだろうけど…
教室に戻ると全員投票用紙を記入していて、めずらしい事に静まり返っていた。自分の席にも置かれている。立候補者の名前が書かれていて丸を付ける形式だった。まず自分の名前に真っ先に丸をつけたが、あと書記は二人選ばなければならなかった、。正直緊張で何も覚えていないのでまともな理由も持たずにつけてしまったが、そんなに影響はないだろう。
「後ろから集めてきてください」
裏返しにして集めていく。あとは願うしかなかった。
帰り際、ずっと応援してくれていた友達に聞かれた。
「なんで推薦者英太にしたの?」
しっかり考えてみると、英太には申し訳ないが英太である意味は特になかった。頼む人がいなかったからだ。
「委員長に頼もうとしてたんだけどとられちゃったんだよね」
「それで英太?」
「うん…英太の事知ってるの?」
「知ってる」
英太は合唱部である。この友達は多分運動部だから、部活での関わりはないだろうし
「委員会?」
「いや?話した事はないけどなんか知ってる」
なんで知ってるのかがいい感じにぼやかされた気がする。聞きたかったが、自分は英太を待っていたので先に帰られてしまった。
同じクラスなんだから教室で待っていればよかった。外で待っている人がいると混むので先生に早く帰るよう言われてしまう。今日は掃除もないみたいだし、すぐ来るだろう。本当はワカバも一緒が良かったが、誘ってみると用事があって急いでいると言われてしまった。
「英太ー、一緒に帰っていい?」
下駄箱に来たのを見て言い放すと笑って頷いてくれた。
「ありがとう、選挙」
ちょうど後者からでてきたくらいのところで口からでてきた言葉それくらいしかなかった。
「ちょっと噛んじゃった、ごめんね」
そもそもそんなに聞いていなかったのでもちろん何の事かわかんないが…
「俺も噛んだ」
「あれそうだっけ?」
ここから土日を挟んで月曜日になると、自分の演説がどう聞こえていたかそのまんまの結果で返ってくる。ポスターとかより、演説のほうがずっと結果に対する比重が大きいだろう。
「受かってるといいね」
自分が生徒会として活動している姿が想像できなかった。もし受かったとしたら来年も立候補するだろうか。受かったら誰かしらおめでとうと言ってくれるだろうか。月曜日は絶対休めないな。
「ねえ」
道がわかれ交差点で一度歩くのをやめ、一度英太を止めた。
「月曜の朝、早くこれたりする?」
「これるよ。…結果見る?」
具体的に何時かは分からない部分であるが、八時までには貼られるだろうと思っている。
「うん」
「…いいよ。」
朝早くに見たいという感情は、自信がなく早くモヤモヤを解消したいから生まれるのか、自信がありできるだけ早く安心したいから生まれるのかわからなかった。後者であってほしい、後者でないと土日を過ごすのが辛い。
「七時五十分に学校来よう」
「わかった」
「じゃ、バイバイ」
ちょっと学校で待ったからなのか周りに人はあまりいなかった。
とりあえず、家でゆっくりしよう。
夏の暑さはまだ全然残っていて夏服のシャツに汗がしみる。暑さから逃れようとゆっくり急ぎ始めた。
九月十五日
「おはよう」
「おはよ」
校舎前でのあいさつはまさに空元気だった。こんなにも落ち着かない朝はない。
「まだ結果見てない?」
「見てないよ」
先にきていた英太を若干疑う。笑う英太につられて微笑むと自分の感情が余計に分かんなくなった。意外な事に、他に結果を見ようとしているような立候補者は見つからなかった。
ぴったり五十分。そして、わずかだが校舎内の結果が書かれた模造紙が見えた。
「見る?」
「見よう」
心拍数が上がる。暑さと重なって倒れてしまいそうだ。
結果を見ないようにしながら上履きを履いて中に入った。
…二人で同時にその壁をみあげたとき、俺はそれに気がついてしまった。




