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007.後悔なんて、あるわけない

「来ちゃった…………じゃダメか?」

「う~~、来ちゃったって、でも、すぐ一緒に戻れば、時間的には大丈夫…………か」


 可愛らしい仕草で答えた(さくら)ちゃんと呼ばれた女性に対して、ポケットから取り出した見たことがない光る板みたいなモノを触りながら、そう言う伊白(いしろ)

 予定表とか時間が分かる道具なのか?



「戻らないぞ………………聞いてないのか?」

「ふぇ?」



 伊白(いしろ)は予想外の返事を耳にしたせいで、呆気に取られている感じだ。

 一緒に戻ると言うことは、オレたちが行く場所と(さくら)ちゃんと呼ばれた女性が戻る場所は同じってことになる。

 これからの予定を考えれば、国主導の行事に参加する参列者のひとりではないかと予測できる。

 でも、これだけでは足りない。


 そう、伊白(いしろ)の驚き方だ。


 居ても居なくてもいいような参列者のひとりならばここまで驚かないだろう。

 と言うことは、(さくら)ちゃんと呼ばれた女性は必須参加者となる。

 つまり、オレが感じた第一印象は間違いなかったようだ。



 そして、ここから、導くことができる答えは…………当初予定していたこれから向かうであろう場所に移動しても行事は行われないってことになるな。

 それに、ここかどうかは分からないが、当初予定していた場所以外でも行事が行われないのであれば、身柄を拘束されるためにオレは待合所に閉じ込められていただろう。


 ああ、合点がいった。

 待合所の軍人の態度にもな。


 いつもと違うヘリコプターに乗れると思ってはしゃぎすぎていた伊白(いしろ)にダレも本当のことを言えなかったんだろう。


 平和な世界だ。



「まぁ、伊白(いしろ)。落ち着け。お客さまが話に置いていかれたままになっているよ。まずはお互い自己紹介をしないとダメじゃないかな? 今回、伊白(いしろ)がエスコートする立場なんだから、こう言ったハプニングにも対応できないと、次から任せられないかもだよ」



 丁寧なのに迫力がある話し方をする伊白(いしろ)の兄。

 経験則から判断するに、お偉いさんだ。

 それもタダのではない。

 非常にできるお偉いさんだ。


 それに国防軍に出入りが自由とくれば、ハンパないお偉いさんってことは間違いない。

 絶対に逆らっちゃダメなヤツだ。



「あわわ、はわわ、お兄ちゃん、ごめんなさい」

「はいはい。いいから、いいから。お客さま優先でね。じゃあ頑張って」



 伊白(いしろ)の兄が伊白(いしろ)の頭を撫でると、伊白(いしろ)の雰囲気が変わった。

 やる気120%ってところだな。


 伊白(いしろ)は胸を張って、オレの右前方にキリッと立って、オレ以外の3人の方に身体を向けた。



「こ、こちらにおわすはラピュータ王国、ラピュータ王であら、あら、あらせられるぞ、み、皆のモノ頭が高い。ひ、控えおろう」



 真剣な声音でカミカミセリフを口にした伊白(いしろ)

 そのセリフの途中から周囲の空気感が変わった。

 もはやどこにツッコんでいいのか分からない。

 いや、伊白(いしろ)にってことは明確だが………………伊白(いしろ)にツッコむ?

 変な妄想が捗ってしまう。



「ぷっ」

「ぷっ」

「ぷっ」

「………………」



 ん?

 ちょっと違和感を感じた。

 聞こえてはいけないモノが聞こえたようだ。

 キョロキョロと周りを見回したが変な感じはない。

 一番怪しい、桜守(さくらもり)さんと呼ばれた存在を確認したてみた。

 流石に吹き出したような様子ではなかったが、俯き視線を逸らした桜守(さくらもり)さんと呼ばれた存在も押し殺して笑っているかのように思える。

 オレは笑っていない。

 捗っていたせいで、笑うタイミングを逃してしまっただけだが…………。



「はっはっはっはっ、く、ダメだ。久々に大笑いさせて貰ったよ。我が妹ながら、さすがにこれはダメでしょ」

「くっくっくっくっくっくっくっ、さすがは伊白(いしろ)と言ったところだな。わらわも笑わせて貰ったのじゃ。では、そのご褒美として、伊白(いしろ)の言うとおり平伏するとするかの」

「ふぇ?」

(さくら)さん。さすがにそこまですると笑い話にならないので勘弁してくださいね」

「つまらんのぉ。平伏するだけで真技(まぎ)家から色々融通利かせて貰えるようになるのなら、お得だと思ったんだがな」



 なんか雲の上の攻防を見聞きしている感じだ。



「妹がすまない。ラピュータ王、僕の首ひとつで許して貰えると嬉しいな」



 って、様子を窺っていたら、いきなり振られた。

 それも軽くめちゃくちゃ重い話をだ。

 違和感を確認しているどころじゃない。

 オレに視線が集まる。


 自分の首を差し出すとか言ってるのに、オレの首に刃物があたっている気がする。


 ニコニコした笑顔だが、これ本気だ。

 伊白(いしろ)の兄は、平気で命のやり取りができる心を持っている。


 敵にしてはいけない類いの人だ。



「別にいい。首なんて貰っても邪魔なだけだし、今のやり取りで、国交を結ぶに値する平和な国だと言うことを身をもって教えて貰った。だから、そのお礼だ」

「そう言ってくると嬉しいよ」



 矛を収めると言うより、抜く前に倉庫の奥深くに片付けさせられたって気分だ。

 でも、後悔なんて、あるわけない。


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