優しい「カットマン」
「今日、今すぐに髪を切りたいんです!」
常連だったお客様から、急なご予約が入る。
常連だった、というのは、ちょっと来られてない時期があったからだ。
予約が取れないと、お客様は他店に行かれることもある。お客様の都合もあるので仕方のないことだ。
だが、他店のカットの「直し」をうちの店でやってほしい、と言うのだ。もちろん料金はいただきます。
なぜ、そんなことが起こるのか……。
うちの店にはバカみたいカットが上手い「カットマン」がいるからだ。バカみたいに上手いは褒め言葉ですよ。
この「カットマン」のカット技術の根底にあるのは、【エフィラージュカット】だ。
あまり聞いたことないと思いますが、これはフランスの「マニアティス」という美容室の技法で、日本にも流れてきたわけですが、本物の【エフィラージュカット】を使えるのは、うちの店では「カットマン」だけなのだ。
他のスタイリストはそのおかげで多少流れを組んでいるが、自分のカットにその技術をミックスしているだけらしい。
わたしがアホみたいに練習してるベーシックカットがありますよね。その根底を覆す技法なんです!
普通カットは「面」で切るんですが、【エフィラージュカット】は『点』で切るんです!
つまり一箇所ずつ摘んで切るんですよ。通常、パリの「マニアティス」で切ったら1時間かけるらしい……切るだけで1時間って……ヤバくないですか?
でも「カットマン」はそれを25分でやる変人。いや……変人。いい意味で、です。
つまりお客様にとっては最後の頼みの綱って感じなんですかねぇ。「直し」は基本的にそのお店でやってもらったほうが、お金もかからないんですけど、お客様はうちに来られる。
そう、「カットマン」を頼りに来られる。
ここの予約がずっと取れなかったからなのよぉ!とちょっと怒ってらっしゃるお客様もいるくらいです。
それが、その「カットマン」が優しいんですよ!遅れて来られたお客様にも「いいですよ〜、いいですよ〜」ってどんどんお客様を甘やかす!
この「カットマン」のお客様は超わがままになっていく。他店で切られてご来店されたお客様にも、「すみません。予約取れなかったんですねぇ〜、申し訳ないです〜。僕に任せてくださいねぇ」って、おい!
もっとちゃんとお客様を教育しなさい!(失礼なシャンプーマン)
でも激甘「カットマン」のせいで、急な予約による他のお客様へのご迷惑……遅れて来られたお客様を許しちゃうからずれ込む予約状況……いいですよ〜、いいですよ〜じゃねぇ!
まぁ、わたしがカット以外のとこで繋ぐんですが、最強シャンプーマンじゃなかったら無理だよ、まったく……。
今日はさすがに、他のお客様のご迷惑になったから、いいよ、いいよじゃないですよって「カットマン」に言っておかないと……。
「⚪︎⚪︎さん!今日なんですけど!」
「⚪︎⚪︎ちゃん、いつもフォローありがとね。⚪︎⚪︎ちゃんいなかったら、絶対無理だったよ。さすがだね!助かるなぁ〜」
「……そ、そうですか。ありがとうございます。今日のことですが…」
「⚪︎⚪︎ちゃんのおかげだね。安心してカット出来るよ!ベーシック終わったら、カットをちゃんと教えるからね〜」
「ほっ、本当ですか!ありがとうございます(可愛いらしい声)」
くっ、恐るべし「カットマン」……彼は、こうやって優しい言葉かけることで、お客様をわがままにしていくのだ……しかし、エフィラージュカットを教えてくれるのか……いいねぇ。じゅるり……。
よし!わたしも甘やかされて、どんどんわがままになるのだ!
読んでくださりありがとうございます




