09.常連
相も変わらず真っ白な部屋の中。どこからか鈴のような音が鳴り響く。それに反応して振り返ってみた先には、この空間と同様、真っ白な扉が一つ存在していた。その前には一人の、どこか物悲しい雰囲気を纏った女性が佇んでいる。
部屋の白さと相反し、漆黒にその身を包まれた女性は、頭にちょこんとのっけられた魔女帽子を手に取ると、一礼。すぐに帽子をかぶり直す。
「おや、いらっしゃい。今日も来たのかい?」
ドールを抱えた店長は言った。他の客とは異なり、どこか慣れた様子の彼に、女性はただ一度、こくりとうなずく。
「そうかい……まあ、窓はいつも通り通常運転だからさ。好きに使いなよ」
「……ありがとうございます」
ぺこりと下げられた頭。反動で軽く傾いた帽子をせっせと直すと、女性は部屋の中へ。奥の壁に、張り付けるように設置された窓へと歩み寄る。
女性が近づいたのは、右から二番目の窓だった。彼女はすがるように枠に手を伸ばすと、するりとそれを撫で付ける。そうしてごくりと喉を鳴らし、あらかじめ枷の外された窓を開け放った。
──ふわり
優しい風が頬を撫でる。
大きく見開いた視線の先に見えるのは、一面に広がる花畑。色とりどりの花が咲き誇るその中心には巨大な大木が存在しており、その下には後ろ手に腕を組む一人の男性が佇んでいる。
少しばかり背の高い、顔に布を張り付けた男性だ。
真っ白な布には目だろうか、不思議な模様が書き込まれている。
「雅仁さん!」
女性が歓喜の声をあげた。
今までどこか暗かった顔には、光が差したように柔らかな笑みが浮かべられている。
開け放たれた窓枠をくぐった女性は、花畑を駆け抜けると、雅仁、と呼ばれた男性に迷うことなく駆け寄った。両手を伸ばし、すがるように抱きつく彼女を、雅仁はさも当たり前というように抱き止める。
「また来たのかい、メアリー……」
どこか悲しそうな声色だ。
メアリーと呼ばれた女性は、うん、うん、と頷いてから、顔をあげて儚く笑う。
「今日はとてもすてきなお土産話があるのよ! ぜひ聞いてちょうだいな!」
「ああ、もちろんだよ」
頷く雅仁に、メアリーは笑う。
まるでなにかに、とりつかれでもしたかのように……。