008.もう何も怖くない
「わらわは桜。700年程前にこの国の基礎を作った初代桜様から数えて7代目の桜じゃ。公の場でなければ桜と呼び捨ててくれて構わん。年寄りとかには姫とか帝とか呼ばれておって、一応…………この国のトップと言うことになっておる。まぁ、トップと言っても、世襲制じゃから名ばかりのトップと思ってくれても構わんぞ。そもそも、次世代の桜を産むためだけの存在じゃしな」
情報量が多い。
情報量が多い。
情報量が多いぞ。
とにかく偉い人だと思ったが、まさかの国のトップ。
と言うことは、国のトップと馴れ馴れしい態度の伊白の兄や伊白はって話になる。
ただ、伊白の兄については、ここで考えても、後から自己紹介されるはずだから、深く考えるのは止めておこう。
「オレは御鏡聖治だ。さっき国名が決まったばかりだが、ラピュータ王国のラピュータ王でもある。後、トレジャーハンターズギルドのギルドマスターでもあるから、ギルマスと呼んでくれた方が気が楽でいい。よろしく頼む………………桜」
「ふふっ、こちらこそ、これからよろしく頼むぞ。御鏡………………聖治殿」
なぜか呼び名をフルネームの『御鏡聖治』をチョイスした桜。
自己紹介でなんかマズったか?
今さら取り繕うことができないので、これ以降注意していこう。
国と国のトップ同士でなくて、身長差を考えれば、膝をついて握手をするべき所だが、この場面ではマズいと思って、見下ろすような感じで手を握り合った。
手を離すと桜はオレの後方に視線を送った。
必要性が分からない。
「国のトップ同士で友誼を結んだんじゃ。これで国交樹立で問題無いな。紅葉」
「いえ、やることはまだまだありますよ。桜様」
オレの後ろから声がした。
今まで、全く認識出来ていなかった。
ずっと離れていた所にいて、出番を待っていたかのように桜に向かって歩いている感じだ。
ふいにぺこりと頭を下げ『先程は失礼いたしました』と言葉を残してオレの横を通り過ぎていった。
あ~、違和感の原因はこの人か!?
気配がなかったのに、吹き出した声だけが聞こえてたんだ。
桜守さんと呼ばれた存在かと思っていたんだけど、そうじゃなかったようだし、気にはなっていたんだ。
これで、スッキリした。
で、紅葉と呼ばれた女性…………なんていっていいのだろうか…………。
女性でありながら、若かりし頃のオレと顔の雰囲気が似ている。
若かりし頃と言ったがオレは半エルフなんで、寿命を考えれば子供みたいなモノだ。
しかし、半エルフの特性上、個人差はあるが姿の定着はエルフより遅く、オレは特に遅くて年の取り方は人種に近い。
普通におっさん顔だ。
「とりあえず。桜様、ここと、ここと、ここ、署名をお願いします」
「事務的に動きよって、つまらんヤツじゃなぁ。紅葉も興味があるんじゃろ?」
「興味が無くはないですが…………『今回は非公式の国事で公式のやり方をしてマスメディアに嗅ぎ付けられては厄介な事になる』とかそれっぽい理由を並び立てて急遽場所を変更させたのはどこの桜様ですか? 今はそんな桜様の希望に添えるように手続きを優先しているのです。それをなんですか? 桜様を優先せずに、自分を優先して、桜様の時間を頂戴するハメになって、時間を押しに押しまくって、これ以降の予定をキャンセルして、御所に戻ることになってもよろしいのなら、そのようにいたしますけど…………いかがなさいますか?」
怒らせてはダメな人がまたひとり増えた気がする。
異世界怖い…………。
「すまぬ、わらわが悪かった。ほれ、全部書き終わったぞ。で、御鏡聖治殿。こやつ、紅葉は、この国の摂政…………政治を取り仕切っておる御鏡覇王樹の娘、御鏡紅葉じゃ。わらわの右筆…………秘書をして貰っておる」
「御鏡聖治様、御鏡紅葉と申します。以後お見知りおき…………」
「よろしく頼む………………って、確認したい情報量が多くて、どこから確認したらよいのやら…………」
オレのセリフに桜がセリフを被せてきた。
「こっちは、桜守と呼んでおるわらわのボディガードじゃ。人形…………アンドロイド…………オートマタ…………とにかく古の技術で作られた自動で動くからくり人形で、後は国を滅ぼせる力があって戦争の抑止力になっているくらいで、それ以外は人と変わらん」
桜はオレの反応を見て言葉を変えながらセリフを繋げていく。
オレは耳から入ってくる情報を右から左へ受け流すしかできなくなった。
そして、ついに意識を手放した。
これで、もう何も怖くない
そんな感じでオレは倒れた。