決意の旅立ち
ムギが風と共にたどり着いたのは、古びた木材で出来た家が5個、円を描くように建てられた、村と呼ぶには寂しすぎる場所だった。
「もうくよくよしないもん。人を探さなきゃ。」
ムギはグッと拳を握りしめ、歩き出した。
すると一件だけ、昼間なのに灯りのついた家がある。
「すみませーん…」
そーっと扉の隙間から声をかけてみる。
返答がない。が、ここで諦める訳にはいかない。
すると、ドアの隙間からほんのりと良い香りがした。
「良い香り…温かい。」
(ぎゅるるるるるるる)
ムギのお腹が、魔物でも出たかのような音を立てた。
「お腹すいたーー」
恥ずかしそうにお腹を抑え、小さくつぶやいた。
「おや?誰かいるのかい?」
どうやらムギのお腹の音が聞こえたようだ。老婆のような声がこちらに近づいてくる。
キィー。ドアがゆっくり開き、白髪を後ろで束ねた優しそうなおばあちゃんが、目をまんまるにしてムギを見た。
「こ、こんにちわ。私迷子で、お腹すいちゃって、怖くて……うわぁーん」
優しいおばあちゃんに安心したのか、ムギの緊張が一気に解けて、泣き出してしまった。
「そうかい。辛かったねぇ。中におはいり。お腹すいたでしょう、ベネベネの炊き込みとポレのスープがあるからね。」
見た目の通り、とても優しいおばあちゃんだ。
ムギは、知らない世界の初めて聞く料理を泣きながらバクバク食べた。
「美味しいよーうわぁーん」
その後おばあちゃんに、精霊と出会った事や不思議な魔法を使った事を全て話した。
どうやら、魔法の存在はこの世界では普通らしいが、精霊については知らないようだった。
「不思議ねぇ、精霊さんは子供にしか見えないのかしら」
おばあちゃんが不思議そうに言った。
おばあちゃんの話もたくさん聞いた。
おばあちゃんは、モアという名前で、この家に1人で暮らしているらしい。
モアはハーブ治療の専門家で、村の人々が医者に行く前に彼女のところへ来るのが常だった。モアの知識は突出しており、困っている者を見つければ手当てを施すことをためらわなかった。
「お名前が分からないのは困るわねぇ。それなら… 「メロリア」どうかしら?この辺りに咲く温かい心の花の名前よ。」とモアが提案する。
「うんっ!メロリア。とっても可愛い名前ね。モナありがとう。」
ムギ、いや、メロリアはまんざらでもない表情で頷いた。
その後、メロリアはモアと一緒に2年間を過ごす。持ち前のやる気と精霊たちとの特別な繋がりにより、彼女は釣りや花摘み、料理など多くのスキルを身につけた。しかし、ショックな出来事が彼女を待っていた。
ーーー
ある日メロリアが家に帰ると、モアが病で倒れていた。
「モア。私を1人にしないでよーーー。」
モアは笑顔を絶やさず、穏やかに息を引き取った。
メロリアは1日中涙をこぼした。
メロリアの元には、モアが死んでからしばらくの間、村人たちの言葉や気持ちを伝える声が届いた。
「メロリアよ、モアさんのことは本当に残念だったな。彼女は本当に村の宝じゃった。」
村のリーダーであるネビンの声は慈愛に満ちていた。
メロリアも感謝の気持ちを伝えた。「ありがとう、ネビンさん。モアがいなくなって寂しいけど、モアとの思い出を大切にするよ。」
他の村人たちも順番に声をかけてくれた。「モアさんのおかげで、病気が治ったり、怪我が癒えたりしたんだ。本当に感謝してるよ。」「私もモアさんに助けてもらったことがあります。彼女の優しさと知識は一生忘れません。」
メロリアは皆の言葉に胸が熱くなった。メロリアは村人たちとの絆を感じ、モアの後を継ぐことの重要さを再認識したのだった。
