013.そんなの、あたしが許さない
プロローグ、やっと終わった\(^o^)/
「さっきはありがとう」
伊白が上半身を起こしながらオレにお礼を言ってきた。
オレとしては、お礼を言われるようなことをしていないので、軽く頷くことで返事をしておく。
「大丈夫なのか?」
「うん、もう大丈夫」
長椅子に座る態勢になった伊白。
落ち着いたようだ。
「で、そう言えば、電話って言ってたけど、電話って何だ?」
「あ、これだよ」
「光る板か」
「光る板じゃなくて、電話。電話だよ。正式名はラーマフォンだけど、なぜか昔から電話とも言われているんだ。遠くの人と話せる道具でフルフラット王国と言う国で作られてから、千年近く使われているんだよ」
「フルフラット王国?」
「そう、フルフラット王国」
「フルフラット帝国じゃなくて?」
「うん。フルフラット帝国じゃなくて、フルフラット王国だよ」
「そうか、オレのいる世界では、フルフラット王国ではなく、フルフラット帝国と言う国があるんだ」
「へぇ~、似たような名前の国があるんだね」
「2人で仲良くしおって、わらわとも仲良くするのじゃ」
桜が後ろから抱き付いて来た。
うう、背中に色々…………色々じゃないけど、ほんのりとした柔らかさが当たって、何か気まずい。
伊白もムッとしている。
こ、これはヤキモチって言うヤツか?
期待をしても………………って、そうじゃない。
誰だって、会話の途中に割り込んでこられたら、不機嫌にもなるだろう。
そもそも、男同士だ。
友情はあっても恋愛なんて………………ないはずだよな?
「仲良くするとか言われても…………そう、書類。書類だ。紅葉さん、書類に署名をしないとダメなんだよな?」
「うぅぅぅぅぅ」
「そうですね。署名をお願いしたいです」
桜を引っ張る伊白、踏ん張るオレに抱き付いている桜。
身体が左右に揺れる。
オレには何ともできない。
身を任せるしかない、だから、身体が左右に揺れている。
「桜様がご迷惑を………………ここと、ここと、ここにご署名をお願いします。不利になるようなことは記載されていないはずですが、念のため内容を確認してからご署名ください」
「な、ギルマス。じっくり確認せずとも、サラサラッと署名して、異世界に向かうのじゃ」
「むぅぅ、もう、桜ちゃん、ギルマスの邪魔しないの」
2人のじゃれ合いに巻き込まれて、身体が揺れっぱなしだった。
でも、署名はしきった…………オレ、偉い。
と自画自賛だけしておく。
バンッ
タイミングを見計らっていたかのように、急に待合所の扉が勢いよく開いた。
「お待たせぇ~。ごめん。ごめん。電話が長引いちゃってね」
そう言って、待合所に入ってきたのは、『てへぺろ』とか頭に浮かんだ意味の分からない擬音が似合いそうな銀髪のロングヘアで赤い眼の半エルフに似た特徴のある耳をした伊白の兄だ。
さっきの今なので、服装も当然、黒基調のレースがふんだんにあしらわれたパーティドレスに身を包んでいて微妙に女性らしい………………ん?
あれ?
『男なのに』が『男だから』と形容した方が良いようなよく分からない感覚。
理想と現実…………理想の姿を見せつけられていたのが、いきなり現実を突き付けられたって感じなのか?
電話とやらで別の相手と話していたようだから、テンションや纏っている空気感が変わったってとこだろう。
「あっ、お………………お、お、お、お、おかえりなさい」
「ふん、やっと来おったか…………」
2人の態度が変わった。
これは分かる。
子供っぽくじゃれ合っていた姿を見られて恥ずかしくて、変な態度になったてヤツだ。
とりあえず、色々、横に置いておいて、オレにはやらないといけないことがある。
今後のこっちの世界を含めたオレの生活に非常に関係することだ。
伊白の兄に返事をする。
ビシッと直立して、真剣な表情を見せ、頭を下げながら、こう答えた。
「伊白を…………伊白をオレのパートナーにください」
決まった。
向こうからの提案だ。
答えは分かっているが、一世一代の返事になったと思う
あれ?
なんか空気が変わった?
頭を下げたまま、ちらっと伊白の兄の方を見る。
「あたしの大事な伊白を結婚相手に欲しいだなんて…………そんなの、あたしが許さないわ」
意味の分からないセリフを口にした怒り心頭のオレの運命の女神のスカートがひらめいた。
中が見えそうで見えない。
そうじゃない。
回し蹴りだ。
回転しながら跳躍してからのスピードが速くて体重が乗っている回し蹴りだ。
でも、所詮、潜在ステータスがないこっちの世界の住人による攻撃だ。
そんな攻撃なんて、潜在ステータスが上乗せされたハンターモードのオレの防御力をもってすれば全然余裕だ。
え?
鼻が熱い。
物理的なダメージが通った。
身体に直接ダメージがきた。
血が…………鼻から出た血が周囲を赤く染めていく。
久々に口の中で血の味がする。
おかしい。
理論上、上乗せされているHPが無くなるか、瞬間ダメージ量が防御力を越えなければ、直接身体にダメージが通るはずがない。
通るはずがないんだ。
理由は分からないが、防御しなくても平気な雑魚敵相手との戦法が仇となった。
オレは回転しながら、壁の方へと吹っ飛んだ。
「ちょっと碧、なにやってくれてんの?」
「おにい、ごめんなさい。なんかこいつムカついたんでつい。でもこれでDNA検査できるわね。おにい、褒めてぇ」
伊白の兄が2人?
意識が飛ぶ。
あ、意識が飛んだ。