011.本当の気持ちと向き合えますか?
「ギルマス。わらわと子作りするのじゃ。わらわの場合、権力関係でな子が産まれても父親の情報は非公開じゃから、後腐れされなくて良いぞ」
え?
本気?
本気の本気?
本気と書いて本気?
って、変わってないじゃん。
それにいきなりギルマス呼びになっているし…………どう受け取れば良いんだ?
今の段階では国同士は友好的な関係を結びたいと思っている。
もちろん、ここにいる人たちともそうだ。
でも、伊白を差し置いて桜と………………じゃない。
差し置く必要もないし、そういった関係も………………。
本当の気持ちと向き合う。
オレは半エルフで人種と寿命が違う。
人種の父親とエルフの母親…………仲は良いが、たまに老いていく父親を寂しそうに見つめる若い姿のままの母親の顔は忘れることはできない。
両親も寿命のことは分かっていただろう。
それでも、結婚して、オレが産まれた。
オレは、まだそこまで強くはなれない。
「ぼ、ぼくもっ!?」
って、伊白がなぜか桜と張り合おうとしている。
そうだ。
桜のセリフで勘違いしそうになったが、仲良くなってくれと言われただけだ。
男女の関係なんて、そこには含まれていない。
だから、伊白と仲良くなるのは………………。
「………………ぷしゅぅぅぅぅぅ」
伊白がいきなりふらふらとし出した。
オレは伊白が倒れないように身体を支えた。
柔らかけぇ。
良い匂いがする。
異世界の男はみんなこうなのか?
いかん、いかん、まずは容態の確認だ。
「大丈夫か?」
軽く頬を叩く。
もちもちして吸い付くような柔らかさ。
頬がこれなら、唇は…………って、そうじゃない。
伊白の返事はない。
頬を触った感じでは火照っているようだったので、ただのぼせているだけだと思う。
「伊白のヤツ、上手いことやりおったな」
「すまない。伊白はこちらで預かるよ」
あれ?
何やった?
伊白の兄が歩きながら、こちらに向かってきて、伊白に触れた瞬間、いつの間にか伊白は長椅子に横たわっていた。
訳分かんないよ。
異世界は色々と違うのか?
「伊白が気になるのは分かるけど、話を続けていいかな?」
確かに気になるが、伊白自身のことだけではなくて…………とにかく、伊白の兄へ返事をしなくてはいけない。
時間を与えただけ、へんな勘ぐりをされてしまって、勘違いをさせる可能性があるからな。
「大丈夫だ。続けてくれ」
「分かった。話を続けるよ。色々と渡しておかないといけないのがあるからね。次はこれ、衣類だね。サイズは大丈夫だと思うよ。ただ服の趣味までは分からなかったから、こちらで色々と見繕わせて貰ったよ。こっちの世界だと、今着ている服装だと目を引くし、厄介事に巻き込まれそうだからね。とりあえずで揃えたモノだから、気に入らなかったら、そのお金で気に入ったのを購入してくれればいいよ」
お金が入った鞄より大きな鞄が2つ。
中身をチラッと見せて貰ったが、結構、衣服が入っていた。
ここまで、気を使って貰ってありがたい。
案外、服は値段が張るんだよ。
オーダーメイドで新調すると1着で金貨100枚は飛んで行く。
さっき貰ったお金くらいは飛んで行くんだ。
「ありがとう。了解だ」
素直にお礼を口にした。
して貰いっぱなしではいけないと思うが、何をしたらよいかまだ見当もつかない。
「素直だね。色々としているのは、できるだけ良い条件で国交を結びたいだけなので、気にしなくてもいいよ」
「そういう訳にはいかない。何らかでお返しをしよう」
「くく、律儀だねぇ。そう言うのなら、お礼は保留にしていた答えでいいよ。くく、良い答えを期待してるね」
質問?
答え?
何の?
伊白のこと?
桜のこと?
伊白のようにオレも倒れそうだ。
「くく、じゃあ、桜も待っているから、話を進めるね。次はこれ、パスポートと言うんだけど、この世界の国交のある国なら、どこ国でも通用する身分証明書ってところかな? そっちの世界じゃどうなっているかが分からなかったから、仮にこちらで準備させて貰ったんだけど…………。そっちの世界でパスポートみたいなモノはあるのかい?」
小さな冊子がテーブルの上に置かれた。
チラッと見て、質問の答えを返す。
「このカードを身分証明書として使っている。向こうの世界では一般的にカードと言えばこのカードで、どの国に行っても共通のモノが発行してもらえる」
アイテムボックスから、カードを取り出す。
手に持ったまま、カードの裏表を見せる。
「手に持ってみても?」
「別に構わない。領域コアを使えばいくらでも作れる」
「ありがとう」
伊白の兄は、バッグからメガネを取り出して、掛けてから、カードを手にした。
カードを手にした伊白の兄の表情が…………マツゲ長ぇ…………じゃない。
ニコニコした表情も良いが、こう言ったメガネっ娘で真剣な表情も良い。
オブジェクト…………ID………………ユグドラシル?
伊白の兄からそんな呟きが聞こえた。
何のことだろう?