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意識のない三人のごろつき達を縛り上げ無力化させたアダムは腰をトントンと叩きながら立ち上がる。そう時間はたっていないはずだが少女は落ち着いただろうかと座って水を飲んでいた辺りを見ると、ちょうどこちらの作業が終わったのを見てこちらへ向かってトコトコと歩いてくるのが見えた。
「お?もう大丈夫そうだな」
「おかげさまでしっかり落ち着けたよありがとうオッサン」
少し照れたように口を尖らせながらもアダムに礼を言う少女、女神の加護を受け数百年の長きに渡り生きて来たアダムにとってはただのオッサン扱いされるのも新鮮な事だった。確かに整った見た目はしているが、見た目の上の年齢的には自らの能力の最盛期である三十歳前後の頃で固定されている。やせ形で発育も良くないようではあったが十を幾つか越えているであろう少女に取ってはオッサンと呼んでも差し支えの無い年齢だろう。
「俺はアダム・パーカーってんだよろしくなお嬢ちゃん。」
「アタシはアキナってんだよろしくな!オッサンは突然空から落ちてきたようにみえたけど、どうやってここに?」
「あー、それなんだが俺も良く分からなくてな。俺自身は山奥でひっそりと生活していたんだがそこで光に包まれたと思ったら次の瞬間にはあそこに転がってたって訳だ。」
女神に転移魔法によって世界を跨いで転移させられたなどと言ってもマナの希薄なこの世界で理解されるかも分からないので起こった事実を端的にアキナと名乗った少女に告げる。アダムの話を聞きながら彼女は合点のいったように頷いた。
「そういう事なら運悪く最終戦争前の時代の技術を秘めた遺物の暴走に巻き込まれたのかもね。極稀にだけどそういう運の悪い人がいるらしいってのは噂で聞いたことあるよ。」
「そんな物があるのか?山奥で生活してたからそういう物には疎いんだが。」
まさか女神の転移魔法に匹敵するような技術がこのマナの薄い世界にあるとは考えていなかったアダムは驚いたように目を見開くと、その反応にアキナは笑顔を見せる。
「この辺も田舎だけどオッサンはとんでもない田舎から飛ばされて来たんだね。その分だと手持ちも心許ないでしょ?丁度いいしコイツらの持ち物貰っちゃおうよ。」
アダムに取ってはありがたい事だが、先ほどまで命の危機に瀕していたとは思えない程の切り替えの早さでアキナは縛り上げられた男たちが身に着けた物の物色を始める。
「どんなものが価値があるのか分かるのか?」
「コイツらボロっちいけど銃も持ってるしスカベンジャー崩れだよ。大体の物は露店にでも持っていけば換金できるに決まってんじゃん。」
「そういうもんか、金目の物を回収したらコイツらはこのまま放置していくのか?」
「それでも別にアタシはいいんだけど、連れて行けるなら警備兵の詰め所にでも突き出してやるのもアリだね。そこで調べて懸賞金が掛かってたりすると報奨金も貰えるらしいし。」
ゴソゴソとごろつき達の装備を漁りながら答えるアキナは換金できそうなものを見繕っていく。アダムはその姿を眺めながらも彼女の指示に従ってごろつきの持ち物であったバックパックに戦利品を詰め込んでいった。暫くの間そうしていると三名のごろつきから金目の物を回収する事が出来た。その成果は満足のいく物だったのかホクホク顔のアキナだったが目を覚ます気配の無い三人組の様子に困ったようにアダムの方をちらりと見る。
「こいつら起こさないと連れていけないよね?」
「まぁこれぐらいなら持つのは無理だが引きずっていいなら問題ないぞ。」
いくら人間離れをした動きをしてごろつきを制圧して見せたとはいえ生身の人間が、ごろつき達から奪ったバックパックに戦利品を詰め込みその荷物を背負った上で、意識のない三人の成人男性を引きずって歩くなど不可能だと思ったアキナはふざけているのかと思い茶化してやろうかと思ったが。次の瞬間にはごろつき達の身体が結ばれたロープの先端を持ちスタスタと歩いていく、たわんでいたロープがピンと伸びるとズズズと地面の身体が擦れる音共にごろつき達の身体が引っ張られて進んでいく。アキナは歩くペースも乱れることも無く事も無げに男たちを引っ張って見せたアダムに驚きポカンとしていると、何も考えていないかの様にずんずんと歩いていく姿が見え、我に返り慌ててその大きな背中を追いかけて行った。
「おーいオッサン道分からないんだからアタシの事おいてくなよなー!」