21.三人目
お読みいただきありがとうございます。
六月十七日
昼休み。
そういえば、先週の金曜日タイスケが図書室に来たな。タイスケって本読む人なのか疑問に思ってたが、自分だって別に本がそんなに好きなわけではないのに図書委員になっていた事を思い出して納得した。
でも、なんのために?目的は?
人が混み合う小説コーナーの隣、あまり読まれない―人が少ないから―本の棚の近くに立っていた。何を読んでいたのかは何も見えなかったが。
...でも、結局あの後タイスケは何も借りずに出ていってしまったように感じる。よく来る人がなんとなく来て何も借りずに帰っていくのはなんとなく想像できるが、時々図書室に来て本当に極稀にしか本を借りていかないという事を想像するのは容易ではないと思う。実際その立場になった事がないのでよくわからないが。だってそもそも、図書委員でなければこの学校生活で図書室に来る事なんて一、二回にとどまっていただろうから。
「そういえばワカバ、川田君に貸したって言ってたあの本、見つかった?」
ずっと体の内に留めておくと気分が悪くなりそうだったので、もうこの話題を上げてしまう事にした。
ただ、最近ワカバのテンションはだんだん戻ってきたもののまだ解決はしていないという事実が表情や話し方からにじみ出ている。正直な話、聞くまでもなかった。
ワカバは急にどうしたとでも言うような顔をしながら、ゆっくり首を横に振った。
「そっか...それなんだけど」
図書室にもその本があるよ。それを報告したかっただけだ。しかし、だから借りてみたら?とか、そういう感じの提案を自らする気にはなれなかった。ワカバがあの本を本当に大切にしているのは毎日の感じから誰だってわかるだろう。
一部始終を話し終えたときワカバは困った顔をしていた。数秒間沈黙が続いたが、それにそぐわない想像通りの回答が返ってきた。
「あれは大事なものだから...別のやつだと、ちょっと。本物がいいんだよね」
「やっぱりそう?」
ワカバは首を縦に振るだけで、それ以降なにかがワカバの口から発せられる事はなかった。ああ、話したくないんだなと思い、察して、話題を変えることにした。
「...そういえば来週からテストだったよね。」
来週の月曜日から水曜日まで期末考査がある。青中では一学期の中間考査が廃止になったらしく、一学期には期末考査しかなくなったため一年生にとってはこれが初めてのテストになる。先週テスト範囲表が配られたが、多分中間考査がない分範囲も広くなっていた。最初だからどう勉強したらいいのかわからないのに範囲が広いって結構大変じゃないか。と周りは騒いでいる。テスト前と被ったわけでもないのに運動会があったせいで集中できないとやる前から言い訳している人だっていた。
「あ、そういえば何も勉強してない」
俺だって何もやっていないわけではないが自信のなさはきっとワカバと同じだ。
するとワカバは何かを悟ったように、そして顔の力を抜いていった。
「もう一週間前切ってるよ」
当日に出す提出物だってたくさんある。数学のワークはとりあえずおいといて、英語も、理科も、まず主要教科にはすべて提出物があった。副教科だってゼロではないのに、一週間前で何もやってないは結構きついんじゃないか...?
言っていることの軽さとは裏腹に、ワカバは深刻な表情をしている。
「今日から本気出すよ、絶対」
実際のトーンを聞かなければ、まあ、やんないだろうなと思っただろう。でも、このときのワカバの話し方には妙に説得力があった気がした。
まるで自分に危険が迫っているとでも言うような...
席替えでワカバの前になったもんだから椅子に座ったまま話していたら首が痛くなってきてしまった。前を向こうとしたら、誰かがこっちに向かってくるのがわかった。
英太だ。
自分と比にならないくらい明るい性格の彼は合唱部と言っていた気がする。自分もあんな感じになれたらなと思うわけでもないが。
ワカバの後ろの席だ。何かを取りに来たようだ。椅子を後ろに下げる代わりに机を前にやってワカバの椅子にぶつかった。そこで初めて、彼から言われる「ごめん」を認識した。
なんか仲良さそうな二人、程度にしか思われていないだろうなと信じていたが、意外にもあっちから話しかけてきた。
「テスト勉強、してる?」
二回目の話題でびっくりしてしまった。
...そういえば、小学校四年生のときだっただろうか。一見ガキ大将のようにも見える男子から一学期に話しかけられたのを覚えている。もっとも、そこからより仲良くなったりする事はなかったのだが。
「全然してない」
会話をそのまま終わらせてしまうかもしれないそっけない返し方をしてしまった自覚はあった。ただ少ししかやっていない=全然やっていないだと思っているし、「英太は?」なんて瞬発的に言えるほどコミュニケーションは得意ではないから仕方ない。ワカバも「同じ」と言っている。
「俺も」
内心どう思っているのかと感じさせない笑い方だった。加えて、別に楽しくないだろうに会話を広げてくれた。
「なんの教科自信ある?」
「んー…数学かな。今はそんなにやってる事難しくないし。」
意外にも、数学と答えたのは俺だった。ワカバは何も言わない。
「まじで?俺社会」
相手が会話を弾ませてくれるとこんなに話しやすいのかと感心してしまった。しばらく話してチャイムが鳴って、
「じゃ、テスト頑張ろうね」
と言って廊下に出ていった。
六月某日
残り一週間もなかったが本気を出す事ができたので、ほとんどの教科で自分が思ったよりかは高い点数だった。ワカバに関しては詳しくはしらない。そもそも、自分の点数もそこまでいいわけじゃないから友達には見せていない。ワカバのだって見る権利はないんじゃないか?
ただ、テスト返しのあとのワカバのテンションを眺めている限りきっと良い結果ではなかったのだろう。数学を除いて。
そしてなぜだか、英太は俺たちのところに寄ってくる事が多くなった。テストどうだった?とかそういうシンプルな話題ばっかりだったものの、俺とワカバに続く三人目、グループと自信を持って呼べる、俺が入れる場所ができたわけだ。
なんだか、地に足をつけられた気がする。
この日、ホームルームで担任から告げられた事がある。
「今日から生徒会選挙の立候補期間です。学校の、代表の生徒会に、立候補したいって人は一度担任に相談してっていう形になっているので、詳しい事は今日配られる選挙だよりをみてくださーい」
そういえばこの前クラスの一人が選挙管理委員会に入った。そこで作られるのが選挙だよりなのだろう。
なんだろう。この高揚感。
生徒会とかそういうのは自分とは縁が無いものかなってずっと思っていたが、やってみると案外やりがいがあるのかもしれない。
嬉しい事に、悩んでいた。
もし勇利が選挙でたら受かると思いますか?
7/18追記:最初の日付を六月十六日から六月十七日に変更しました。




