015.伊白とショッピング
「待ったか? 今日は付き合って貰って悪いな」
「今来たところです。だから、全然待っていないし、大丈夫ですよ」
今日は、朝9時から30分待っても誰も来なかったから、フリーの日だ。
と言うことで、伊白とデートだ。
ごめん、ただのお出かけだよ。
こっちの世界で色々と買いたいモノがあるんだ。
ショッピングだな。
「じゃあ、行こうか」
人前でアイテムボックスを使わないように言われているので、お金の入ったアタッシェケースを予め取り出して、手に持って出かけようとした。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。それ、そのまま持って行くんですか?」
「そうだな。人前でアイテムボックスが使えないとなると、最初っから持って行くしかあるまい。何かオレやっちまったか?」
「いえ、違います。中身です。中身です。問題は中身です。カバンからお金を出してないですよね? お兄ちゃんから貰ったままの状態ですよね? だとしたら1億入ったままですよね?」
伊白の勢いに負けそう。
軽くオレの服を摘まみながら下からオレを見上げるように見ている。
り、理性の方は、まだよ、よ、ぜ、全然余裕だぞ。
「そ、そうだな」
ちょっと伊白がオレから離れた。
身長差がありすぎるから、あまり近くに寄ると見上げる角度がきつすぎて首が痛かったのかも知れない。
ほら、見上げる角度が楽になったせいか、血の巡りが良くなって顔の赤みが増している。
「ぎ、ギルマス…………少々、お聞きしたいことがあるんですけどいいですか?
「ああ、構わんぞ」
「あのぅ、今日は何を買う予定だったか覚えていますか?」
「もちろん、服だ。こっちの世界で普段着に使えるのが欲しいんだよ。伊白の兄…………会長が選んでくれたもいいんだが、自分で選びたいと思ってな」
「そうですよね。では、質問です。こっちの世界の服1着の金額はいくらくらいだと想定してますか? ずばりお答えください」
「分かった。答えてやろう。服1着の値段だよな? オレの経験則から推測すると、オーダーで作れば1着金貨100枚はするんだよ。自分好みに仕立てた服は結構高いんだ。後はこっちのお金の価値との掛け算だ。でだ、紙のお金と金でできている金貨の価値をオレの推測で計算するとと、安く見積もって1束が金貨1枚になるとの予想だ。そして、このアタッシェケースとやらに入っている札束は丁度100束ある。となると、丁度服1着分になるだろ? オレの推測完璧だろ?………………まさか違うのか?」
「ち、違います。全然違います。あのですね。お兄ちゃんが着ているような無茶苦茶高い高価なブランドの服でも100着は買えるだけの金額が入っているんです。ちなみにボクが着ているような服だと1000着以上は余裕です」
「と言うことは、もしかして、このアタッシェケースとやらに入っているお金って…………」
「はい、一生は無理ですけど、数十年は遊んで暮らせる額ですね。服屋さんだったら、建物ごと買えて、お釣りが来るくらいですよ」
「………………ちょっと待て、建物ごと買えるのか?」
「はい。買えちゃいます」
「マジか…………こっちの世界だと建物が買えるのか…………」
「もしかして、ギルマスの世界は買えないんですか?」
「土地建物は、土地や建物を自由にできる地域コアの所有者のモノだ。人々はそれを借りて使用料を払うんだ。だから買うことはできない」
「言葉は通じるけど、そう言う一般常識が違うと異世界って感じですね」
「そうだな」
「とりあえず、今日は1束だけ持ってお出かけしましょう。それでも多いと思いますけどね。1束抜き取って残ったのはアイテムボックスにしまっておいてください」
「分かった」
アタッシェケースからお金を一束取り出して、残ったのをアイテムボックスにしまい込んだ。
お金は…………仕方ない胸ポケットに入れておこう。
「ちょ、ちょっと待ってください。ギルマス、待ってください。それもないです。お金はボクが預かっておきます。服を買い終わったら、バッグと財布も買いに行きましょう」
「すまん。伊白に任せる」
「はい。任されました」
笑顔が眩しい。
ちょっと色々あったが、今日はいい出出しだ。
「ギルマス、どんな服が希望ですか?」
「渋くて、ワイルドで、良い感じので頼む」
「くくく、わ、分かりました。分かりましたよ。だから、その変な顔は止めてくださいよ」
「すまん。悪かった」
ここぞとばかりの決め顔だったのに…………泣きたい。
「お店がちょっと遠くになるので、車を出しますね」
「車って、移動する時に使った乗り物だろ? 乗り物ならオレが出すぞ」
「えっと、ちなみにどんな乗り物か聞いていいですか?」
「ああ、もちろんだとも、なんなら、ここで出してもいいんだぞ」
自慢げに言ってやったぜ。
移動なんて、転移門を使ったり、【飛行】魔法を使って自分で飛んだ方が早いが、ワイバーンとか面倒なんだって。
実際、倒すだけなら簡単なんだよ。
魔法一発だしな。
だけどな、倒した後が問題だ。
回収が面倒なんだよ。
飛んでいるワイバーンを倒したら、当然落ちるよな?
落ちた先に、人や建物があったらどうする?
なくても、ズゴォンとかバゴォンとか勢いよく地面に叩き付けられるように落ちてグチャっとなったら素材として使えないだろ?
だから、そうならないように、落ちる前に回収してアイテムボックスに収納しないといけない。
まだ、ワイバーンが1匹ならいい。
大抵、まとまって来るんだよ。
ワイバーンを回収しようとするとスキができて、ワイバーンもそれを見逃すわけがないと………………面倒だろ?
まとめて倒しても、まとめて回収しないといけない。
想像しただけでも、やりたくないだろ?
だから、転移門を使って移動ができない場所に行くとき、ワイバーンとかの空飛ぶ魔物の縄張りをは戦闘を避けるためにゴーレムカーを使ったりするんだよ。
だったら、低空飛行すれば良いって思うだろ?
だいたいそう言うところって【飛行】魔法での低空飛行が禁止なんだよ。
【飛行】魔法での低空飛行が禁止になっていれば、面倒な戦闘を避けたいヤツも、ゴーレムカーを買うか、借りるか、大勢乗れる乗り合いゴーレムカーで移動するかしか選択肢がなくなるだろ?
そうなれば、商売人が儲かり、もちろん、税収が増えれば王とかも儲かるって寸法だ。
だから、使用頻度が少なくても、ゴーレムカーを持っているんだよ。
自前で持っていた方が時間の融通が利くからな。
「魅力的な提案ですが、次回か、ギルマスの世界で見せて貰っても良いですか?」
「分かった」
「ありがとうございます。…………では、行きましょうか」
「おう」
オレと伊白は、ショッピングに行こうとした。
そう、したんだよ。