027.突撃!隣の異世界ご飯の前準備 中編
「そっちの世界のお金を融通して欲しいのじゃ」
「なんだ、それくらい全然問題無い。で、どれくらい用意すればいいんだ?」
そう言って、金貨の入った革袋をアイテムボックスから取り出した。
オレの本職はトレジャーハンターでそれなりの成果を出しているので、ダンジョンを作るためにかなり出費があったが、所持金の桁は代わっていない。
まぁ、それくらい持っているってことだ。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ
革袋にはきっちり1000枚ずつ金貨が入っている。
だいたい7Kgをちょい切るくらいの重さだ。
ちなみに、金貨は地域ポイントを消費して、地域コアで作っているので、ほぼ純金だそうだ。
「必要なだけ、持っていってもいいぞ」
「とりあえず、一袋…………お、重いのじゃ」
「ああ、一袋、金貨1000枚入っているからな。ちょっと重いかも知れん」
「ちょっとどころじゃ無いのじゃ」
「あ、軽いよこれ。桜ちゃん。全然重くないよ」
「おぬしたちを基準に言うでは無い。一般的にこれは重いと言うのじゃ」
普段から、潜在ステータスが上乗せされたハンターモードのオレにとっては重さなんてきにしたことは無かった。
逆に力加減に注意するくらいだった。
初めてのモノはさすがに気を使うが、もうすっかり過去形だ。
でも、伊白が軽々と持ち上げているのを見ると、やっぱり軍人なんだなって思う。
「で、なんで向こうのお金が必要なんだ?」
「転移門じゃ。ここの転移門を使うために必要なのじゃ」
「じゃあ、桜ちゃん……」
「ああ、ここの転移門の使用を許可するのじゃ。そうすれば、IDが無くとも、ここから直接異世界に行き来できるじゃろ?」
「桜ちゃん、ありがと」
そう言って、桜に抱き付く伊白。
ふ、複雑な気分だ。
う、羨ましくなんかないやい。
不思議に思うのは、男女の間というのに桜は伊白とのスキンシップを気にしている素振りは無い。
こっちの世界はそう言うモノなのか?
さすがに試す度胸はないぞ。
向こうの世界では、下手すると首を切られても文句を言えないからな。
こっちの世界に来て、変わった価値観もあるが、そうそう変えることの出来ない価値観だってあるんだよ。
「では、代価を支払いたいのじゃが…………」
じゃらじゃらと、桜が革袋の中味を確認している。
「ギルマスよ。とりあえず金の価格と同等のこちらの貨幣で良いか?」
「いや、これくらいなら、対価なしでやっても大丈夫だぞ」
「そんなに価値がないのか?」
「そんなことはない。エルフなら普通に暮らしていれば一生掛けて使えるかどうかの価値だ」
「じゃあ、なんでじゃ?」
「ダンジョン攻略で荒稼ぎしたんで、革袋があと1000個はあるんだよ。半エルフのオレじゃ、使い切れないんだ」
「分かった。ギルマスの事情は分かったのじゃ。じゃがな、こちらの世界のお金は必要じゃろ? こっちの世界で欲しいモノはないのか?」
そう言われると困る。
伊白の兄から、お金は貰った。
そして、足りなくなったら追加も貰えるんだよ。
でもな、そんなお金で好き勝手に何かを買えると思うか?
「悪かった。金の価格で良いので、こちらの貨幣と交換してくれ」
「素直じゃなぁ」
「うるせー」
「くくくく、伊白。調べるのは、任せた」
「ふふ、任されました」
伊白は、革袋から金貨を一枚取り出すと、じっくりと観察している。
そういえば、伊白の兄がカードを見ていたときと、同じような雰囲気だ。
やはり兄妹なんだなって思った。
伊白の目がチカチカ光っているのは気のせいだと思っておこう。
みんな気にしていないような些細な事だしな。
自分の常識と異世界の常識が同じだとは思ってはいけないんだよ。
「この状態のチェックでも、この金貨…………|99.9999999999《トゥエルブ・ナイン》%の純度ですね。これは金の価値より、工業製品としての価値の方があるかも知れないです」
すげー、よく分かんないけど、伊白、すげーって感想しか出てこない。
正直、見て分かるモノなのか分からないが、オレには無理だ。
「後、ギルマスがいう通り、一袋あたり金貨1000枚が入っています」
重さも中味を確認せず枚数も分かるんだなんて、伊白って本当に凄いな。
【鑑定】魔法みたいなものがあるのかな?
「金貨の精度も高くて、1枚あたり6.67グラムです。それから換算すると…………相場によって変動はありますが、金貨1枚が1万円くらいになると思います」
「じゃあ、一袋は一千万ってとこじゃな」
「はい」
「ギルマス。それでよいか?」
「金貨が1000枚入った革袋が一千万って、出した分10袋でこないだ貰ったヤツと同額ってことか?」
「そうじゃ。それで良いのなら、全部交換で…………いいよな? 紅葉」
「はあ…………仕方が無いですねぇ。ただ、現金を持って来るのは、できれば遠慮したいのですが…………」
「あ、一応、お姉ちゃんがギルマス用の口座を作っておいてくれたので、そちらを使って貰えばいいのですけど…………ギルマスいいですか?」
「すまん。話についていけない」
「簡単に言うと、こっちの世界のお金をボクが管理してもいいですか?」
「分かった。任せた」
「任されました。っていいんですか?」
「構わん。その代わり、今度ちゃんと買い物に付き合ってくれよな」
「任されました」
伊白はいつもの返事をしてくれた。
これで、心置きなくネコ耳を買うことができるぞ。
なぁ、どこで買えるんだ?




