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 街灯の明かりを頼りに二人は道路を歩いて行く道路と言っても所々が途切れており明かりが無ければ道に迷ってしまいそうな程周囲には何も無い荒野が広がり荒れた大地を晒している。


(この世界に飛ばされて少しの時間しか経っていないがマナが極端に少ない理由もこの光景を見れば分かる気がするな。)


 マナとは自然界に発生するもので土地の豊かさなどを表す物でもあった。つまりこの世界の様に自然が少なく大地が枯れてしまっているような状態では発生する量が少なくなるのも仕方の無い事と言えるかもしれない。そんな事を考えながら辺りを見回していると道の先に建物の影がいくつも確認できた。ようやく街に付いたのかとアダムは思ったがどの建物にも明かりはついておらず人の気配も無かった。不思議に思っていたがその影に近づいていくとその理由が分かった。どの建物も破壊の痕が色濃く残り半壊している物が殆どでとてもでは無いが人が住める状態では無いようだ。


「この廃墟はいったい何なんだ?意味があって残されている物なのか?」


 人が住む街の近くにこういった物が残されている理由に見当がつかずアダムが声を上げるとアキナは少し驚いたような反応を見せる。


「そっかオッサンは山奥に住んでたから最終戦争の爪痕を見るのも初めてなのか。この辺りに残ってるのは大昔の戦争で破壊されて放って置かれてるその時の名残なんだって。ここだけじゃ無くてこの国の至る所に同じような人の住めない廃墟が残されてるんだよ。」


「俄かには信じられん話だがそんなに大きな戦争だったのか?」


「この国以外にも世界中で同時に戦争が起こった所に機械が人間に反乱を起こしてとんでもない大戦争になったんだってアタシも勉強はあんまり好きじゃないから詳しくは知らないけど当時この国に住んでた人の六割ぐらいは犠牲になったんだってさ。これでも他の国に比べたら被害はマシだったんじゃないかって言われてるんだってさ信じられないよね?んでその被害から立ち直る事が未だに出来て無いから探索できる場所や重要な物が少ない田舎の復興は後回しにされてるんだって。」


 荒唐無稽な話の様に聞こえるが街灯の光が届かない暗闇の中に浮かび上がる廃墟らしき影はかなりの数に上りその被害を物語っている。


「そうは言うがその戦争があったのは大昔の話なんだろう?そんなに復興は進んでないのか?」


「首都や大都市の周辺なら復興は進んでるらしいけど、未だに暴走した機械は人間を攻撃目標にして襲撃してくるし人間同士でも足の引っ張り合いしてるらしくて全然進まないんだってウチの院長が愚痴ってたよ。」


 話を聞く限りこの世界を取り巻く状況はかなり厳しいものに思える。そのため女神が言うような休暇を過ごせるかどうか怪しい気配を感じるが、今まで生活していた世界とまるで違う環境である事は間違いない。今後上手く過ごせるかどうかはこれからの生活に掛かっているだろう。


「成程な。俺には街での生活は想像つかないんだが誰か基本的な事を教えてくれる人に心当たりは無いか?」


「それじゃあせっかくだしウチの院長にスカベンジャーになるための勉強を一緒に教わろうよ!オッサンも知らない土地に飛ばされて仕事無いんでしょ?凄い力持ちだし絶対スカベンジャーになった方がいいって!」


「スカベンジャー?そういえばさっきのごろつき達もスカベンジャー崩れがどうとか言っていたな。どんな事をする仕事なんだ?」


「基本的には戦前の遺跡や遺構なんかを探索してゴミを拾ったりミュータントを討伐して生活する何でも屋みたいな感じかな?もっと都会なら仕事の依頼も多いらしいけどジャンクヤードぐらいしか探索できる場所の無い田舎じゃたかが知れているけど、その分ジャンクヤードの外周ぐらいなら余程運が悪く無い限りはアタシみたいな子供でも何とか生きていけるぐらいの稼ぎは稼げるんだぜ。」


