009.桜姫の野望
「目を覚ましたようじゃぞ、これで異世界に行けるな」
「いえまだです。必要書類に御鏡聖治様の署名を頂いておりません」
なんか心地良いやり取りが聞こえてきた。
意識が覚醒しつつある。
うっすら見えるのは、知らない天井…………じゃないな。
ここは待合所だ。
なぜか軍人はいなくなっているが、さっきまでいた待合所で、どうも長椅子に寝かされていたようだ。
「僕も忙しいからね、今日、ラピュータ王と友誼を結んでおかないと、次、いつ結べるか分からないからね。桜、伊白、僕の用事が済むまで、もう少し待ってくれないか、」
「うむ、仕方が無い」
「は~い」
オレは身体を起こす。
寝たふりをして聞き耳を立てていても…………って、起きているとは、気付かれているし、誠実な行動をした方がいいからな。
「ラピュータ王、大丈夫か?」
聞いてきたのは、伊白の兄…………オレの運命の女神。
冗談だぞ。
男だと分かってきても、綺麗なモノは綺麗なんだよ。
正直、こっちの世界に来るようになってからそんなに時間は経っていないが、価値観が変わってきていることを自覚している。
「ああ、なんとか。ちょっと情報が多くて、頭が処理し切れなったようだ」
国家間での重要な決め事を決定する場で弱みを見せる形になるが、この人たちを信用して正直に話しておく。
騙されたら騙されたで、ダンジョンドアを破壊できるかは分からないがそう言った手段もある。
「それはすまないと言うか…………悪いけど、もう少し頑張って欲しいな。一応、後で今日の会話データは書面などで渡すので、聞き逃したり、分かりにくいところは、それで確認してくれればいい。こちらとしては友好的な国交を結べればいいので…………あ、さすがに不平等すぎる内容では困るが、基本的にラピュータ王の意向に沿おうと思っている。この後すぐに色々と条約などを仮締結して貰うことになる。それはこちらと言うか、このバカ…………あ、すまん、ちょっと噛んでしまったようだね。こほん…………我が国の至宝の存在であらせられる帝の桜様の野望…………いや、そのいち早く異世界に行ってみたいと言う我が儘………………こほん、今までとは打って変わったような積極的な外交活動を希望されていて…………一応、こんなのでも、可愛い妹分なんで、それを何とかしようと動いているって訳なんだよ。ただ国のトップが法律を破るわけにはいかなくてね。とりあえず形だけでもと紅葉さんも色々と頑張ってくれているんだよ。条約とかの書類は公式なモノでもあり非公式なモノでもあるので、問題があるようならば書き直すことも吝かではない。仮にでも書類が揃っていることが重要なんだよ」
一気に話をした伊白の兄。
すこし照れくさそうにムッとしている桜。
とりあえず、ついては行けている。
内容的には桜が異世界に行きたいと希望しているが、立場的に色々と約束事を決めておかないと、行くことができない。
そして、条件的には色々と妥協するので、協力してくれって言うことだろう。
願ってもいない話なので、それは構わない。
で、そうなると、なぜ伊白が異世界に自由に行ったり来たりできるのって話になる。
単純に考えれば、軍人だから例外的な何かがあるのかも知れないな。
って、違う、違う。
と言うか、そもそも軍の敷地内に知らない建物が建っていたので、仕事で調査のために入ってみたら、異世界の知らない国だったってことだから、悪気どころか仕事だし、これで犯罪者に扱いだったら誰だって他の国に移住するわ。
でも、話はもっと簡単で伊白とオレと顔見知りだし、国交も結べてない状態で何人も送り込むのはマズいと判断したと思う。
「で、ここまではオマケみたいな話で、ここからが重要というか、僕としてはこちらがメインの話だね。まず、ちゃんとした自己紹介するね。僕は真技賢人。今回は、特別に本名を名乗っているけど、こちらの都合で申し訳ないが今後は会長って呼んで欲しい。どこで誰が何を聞いているか分からないからね。で、聞かれた話の内容から、世間に僕の正体が出回っちゃうとマズいんだよ。色々とね。普段から経営者である義理の妹の碧のスケープゴートみたいなモノをしてるからね。まぁ、この辺は軽く流しておくよ」
コクリと頷いておく。
オレの行動を見て、伊白の兄はニコッと笑顔を魅せて、話を続けた。
「で、ここからが本題と言うか、ラピュータ王に関係するかも知れない話をするよ。真技家は本業が古武道道場を経営している御鏡家の19ある分家の1つ。そう御鏡だよ。君と同じね。…………御鏡家は700年程前にこの国の基礎を作った初代桜様に協力したことが縁で、それ以降もこの国の表と裏…………様々な手段を使って平和に貢献してきたんだ。もちろん、危険な仕事も多い。そのせいもあって、消息不明になったモノも多い。でも、それだけじゃなくて、異世界に連れて行かれたモノもいるんだよ。だから、もしかするとラピュータ王は異世界に渡って戻れなくなった御鏡の血が流れている可能性があると…………だから後で調べさせて欲しいんだよ」
えっ?
もしかして、オレと伊白が血縁者?
あれ?
血が繋がっていても結婚できたっけ?
あ、うん、確か大丈夫だ。
って、大丈夫じゃない。
男同士の結婚だなんて………………できる国もあったような…………。
違う。
違う。
そんなの関係ない。
一応、オレは国のトップなんだから、オレが法り…………。
「すまない。無理に検査させて欲しいわけでもないし、もし血が繋がっていなくても、ラピュータ王がこちらの世界で過ごしている間は、全面的に協力させて貰う。それだけは約束しよう」
あ~、ヤバい、ヤバい。
思考が変な方向に向かっていたので答えられずにいた。。
そのせいで伊白の兄に勘違いさせちゃったっぽい。