010.それはとっても嬉しいなって
「もちろん、協力はさせてもらう。オレも先祖のことが分かるのなら話の種になる」
そう答えはしたが、かなり結果が楽しみになっている。
勇者が異世界から来ていたとすると、勇者の物語のつじつまの合わなかった部分の整合性がとれてくる。
それに、この世界と人間と血が繋がっているとすると、『それはとっても嬉しいな』って流せるほど軽い嬉しさではなく、叫び出したくなるくらいの嬉しさだ。
そして、万が一、血が繋がっているとしたら、伊白と身内と言っても過言ではなくなるしな。
「ありがとう。協力に感謝する。この礼は物理的にも精神的にも全面的以上に協力することで返そう。あ、そうだ。例えば、伊白なんてどうだい? ラピュータ王は伊白のことを結構気に入ってくれているみたいだしね」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
和やかにトンでも発言をする伊白の兄とパニクって奇声を上げた伊白。
オレは何とか押し黙ったぞ。
驚きすぎると声が出なくなるんだよ。
それにしてもなんて提案だ。
それはとっても嬉しいなってレベルの話ではない。
癒やしの神シーター様を信仰、崇拝しているヒンヌー教徒だが、伊白の兄を運命の女神として奉る宗教を新しく興してもいいってくらいだ。
で、どう返事をすればいい?
「あ、ごめん。ごめん。ちょっと言葉が足りなかったね。伊白をアシスタントになんてどうだい? 常識も分からず、情報も全く無い状態でこっちの世界をひとりで散策なんてできないよね? 案内役とか必要無い? こちらとしても、身内がラピュータ王の近くにいてくれた方が都合が良いしね。良い提案だと思うんだけど…………まだ、話はあるので、答えは後でもいいよ。じゃあ、話を続けるよ。一応、僕の話が終わった後に、条件はまだ正式に決めないが、仮とは言え国交を樹立することになる。そうなると、こちらの世界では身分証明書が必要になってくるんだよ。で、これを渡しておくよ」
伊白の兄は胸元から、何かを取り出した。
分かっている。
頭では分かっているんだよ。
オレの生まれ育った環境では、男だと聞いていても、見た目で伊白の兄のことを女性としか認識できない。
だからドキドキしたって仕方ないだろ?
さすがに舐めるのはマズいが、匂いを堪能するくらいなら…………ってそれもダメだ。
絶対にダメだ。
胸元から出されたモノに視線が釘付けになっているうちに、いつの間にか、待合所のテーブルの上にスッと置かれた。
「在留カード?」
そう書かれていた。
特に説明をしていながったが、オレの住んでいる世界とこっちの世界の言葉も文字もほとんど一緒だ。
こっちの世界は分からないが、オレの住んでいる世界では勇者が広めたと言われている言葉や文字を使っている。
もしかして、それが影響しているのか?
「そう、在留カードと言うモノだ。国が国外の人のこの国への上陸を認めるモノだよ。もしトラブルがあって身分証を見せてと要求された場合は、この在留カードを見せればいいよ。ただ在留カードの在留資格のところは正直に外交にしてあってね。この在留カードを見せたときに、それに該当する身分を名乗る必要はあるんだよ。でも、馬鹿正直に本当の身分である国王とか名乗られると、さすがにさらなるトラブルと招きそうなので、その時は大使って名乗って欲しいかなっと…………。たぶん、大使と名乗れば大丈夫だと思うけど…………それでもトラブルが解決しなかったら…………えっと、窓口は紅葉さんで大丈夫かな?」
視線を紅葉さんの方に移した。
紅葉さんは、さも当然って表情をしている。
「構いませんよ。今回の件は機密レベル6になっていて、最低一族じゃないと閲覧でない情報になっているので、どの道一族の誰かが動くことになります。トラブルが発生するとなったら、警察が関係すると思いますし、自分で言うのもアレなんですけど、そう想定すると警察組織の末端にもある程度名前が売れている私が窓口になった方が、スムーズに対応できるので、最善だと思います。それに、行政関係まで真技家にお手を煩わせたら、後が怖いですからね」
さりげなく、冗談だか本気だか分からないセリフを混ぜている。
険悪な雰囲気でもないので、じゃれ合っているのだろう。
「と言うことで、民間相手でトラブったら警察を呼んで貰って、警察相手でトラブルったら、御鏡紅葉を呼んでくれって言えばいいからね」
「分かった。記憶に止めておく。それになるべくトラブルを起こさないように注意しておこう」
慣れないが、それっぽい言い回しを使う。
「で、これが、三河松平駐屯地にしか出入りできないヤツ…………軍の来客用のIDね。使い方は後で伊白に聞いてね。そして、これが現金。とりあえず1億入っているけど、足りなくなったら言ってね」
「分かった」
そう答えることしかできない。
使い方の分からない色々なモノを渡されていく。
きっと必要な物なんだろう。
伊白と話す時間を貰ったと思えば良いのか?
でも1億?
見せて貰ったが、いくら束になっていたとしても、紙のお金だ。
不純物が多くても金貨の方が、その一束より価値があるに違いない。
多く見積もって、一束、金貨一枚で換算して計算すると…………本が10冊買えれば良いとこだろう。
多くもなく、少なくもなくって感じだな。
さすがだ。
「わらわも小遣い欲しいぞ」
「お兄ちゃん…………」
「君たちには言っていないんだけどな………………紅葉さん、予算ある?」
「もちろんないです」
言い関係だなぁって感じる。
オレもこの輪の中に入れたら最高だろうな…………。
「そうだよね~。はぁ、仕方ないなぁ。外交的なこともあるし、ラピュータ王と仲良くなってくれたら、僕がポケットマネーから捻出しよう」
って、オレの運命の女神は何言ってくれるんだ。
桜と伊白の雰囲気がピンクとゴールドが混ざった感じになった気がする。
プロローグが長くなった。
後2~3話掛かりそう。
今思えば、本編開始で、徐々に情報開示でもよかったかも。