そしてメロリアは、世界のどこかにいるはずの本当の家族を探すため、村を出る事を決意した。
それから、1ヶ月間は精霊との特訓に明け暮れた。
ーー
「水の精霊よ、水を球体に変化させ、怒りの矢となれ!アクア・ストライク!」
「風の精霊よ、我が呼び声に応えよ。風よ、刃となり、敵を貫け!エアブレード!」
「水と光の精霊よ、私の願いを聞け。優しき水よ、純粋な光よ、傷を癒し、全快へと導け!ヒール!」
精霊たち「すごーい。メロリアの魔法は、初級魔法なのに特級魔導士ぐらいの魔力があるよ!」
メロリア「それは褒めすぎよー!」
実際に、アクア・ストライクは初級魔法のため、普通であれば、木の皮を剥がす程度の威力だが、メロリアの場合は、この村の木製の家に直撃でもしたらひとたまりもないだろう。
まさに特級魔法の「グランド・デジュール」と同等の威力である。
それだけメロリアの魔法は特別だった。
そして特訓の日々はあっという間に過ぎ去った。
ーーー
「私もモアみたいに、人々を助ける存在になりたいの。皆、今まで本当にありがとう。」
メロリアの言葉に、村人たちは頷いた。彼らは彼女の前途に期待を寄せ、力強い応援の言葉をかけた。
「メロリア。頑張れよ!!」
村人たちとの会話を通じて、メロリアはモアの存在が村にとっていかに大きなものであったかを知り、彼女はモアの遺志を継ぎ、迷いながらも前へ進む勇気を得たのだった。
そして、新たな旅路に向かう決意を固め、村人たちの温かい応援を胸に、未知なる冒険へと旅立っていく。
ーーメロリア出発から3時間後ーー
「そろそろお腹すいたなぁ」
メロリアは、先ほど池で捕まえた魚を、炎魔法で調理して食べようか、なんて考えていた。
(ガゴンッ、キー ガゴン、キー)
100メートルほど前方から馬車がこちらに向かって進んでいた。
「うわぁ。馬車なんて初めて見た。」
メロリアは、この世界の常識など全くと言って良いほど無かった。
当然馬車など、見たこともなかったのだ。
(ガゴンッ、キー ガゴン、キー)
馬車とメロリアの距離が50メートル程まで近づいた時だった。
「落石です!回避不能!分散退避!!」
突然馬車の中から、男性の声が響いたのだ。
「え?落石!?」
メロリアが崖の上に目を向けると、直径3メートルはありそうな巨大な岩が馬車めがけて転がっていた。
それも、後5秒もすればぶつかる距離だ。
同時に、馬車から3名の男と1人の女性が飛び出した。
おそらく、馬車を諦めて命を守る選択をしたのだろう。
「エーテルリフト!」
メロリアは、即座に大岩に手をかざし、魔法を唱えた。
詠唱なんて、そんな余裕など無い。
直後、大岩を優しく水が包み込み、風と共に馬車を避けるように崖の下に飛んでいったのだ。
「よかった。」
メロリアは安堵からその場にポテンと座り込んだ。
「おぉ、神様だ!女神様が助けてくれたんだぁ!!」
(ぱちぱちぱちぱち)
馬車を乗り捨てた男女が戻ってきて、メロリアに向かって拍手喝采をした。
「いやぁ、助かりました。それに、ものすごい魔法を見せて頂き本当にありがとうございました。お名前を伺っても?」
見たところ商人と思われる男がメロリアに向かって改めてお礼をした。
「いえ、体が勝手に動いちゃって。名前…メロリアといいます。」
メロリアは感謝される事に不慣れで戸惑いを隠せずにいた。
「メロリア様、とてもお若いのに大変ご立派な魔導士で、このご恩は一生忘れません。」
「いえ、そんな感謝されるような事してません、、」
メロリアは、恥ずかしくなり逃げ出したのだった。
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