024.サンバードホールディングス株式会社からの相談 その1 後編
桜の雰囲気が変わった。
珍しく、女の子らしさ120%ってところだな。
「こ、こちらにおわすはラピュータ王国、ラピュータ王であら、あら、あらせられるぞ、み、皆のモノ頭が高い。ひ、控えおろう」
すげー伊白の声そっくりだ。
オレは【変声】魔法が使えるから、声を真似るだけなら簡単にできる。
ただ【変声】魔法では、声を真似ることができても、しゃべり方までは流石にできない。
でも、桜のは魔法じゃないんだよな?
魔法を使わず桜はこないだの伊白を完璧に再現して見せた。
本当にすごい。
感動した。
「ぷっ」
「ぷっ」
「………………」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
オレの感動を返せって思うくらい、みんなは笑うのを堪えている。
ネコが一匹混ざっているようだが…………って、伊白だ。
まるでネコのように床をゴロンゴロンと転がっている。
こちらの世界には、ネコ獣人に化けることのできるネコ耳ってアイテムがあるって聞いた。
今の伊白には、ピッタリだと思わないか?
今回はあきらめるが、今後のためになんとか手に入れておこう。
それに、そういえば聞いたことがある。
ネコが床で転がるのは、安心している証拠だと。
そして、そのうちお腹を出して、撫でて欲しいと催促を………………。
ま、まさか、伊白もそうなのか?
もしかして、オレに撫でろと?
良いのか?
男同士でも問題無いのか?
いや、オレだって、雄のネコの腹くらい撫でたことはある。
つまり、そう言うことだ。
「おぬしら、失礼じゃぞ。態度をつつしむのじゃ!! おぬしらはラピュータ王の前にいるのじゃぞ!! ひざまずけ!! 命乞いをしろ!!」
今度はアドリブか?
桜は伊白の物真似のまま、オレが聞いたことの無いセリフを芝居がかった感じで口にした。
「ぷぷぷぷぷぷぷっ、止めて、止めて、止めて下さいまし。桜様」
「ぷっ、くっ、くっ、くっ、くっ、くっ、くっ、も、申し訳ございません。あ~あ~お腹がぁ~お腹がぁ~!!」
「………………く」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
あれ?
何かおかしくない?
もしかして、こっちの世界ではラピュータ王はネタ扱いの人物なのか?
と言うことは、オレ、やっちゃいました?
地域コアにラピュータ王国って登録しちゃったぞ。
オレ…………死ぬか、地域コアの所有権を無くすまで、ずっとラピュータ王ってことか?
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。桜ちゃん、恥ずかしいから止めてよ~」
あ、うん、伊白は恥ずかしがっているだけだった。
勘違いしかけたが、ネコ真似は可愛かったから良しとしておこう。
ただ、ラピュータ王に関しては、確認の必要がある。
伊白がオレを騙している可能性だ。
そこだけは、ハッキリさせておかなければならない。
「ちょっと聞きたいんだが、空飛ぶ島と言えば?」
「ラピュータ」
「ラピュータですわ」
「ラピュータです」
「ラピュータですけど? それが何か?」
「………………ラピュータ」
みんな間髪入れずに即答だ。
うん、伊白はウソは言っていないな。
まぁ、異世界人ってことより、ラピュータと言う知名度は役に立ちそうだ。
そういうことにしておこう。
「訳の分からぬヤツじゃの。では、緊張もほぐれたようじゃから、本題に入るぞ」
「ああ」
「は、はい」
「うん」
「では、ギルマス。HP回復薬はどれくらいの価値なのじゃ?」
「HP回復薬か………………買取価格は銀貨1枚って答えじゃダメだよな………………まぁ、だいたい一般的な1人分の1食分程度で、売値で言えば銀貨5枚、1人分の飲み代くらいで分かるか?」
「まぁ、それくらいじゃろうな。ちなみに霊薬はどうじゃ?」
「霊薬は売れたら高いと言えば高い。だが売れるかどうかは分からん。【HP回復】魔法や安いHP回復薬でほとんど事足りるし、四肢欠損も治る霊薬は需要が少ないんだよ。だから、必要な時に作らせるって感じか? 欲しいヤツは、素材を集めることの出来るモノ、そして、素材を加工できるモノを雇って作らせるんだよ。だが、それだけ出せるヤツは【完全HP回復】魔法を使えるモノを大抵抱え込んでる。つまり、欲しいヤツには高くても売れるが、値段はあってない様なモノだ」
「ちなみにギルマス。おぬしは…………」
「魔法か? 作れるってことか? 別に隠すようなことではないから言うが、こっちの世界ではまだ魔法は上手く使えないが、【HP回復】魔法も【完全HP回復】魔法も使えるし、素材集めも加工も可能だ。これでも、クラスは賢者だからな」
別に本当のことを喋っているだけだぞ、ウソは吐けないしな。
「日之鳥の小娘…………HP回復薬はいくらくらいで売れそうじゃ?」
「HP回復薬ですよね? 昨日のキズは跡形も無く治りました。そして、ヒビが入っていたと思われるところもレントゲンを撮って確認しましたが、完治しています。これだけの効果があれば、HP回復薬のメインの顧客層は著名人や芸能人は挙って買いあさるでしょう。そして、アスリートやプロのスポーツの関係者にも売れるでしょう。ターゲットを絞って販売すれば1つ最低1億はくだらないと思われます」
「1億っ!? あのHP回復薬が? マジで?」
「はい、ターゲットを絞ればです。それでも、数千~数万本は売れるかと思います。………………でも、その値段では売れますが、売れません。売りたくありません。会社の評判が落ちるからです」
「まぁ、そうなるじゃろうな。買えないモノが買えるモノに対してでは無く、販売している会社に矛先が向かうじゃろうからな。HP回復薬以外が売れなくなるじゃろう」
「なら、安く売れば………………」
「バカか、安直すぎるわ。そうなったら、わらわが規制を入れるぞ。経済を守るという理由でな。HP回復薬が安く売られて出回ったとしたら、どれだけのモノが職を無くすと思っておるのじゃ?」
「うっ」
「と言うことじゃ。もしわらわがここに来ずに商談が決まっておって、何も考えずにHP回復薬が販売されておったらと思うと、あー、怖い、怖い」
「桜様、皆様の方が怖がっておられますよ」
「あー、すまん、すまん。わらわは、別にHP回復薬の販売は止めろとは言っておらん。売るのであれば、わらわを納得させるだけの販売計画を立てるのじゃ。それができぬ限りは、絶対に認めないのじゃ。良いな分かったな。わらわからの宿題じゃぞ」
なんだかんだ言って、桜は国のトップだけはある。
オレもそうだけど、桜みたいにできるとはとても思えないが、目標にしてもいいのかも知れない。
「ああ」
「は、はい」
「はい」
そんな感じで、桜から難しい宿題を貰ったせいで、サンバードホールディングス株式会社からの相談はしばらく続きそうだ。




