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銃撃を受け倒れた後も念入りに十数発全身に弾丸を浴びせたはずの男が、何事も無かったかのように起き上ったのを見てごろつき達は目の前の光景が信じられないのか、目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
「こりゃいったいどういうことだ!?こいつはサイボーグだったのか!?」
「そんなわけねぇ!どう見たって生身じゃねえかそれにサイボーグ化できるような奴が
こんなゴミ溜めなんかに来る意味なんてねえだろ!」
口々に叫びながらもう一度銃撃を加えようと狙いを付けなおそうとすると散漫な動きで起き上がり、すぐそこに立っていたはずのアダムの姿を見失う。ギョッとして辺りを見回すが見当たらない。仲間の後ろだ!という声に反応して振り向こうとした時には強い衝撃が身体を襲い意識を手放した。
ドサリと自らの相棒が地に伏せる音が聞こえて来るのと同時に再びアダムの姿を見失う。ごろつきの男は錯乱したかのように狙いもつけずにやたらめったらに銃を乱射し始める。最後の攻撃の瞬間だけは目に捉えることが出来たが今しがた倒された相棒と同じく完全に相手の姿を見失っており、その速度を目で終えていないことを顕著に表していた。叫びながら銃を乱射していたがすぐに弾が切れ弾倉交換のタイミングで姿を現したアダムによって相棒と同じように意識を刈り取られ地に伏せる事となった。
あっという間に二人の男を無力化させたアダムがリーダー格の男の方に視線を向けると男は素早い動きで倒れていた少女を抱き起しその頭に銃を突きつけた。
「動くんじゃねえ!下がれ!てめえがそこから消えた瞬間にでもコイツの頭はぶち抜かれることになるぞ!」
「そうするとあんたの聞きたかった情報が聞けなくなるんじゃないのか?」
「うるせえ!手前みてぇな化け物とやりあうよりマシだ!儲け話は他にも山ほどあるんだからな」
アダムは化け物という言葉に少し悲しそうにしながらも苦笑いを浮かべ、まぁ仕方ないかと小さく呟き、地面に倒れる仲間も無視して少女を盾にするようにしながらジリジリと後退していく男に向けて自らの指で銃のような形を作り狙いを付ける。
「おいおい何のつもりだ?まさかその指鉄砲で俺を撃つつもりじゃねえだろうな」
自らを攻撃することのできない男が苦し紛れの行動に出たのかと馬鹿にしたような笑みを浮かべさらに後退しようとしたその時、一瞬指鉄砲の先が光ったと思った次の瞬間銃を構えていた腕に何かに貫かれたような衝撃が走り銃を取り落としてしまう、不味いと思い逆側の腕で抱えていた少女を突き飛ばしすぐに拾おうとするも、即座にに距離を詰めてきたアダムによって他の仲間と同様に意識を刈り取られ地面に倒れ伏すのであった。
(コイツらの武器がどの程度の水準かは分からんがこの程度なら強化魔法無しでも大丈夫だろうな。まぁ痛い事は痛いんだが、耐えられないわけじゃあない。しかし思った以上に魔法の威力は下がっているな、それにマナも余分に消費しているようにも感じる・・・)
下手をすると大怪我につながるかもしれないというのにあえて無防備に攻撃を受けてみたり軽く魔法を使ってみたりと女神の言う通り理の違う世界に来てしまっているのであろうと言う事を改めて確認しつつもひとまずは少女の方へ向かっていく。
「大丈夫かいお嬢ちゃん?怪我は・・・そんなにひどくはないみたいだな。」
命の危機を脱して軽い放心状態で座り込む少女の前に腰を下ろしその顔の傷を確認するために覗き込むアダムの端正な顔がすぐ目の前にあり、その透き通るような碧い目をぼーっと眺めていた少女は我に返り慌てて起き上がろうとするも上手く足に力が入らずに倒れそうになるが、スッと伸びてきたアダムの手によって助けられる。
「おっと、大丈夫か?あんな事があったんだ無理もない落ち着くまでこれでも飲んで暫く休んでおくといい」
何処からともなく水の入った瓶を取り出し少女に手渡した瓶を受け取った少女は、恐る恐る口をつけ小さくありがと、と呟きちびちびと飲み始めた。
「俺は彼らを縛り上げておくから落ち着いたら声を掛けてくれ」
そう言い残して倒れているごろつき達の方へ歩いていく男の姿を目で追いながら、あの男は何者だろうかと考える、ごろつきとは言え銃で武装した男達を危なげなく制圧し、その前には数十発の銃弾を浴びせかけられたにも関わらず何の痛痒も感じさせずにケロっとしている。着ている服は穴だらけにはなっているが身体には傷一つついておらず鍛えられた肉体が確認できる。
自らのピンチに颯爽と登場した金髪碧眼の大男に物語の中でしか登場しないヒーローの姿をだぶらせ少し顔を赤らめながらも、テキパキとごろつき達を縛り上げていく姿を眺めどういった人物なのかと思考を巡らせていた。