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傷ごと愛してくれますか  作者: ゆずあん
5/11

5 確かめたい①

◇◇◇



―ロイはあんなふうに濁して返事をしていたけど、性格的に怒れなかっただけ。よく考えれば気にするほどのことではないのかも。



ベッドの中で金庫部屋の出来事を一晩中考え続けて私が出した結論だった。



ロイは人と波風を立てるようなことは苦手な性格だ。

反論して言い合いになることを避けたのか、私が同じ店にいることを知って早くこの話題を切り上げたかったということも考えられる。

「役に立たなきゃ」という言葉も、私への純粋な感謝の気持ちから出てきた言葉かもしれない。

その考えが浮かんでからは、だんだんとそれが合っているような気がしてきた。


それでも気分は晴れなかった。




―あの店員のせいよ。


この顔を出して生活するようになってもう何年かたつ。あの店員ともその時からお互いを知っているし、これまで私に何か嫌なことを言ってきたこともなければ、奇異の目で私を見てくる様子もなかった。容貌など関係なく接してくれているのだと思っていた。

みんなと同じように私を見てくれていると感じていた人が実は私をあんな風に思っていた、という事実に、自分が思っていたよりずっと深く傷ついていた。



―やっぱり、私は人から見ると「価値の低い人間」になるのだわ。



一定の安心感を得ていた相手から聞かされる本心はとてつもなく鋭い刃となって私の胸を突き刺す。正面からの悪口や、私を知りもしない他人からどんな反応をされても、飲み込んで前向きに頑張ってこれたが、これはまだ経験がない。私のことを「知っている」人間から見ても、傷のある私は「価値が低い」のだと思われているということ。

「あなたがどんなに頑張ろうと、その傷が持つマイナスには打ち勝てない」

あるいは、

「あなたの中身はその傷に劣る」

と言われているようで、あの時の言葉を思い出すたび、これまで必死で積み上げてきた自身がガラガラと崩れ落ちていく。


これまで苦しい気持ちになった時、その気持ちを飲み込めたのは一緒に怒ってくれる家族や、そんなことであなたの価値は変わらないと支えてくれる周りのみんながいたからだ。


だからこそ、あの時、私のために怒ってくれたら。

私はこんなにも傷つき、目がずきずきするほど泣かずに済んだのかもしれない。



―でも、その役をロイに強制することは間違っている。



それも同時に理解していた。

この傷と生きていくのは私なのだから、自分自身がこの傷と生きていく強い心を持たなくてはいけない。

周りの人の支えは必要だが、依存してはいけない。



そこまで考えて、私はすーっと静かに息を吸い込んだ。

ベットにうつぶせにうずくまり、ダンゴムシのように丸まっていた頭をガバリと上げると、もううっすらと外は明るくなってきていた。



「今日、ロイに会いに行こう。」



早朝の静かに張り詰めた空気のなかで、あえて私は声に出して言った。


さっとベットから降り、着替えに取り掛かった。





◇◇◇





出勤の支度を終えて自分の部屋から階下へ降りると、ベーコンの焼けるいい匂いがしてきたが、私は胸がいっぱいであまり食欲は湧かなかった。


「リリア、おはよう。」

「おねえちゃん、おはよ。」


ダイニングには朝食のパン屋やベーコン、チーズなどが並べられていて、リックがミルクの入ったコップを握りしめながら朝のあいさつをしてくれる。母も朝食づくりがひと段落して、席についていた。


泣きはらした目は冷水で冷やしたりマッサージしたりしてなんとか違和感のない状態に戻した。目は多少充血しているが、かゆくてこすったなどといえば信じてもらえる程度で落ち着いている。


「あら、珍しい。今日は髪をおろして行くの?」

「う、うん。たまにはいいかと思って。誕生日にリックがくれた髪飾りをしようと思って。この髪の方がピッタリ似合うと思って。」

「使ってくれるのうれしいな。おねえちゃん、似合ってる。」


いつもと違う髪形を指摘されてしまったが、予想はついていたので、用意していた言い訳をする。昨日の出来事がどうしても気になってしまって、これまでのように傷がよく見える一つ括りの髪形はためらわれた。胸のあたりまで長く伸ばした髪をおろせば、傷のすべては隠れないが、かなり目立たなくはなる。

私の誕生日にリックが母と選んで贈ってくれたカチューシャのような髪飾りは、花のモチーフがたっぷりついていてとても可愛らしい。2人の気持ちがこもった髪飾りを言い訳に使うことに小さく胸が痛んだ。


「仕事終わりに、今日はロイに会いに行こうと思うの。だから夕食は食べないか、遅くなるかすると思う。私の分は作らなくていいわ。」

「あら。だからその髪型なのね!ふふふ、楽しんできて。」


ロイに会うことと、私の髪形を結び付けてニヤニヤと笑う母を見て何とも言えない気持ちになったが、いつもと変わらない自分を見せるため、食欲のわかない体に朝食を詰め込んでいく。この優しい母に心配はかけたくない。


「ママ、パパは今日本店かしら?」

「パパ?そうよ。特に出張や接待があるとは聞いてないわね。」

「そっか。」


ロイに会うには、パパにその日のロイの出勤先を聞くのが一番早い。ママの返事を聞いて、仕事の合間に本店に寄ってみることを決める。私の今日の出勤先の店舗は昨日とはちがう地区だ。そこの店舗でも新商品を中心に客に売り込みをかける。それだけでなく、私が一番商品について詳しいから、店員に売り方を教えるのも仕事の一つだ。今日の店舗は本店と同じ地区にあり、歩いて15分程度。混雑していない時間で寄ることはできそうだ。パパに会うより先に本店で仕事をすることの多いロイに会える可能性もある。



私は最後にぐいっとミルクを飲み干し、足早に家を出た。


このままではいつまでたっても出発できぬ…サブタイトルを変えようかと考え中。

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