 アキナの話を聞く限りスカベンジャーという職業は冒険者に非常によく似ているような印象を受ける。アダム自身勇者として世界を何度も救った経験があるとはいえまともに職に就いた経験がある訳でも無いためこの世界にもそういった職業があるのは救いともいえる。


「山奥で生活してた頃には野生の動物を狩ったりしていたからな戦闘面では役立てるかもしれないしそれはありかも知れないな。顔を合わせる事があれば頼んでみるとしよう。」


 アダムがそう言うとアキナの表情はぱあっと明るくなった。勉強があまり好きでは無いと言う話だったし道連れが出来そうなことが嬉しいのかもしれない。


「それがいいよ!そうしよう!ほら早く行こうぜ!」


 俄然元気になったアキナはアダムの手を取ると善は急げと言わんばかりに走り出す。その勢いに引きずれるようにしてアダムも走り出す。そのまま少し走っていくと廃墟ばかり並んでいた道の先の建物に明かりが灯っているのが見える。


「ほら!あの辺りからはもうアタシの住む街ジャンクタウンだよ。ジャンクヤードの近くにあるからそう呼ばれてるってだけの寂れた街だけど気に入ってくれると嬉しいかな。街の案内をしてあげたい所だけど今日はもう遅いし孤児院に帰って休もうぜ。明日は戦利品の換金がてら街の案内をしてあげるよ。」


 走っていた勢いを緩め息を弾ませながらもアキナは街の明かりに安堵したようでほっとしたような表情を浮かべている。アダムに助けられたとはいえ危機的状況であったのは間違い無いので無事に帰って来れた事で気が緩んだのだろう。アダム自身もこの世界で初めて訪れる街にの姿を楽しみにしていた。


 ジャンクタウンの中の通りを二人は進んで行く。アキナは田舎だと言っていたが通りを行き交う人の姿はそれなりにあるようでアダムの感覚ではそこまで田舎のようには思えなかった。特に現在歩いている区画には露店や屋台が並ぶ広場や、どんちゃん騒ぎの喧騒が漏れ聞こえて来る酒場のような建物があり一際賑やかな場所になっている様だ。アダムはどちらにも興味は惹かれはしたが、明日には街の案内をして貰えるとの事だったのでその時の楽しみに取っておく事にして先を進むアキナの後を見失わないように追っていった。


 そうこうしている内に賑やかだった区画を抜けて住宅地のような区画に入る。立ち並ぶ建物は荒野にあった廃墟に比べると随分マシなようだったがどれも破壊の痕を無理やり修繕したような継ぎ接ぎがある家が多かった。そんな中アキナは立ち並ぶ建物の中でも一際大きな建物に向けて迷いなく進んでいく。所々崩れた塀に囲まれたその建物は最上階である三階の一部分が吹き飛んでおり野ざらしになっているものの、それ以外の部分はしっかり補強されているようで、比較的頑丈そうな作りをしている。広い庭が面しており身体を動かすことも出来るようで、小さな子供たちのためなのか遊具のような物も用意されていた。建物を観察している内にアキナは崩れた塀を越え正面玄関まで進んでおり丁度ドアを開けこちらを向いて手招きしている所だった。


「想像以上に立派なところに住んでるんだなかなり驚いたぞ。」


「そう?実際住んでみると色々不便なところも多いよ無駄に広いしね。」


 そう言いながらも少し照れたように笑うアキナだったが、玄関で話声がしているのを不審に思ったのか一人の少年が様子を見に現れた。アキナより五歳程年下に見える活発そうな印象を受けるその少年は玄関で談笑している二人の姿を発見し顔を交互に確認し大きく息を吸いこむとそれに気づいたアキナが何か言う前に建物内に響き渡るような叫び声をあげた。


「アキナ姉が男連れて帰ってきたぁーーーー!!!」

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