とある技術のインデックス
お気遣いなく。いいのですよ。チカラを抜いて下さい。大丈夫なのでお客様はリラックスされて下さい……なんべん言わせんねん!……っと思っているそこのシャンプーマン!いやぁ気持ちは分かるよ。
とくに男性のお客様なんですが、首のチカラを抜いてくれないんですよ。あります、あります。これめちゃくちゃあります。
おそらく華奢なわたしに……うん、まぁいちおう女性ですからね、このほっそい腕?を見て頭が重いと悪いなぁと気を遣ってくれてるのでしょう。お客様、優しいですね。
ですが、そこの優しいお客様!むしろチカラ入れられるとやりづらいです。99%のシャンプーマンが感じてることがこれですね。
稀に惰弱なシャンプーマンが「もぅ〜重くて頭が上げられなぁ〜い」なんてアホみたいな声で言ってる事もありますが、お客様は安心して我々に身体を預けて下さい
まぁ、わたしクラスのシャンプーマンだったらそう慌てる事もないですがね。首にチカラが入ったままのお客様を、脱力させるテクニックがある。
ふっ、なんかちょっとカッコいい感じに言ってみたけど慣れればそう難しくない。
お客様の首に左手はそえるだけ、右手で生え際を優しくクンッです。あくまで優しく……そう……人間の身体の構造上、首元に支えがあり、おでこ上を軽くクンッと押すと脱力する。
気をつけるべきは初見。初見のお客様の初動はどうなのか……チカラを入れる派?なのか、それとも抜く派?なのか……わたしクラスのシャンプーマンなら「チカラ抜いていいですよ〜」は心の中で言ってるね。声を掛けてお客様に気を遣わせるまでもない。
「チカラを入れる派」の方はもう見ただけで分かる、触ればもっと分かる。上位のシャンプーマンはもう「透き通る世界」に入れるから、鬼滅の刃の縁壱さながらに分かる。と、まぁ分かる人にしか分からない表現ですが、そんな感じなんです
まだわたしがシャンプーマンとして心も身体も脆弱だった頃、初めてお客様のシャンプーに入らせてもらえたのは男性だった。
男性のお客様はとくに優しいので初めての施術は大抵男性なのです。これはおそらく全国的に同じなんじゃないかなぁ。「今から来るお客さんのシャンプーに入ってみて!⚪︎⚪︎さんは優しいから大丈夫だよ!」この先輩の台詞も全国美容業界共通言語(何十年も使われているであろうテンプレ言語)であろう。だって今ではわたしも後輩に同じこと言うもんね。
ちょっと話が逸れたけど練習と本番ではまったくもって違う。とてつもなく緊張していた。今となっては懐かしい。
自分の緊張を誤魔化すためにどうでもいい話をお客様にしていた。まるで、わたしってもう何人もシャンプー入って慣れてますよぅ的な雰囲気で話し掛けてた。ふっ今では醸し出すオーラで安心感出してますけどね。
男性のお客様もやっぱり緊張しますよね。若くて可愛い?女の子がシャンプーしてくれるなんて。そしてお互いの緊張がピークに達した時に事件は起きる。
「頭上げますねぇ〜失礼しま〜す」わたしは鼻にかかった甘ったるい声(今となっては気持ち悪い)を出す。お客様の頭を脇下に抱え込むように上げる。この時はサイドシャンプーなのでお客様の横に立っているのだ。
グイッとチカラ強く頭を抱えようとするわたし。
わたしのほっそい腕?を見て気を遣ってか自ら頭を上げるお客様。二つのチカラが相乗効果を生み出す。あり得ないほどの腹筋運動により、もう起きあがっちゃうんじゃないかと思えるほど自らもびっくりしているお客様。
テンパる脆弱なシャンプーマンのわたし。
後頭部という目標を失ったシャワーヘッドは、噴水のように天井を濡らした……あの日、初めてシャンプーした日。それはまるで、夢の景色のように、ただひたすらに暴れるシャワーヘッドを眺めていた……その後のことはあまり覚えていない……なんかカッコいいからそんな台詞を使ってみる。いや覚えとけよアホ!冗談です。ちゃんと覚えてます、しっかりお客様に謝りましたし、しっかり先輩に怒られましたし、天井濡らしてしっかりオーナーにも怒られました。
そんな経験してるんですよ。ほとんどのシャンプーマンは……ほとんど?……うん、まぁしてると思う。
ということで皆さまも美容室のシャンプーの際にはチカラを抜いてやって下さいね。わたし?わたしはもう大丈夫ですよ。なんせ、わたしのように上位のシャンプーマンは「とある技術」によりお客様が自然と身体を委ねるのです。何だよその「とある技術」って!気になりますよね、そこの新人シャンプーマン達。
しかしこれは一朝一夕では辿り着けないんだよね。ふふふ、それは「手際」だよ。簡単に聞こえるけど簡単じゃない技術。最低3000人は経験しないと本物の「手際」は手に入らないからね。
新人シャンプーマンの諸君!一緒に頑張ろうね!
読んでくださりありがとうございます