006.奇跡も、魔法も、あるんだよ
「桜ちゃん。おひさ」
「伊白か久しいな」
異性だというのに、きゃっはうふふって感じで仲良くじゃれ合う2人。
なんかモヤモヤっとした気分になってくる。
そんな気分のままではいられないので、仕事をしよう。
桜ちゃんと呼ばれた女性を観察してみる。
雰囲気から女性としたが、見た目は少女だ。
エルフ的な感覚で年齢を判断すると、伊白の方がかなり年下だと感じる。
ブルッ
あ、うん、年齢については考察するのは辞めておこう。
身長は伊白より少しばかり小さいので135cmくらいか?
肩に掛かる長さの真っ直ぐでさらさらな髪で黒髪なんだが光の反射の関係で紫っぽく見えたりする。
身に纏っているのは民族衣装っぽい服装だ。
オレが住む世界に似たような服があって、確か…………着物と呼んでいたはず。
こっちの世界ではどう呼ばれているかは不明だ。
まぁ、服装のことはいい。
どう接するかだ。
雰囲気から察するに高貴な身分のモノだろう。
お姫さま?
いや、もしかしたらそれ以上かも知れない。
とにかく、対応には注意が必要だと感じた。
「桜守さんと…………お、お兄ちゃん?」
「伊白さん、お久しぶりです」
伊白が声を掛けたこの2人は別の意味でヤバい。
色々とヤバいんだよ。
桜守さんと呼ばれた女性…………本当に女性なのか?
魔物の核…………魔石みたいな存在が桜守さんと呼ばれた存在の身体の中にある感じがする。
魔石みたいな存在の物理的な大きさから判断するとドラゴンとかより小さくが、ドラゴンより弱いと判断するには情報が足りない。
それでも魔石みたいな存在の存在を感じ取れると言う事実から判断すると、言っちゃあ悪いが、ゴーレムやホムンクルスに似て非なる人にあらざるモノだと思う。
オレの感覚が間違っていなければ、ゴーレムとホムンクルスが融合した何かであろうととりあえず判断しておく。
言葉を解するゴーレムやホムンクルスなんて聞いたことがないからな。
そもそもホムンクルスの成功例なんてオレは聞いたことがない。
でも、奇跡や魔法があればそういったモノが作れるのかも知れない。
しかし、オレは知っている。
奇跡も魔法もあるんだよ。
ここは異世界だし、オレが知らないだけで、桜守さんと呼ばれた存在みたいなモノを作る方法があるんだろう。
目の前にその実例があるんだからな。
情報不足で特定はできないが、人にあらざるモノと言うことは確かだろう。
とにかくそれ以上はオレが持っている知識では推測すらできない相手だ。
【鑑定】魔法で調べればハッキリするんだが、どうもダメっぽいんだよ。
さっきから何度も試しているが、【鑑定】魔法が上手く発動しないんだ。
魔力だけ消費している感じしかしない。
こっちの世界で魔法が発動することは確認しているから間違いない。
【鑑定】魔法だって発動はしている。
でも、とりあえず今は魔法抜きで色々と考えた方が正解だろう。
正体以外で判断できること………………桜守さんと呼ばれた存在は、立っている場所から判断するに、桜ちゃんと呼ばれる女性のボディガードだと思う。
また、公式の場でも問題無く動きやすいパンツスタイル。
分かっていると思うが、パンツと言ったがズボンのことだぞ。
そんな身体のラインが丸分かりの服装をしているので、隠し武器までは判断できないが、メインとなる武器は持っていないと思われる。
まぁ、それが逆に安心できないんだがな。
それは持っていなくてもボディガード程度なら 対応出来ると言うことだ。
何故か上手く魔法が発動出来ない賢者がクラスのオレとしては非常にやりにくい相手だろう。
「昨日ぶりかな? 伊白」
清楚な女性らしい声で、そう冗談ぽく言うのは、伊白の兄?
伊白がそう呼ぶんだから、兄なんだろう。
見た目は、銀髪のロングヘアで真っ赤な目をしている。
そして、半エルフに似た特徴のある耳の形状…………それ以外は伊白が女だったら、こんな風になるのかを体現しているかの姿をしていた。
黒基調のレースがふんだんにあしらわれたパーティドレスに身を包んでいて非常に似合っていて女性らしい。
って、お兄ちゃんと呼ばれていたんだから、女じゃない。
これだけ似合っていると男性でもスカートを穿くのかって聞いたオレがバカみたいじゃないか。
とにかく服装に関しては異世界ギャップなのかオレには理解出来ない。
とにかく伊白の兄の観察を続けよう。
雰囲気的には惚れると言うより、高嶺の花って感じだ。
目の保養にしかならない。
と言うか、伊白のお兄さんなんだよな?
つまり伊白より年齢が上。
どうみても伊白より年下の大人びた感じの少女にしか見えない。
身長が165cm…………エルフ基準だと、女性としてはちょっと小柄な感じだな。
って男性だ。
でも、ここにいるってことは、ただ者ではない。
『伊白が声を掛けたこの2人は別の意味でヤバい』って言っただろ?
まるでどうやって計算したらよいか検討もつかないが、答えだけ分かる感覚…………桜ちゃんと呼ばれた女性に無礼を働いたら、この2人によってオレは元の世界には戻れないだろう。
オレの運命を握る…………そう、運命の女神ってところか………………って、ツッコむなよ。
「でも、桜ちゃん、なんでここにいるの? お兄ちゃんもだけど…………」
桜ちゃんと呼ばれた女性と伊白の兄に言いようにオモチャにされていた伊白がそう口にした。
見た目はじゃれ合っていたようだが、かなり高度な攻防だった。
オレだったら、地面に伏していただろう。
ちなみに、桜守さんと呼ばれたモノに聞かないのは、桜ちゃんと呼ばれた女性とセットだからだろう。
先に答えたのは伊白の兄だった。
「碧がな…………いつものことだよ。今回、急遽桜を含め色々なところからお願いされたから半分は仕方なくもあるかな? そのせいで参加していたパーティは途中で抜けさせて貰ったから、先方には悪いことしちゃったね。で、残り半分は…………僕も碧も興味があったから、依頼を受けたんだよ。特にその御鏡って姓に興味がね。ついでに色々確認と忠告をしにきたんだ」
そう言ってオレの方へと視線を向けてきた。
と言うか、まだ紹介もされていないので、オレは疎外感マックスな気分なんだが…………。