021.閑話 その1 「転移門」
自分の目的にあった建造物を設置するには、地域ポイントを消費し地域コアを使用するしか無い。
しかし、建造物が設置されているからといって、その建造物が地域ポイントを消費し、地域コアを使用されて設置されたモノとは言えない。
そう、ダンジョンが勝手に建造物を設置することがあるんだよ。
それと、なぜか『かゆいところに手が届く』ような、建造物が設置されるケースが多々あるらしい。
実際、勝手に設置された建造物って使い勝手がいいんだよ。
一番良い例が、トレジャーハンターズギルドの建物だな。
また、地域コアの所有者の立場から言わせて貰うと、地域ポイントを消費せずに建造物が作られるのは嬉しい。
地域ポイントを溜めるには地味に労力とお金が必要になるからな。
「ギルマス、これなんだと思います?」
「転移門だな」
こっちの世界では、【鑑定】魔法が使えないと頭では理解していたが、日々の習慣って言うのはそうそう変えることができない。
そう【鑑定】魔法を使ってしまったのだ。
だから、これが転移門だと言うことが分かったんだよ。
うん、色々と理解に苦しむ。
なんで、転移門に【鑑定】魔法が効いたのかが分からない。
なぜ、ここに転移門があるのかも分からない。
こっちの世界に来れるようになってから、分からないことが多い。
「テンイモン、てんやもん、てんいもん、テンいもん、転移門!!…………もしかして、この転移門をくぐればどこかに行けるってことですか?」
身体を左右に振りながらオレが口にしたセリフを噛み締めるように呟いていた伊白が目の保養になっていたので、分からないとか理解できないって程度の些細なことなんて今はスルーしておこう。
ちなみに伊白は転移門を知らない。
伊白は、まだ向こうの世界をチラッとしか見ていないし、そもそも、ラピュータ王国には、転移門を設置していないので知らないのも無理は無い。
「行けないと言えば行けないし、行けると言えば行ける」
「?????」
キョトンとした表情の伊白も目の保養になる。
まぁ、こういう言い方だとわかんないよな。
アイテムボックスからカードを取り出し、クルクルクルっとカードの裏表裏表裏表って感じに見せた。
「まず、このカードが必要だ。そしてお金も必要になる。お金はカードに接触させるとカードに取り込まれる。このことを向こうの世界ではチャージと呼んでいる。後は一度、転移門にカードを触れさせて有効化…………アクティベートする必要もある。この時に登録料としてカードにチャージしておいたお金が使われるって寸法だ。ただ……この方法だと一度転移門のあるところまで行かないといけないと言う問題がある。しかし、この問題は金さえ掛ければ解決できる」
転移門の横になぜか置いてあった『転移門のミニチュア』を手に持った。
「そして、金を掛けて解決するために必要なのが…………この転移門のミニチュアだ。地域ポイントを消費しないといけないが、地域コアを使って何個でも作成できるんだよ」
たぶん、今回は転移門を設置した存在がついでに作ったんだろう。
本当にそうかは分からないが、オレの知識からはその結論しか導くことができないんだよ。
「一般的には、この転移門のミニチュアを何個か作って、各地の転移門の近くにある転移門を管理している詰め所みたいなところに預けておくと、お金で問題を解決したい者は、カードを転移門のミニチュアに触れさせてアクティベートさせることで、実際の転移門にカードを触れさせたときと同様の扱いになって、転移できるってことだ。もちろん、この時にも登録料は掛かるんだが…………かなり高い。一説には転移門との距離が関係しているのではと言われている」
ちなみに登録料は転移門のミニチュアの作成者と設置場所の地域の地域コアに分配されてチャージされる。
どちらにしても、登録料は地域コアの所有者の懐に入るんだ。
これは、ダンジョンが設置した建築物でも同様だ。
建築物の利用料金は、設置された地域の地域コアにチャージされる。
「と言うことで、転移門をくぐるだけでは、どこにも行けない、カードとお金、そしてアクティベート作業をしなければ、行きたいところには行けないってことだ」
「なんとなく、分かりました。でも、なんでこんなところに転移門が? ギルマスが設置したんですか?」
「いや、オレは設置していない…………と言うかこっちの世界には設置できない。管理外の地域だからな。当たり前のことだ。で、そう言う伊白は? 何か心当たりはないか?」
「う~ん、お姉ちゃん、あ、碧お姉ちゃんなら、もしかしての可能性があるかもですけど、色々と忙しそうにしてるから、転移門を設置している時間がないと思いますよ」
「分からないけど、分かった。でも、とりあえず、転移門があるのなら、使わなければ勿体ないな」
「そんなんでいいんですか? ギルマス」
そう、株式会社トレジャーハンターズギルドのオフィスの関係者以外には目立ちにくい一角に転移門ができていたんだ。
「ここに転移門が設置されたのって、三河松平駐屯地のゲートで毎回面倒な手続きをしなくても、向こうの世界のトレジャーハンターズギルドからここに来れるってことだろ? 他にも意図があるかも知れないが、現状ではそこまで分からないし、使えるモンは使っておけばいいんだよ」
ダンジョンが転移門を設置したとなると納得できちゃうんだよ。
「ぷぷ、なんですか、そのオヤジみたいなギャグは…………でも、使うのはちょっと待ってください。色々、許可を取ってからの方がいいと思いますので…………」
確かに、人種の年齢基準だと、おじさんかも知れないが…………伊白に言われると地味に致命傷なくらいショックだ。




