#記念日にショートショートをNo.53『繋ぐ花よ咲き誇れ』(A flower that connects hearts,to be in full bloom.)
2021/2/2(火)節分 公開
【URL】
▶︎(https://ncode.syosetu.com/n4032ie/)
▶︎(https://note.com/amioritumugi/n/n121693a98796)
【関連作品】
「ハルココロ」シリーズ
彼女➖佐倉小春はいつも静かだ。
誰とも喋らず、いつも一人でいる。
今日も朝学校へ向かう時から、夕方家へ帰る時まで、ずっと一人でいる。
一人で電車に乗り、ドアの側に立ち、車窓の外の流れ行く景色を眺めている。
僕はずっと、それを見ている。
電車が駅に止まり、ドアが開いて、おばあさんが乗り込んでくる。
と、「よっこらしょ。」と少し足を上げて電車に乗り込んだところで、おばあさんのポケットからハンカチが落ちた。
彼女はすぐにそれを拾い、おばあさんにハンカチを渡そうとした。
しかし喋りかけた口を両手で押さえ、目を大きく見開いて固まってしまう。
見ていた僕は、おばあさんに声を掛けた。
「ハンカチ、落としましたよ。」
僕が彼女に歩み寄ると、彼女が頷いて僕の手にハンカチを載せた。
僕はそれをおばあさんに差し出す。
「おやまあ、2人共、ありがとう。」
おばあさんは僕らにお礼を言うと、ハンカチを受け取り、空いていたシートに腰掛けて目を閉じた。
後ろから肩を叩かれて彼女を振り返ると、彼女が手を動かし始める。
その手が形づくる言葉は、彼女の笑顔が表していた。
田んぼの畦道を歩いていたら、雪の中に一つぶの種が落ちていた。
地面に落としていた視線を前に向ける。
制服姿のショートカットの女の子が、少し前を歩いていた。
➖もしもこの種を土に埋めたなら、果たして春、花は咲くのだろうか。➖
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
僕はスクールバッグを雪の上に置くと、雪を掘り始めた。
やがて、茶色い土が白い雪の下から顔を出したので、僕はさらにその土を少し掘り、拾った種をその中に入れ、その上に土をかぶせた。
もし彼女がこの種を落としたのであれば、僕の役割はそれに春の日差しを与えることだ。
そして、小さな花を一つ、咲かせたい。
それが、僕➖青葉大樹に出来ることだ。
【登場人物】
○佐倉 小春(さくら こはる/Koharu Sakura)
●青葉 大樹(あおば だいき/Daiki Aoba)
【バックグラウンドイメージ】
○Goose house/『♪繋ぐひと』
○山田 尚子 監督作品/『聲の形』(the shape of voice)
【補足】
【原案誕生時期】
2020年8月頃