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06.ありえない
『……なにがまやかしよ』
ブチリと、目の前にあった花の花弁を引きちぎり、地に落とす。
そのまま、腹いせとばかりに踏みつけてやれば、花弁は忽ち無惨な姿に。
引きちぎれ、土の色と交わり、本来の美しい色合いを失ってしまう。
『まやかしなんて、そんな言葉で、あの人と私の関係を終わらせようとするなんて……ありえない……ありえないことよ……っ!』
──カチリ、カチリ
間接の音を鳴らし、首を一周回した人形。
やがて満足したのか、『ふん!』と鼻を鳴らすと、彼女はそのまま踵を返す。
大股で歩き、力強く地面を踏みしめる様は、まるで人間のようにも見えなくはない。
「マイハニー! こっちだよー!」
遠くから声がする。
元気よく叫ぶそれに、彼女は舌打ち。
いっそ今ここで逃げ出してやろうか、とすら思いながら、彼の元へとのろのろ向かった。
一人の、奇怪な男と
一体の、奇妙な人形
交わり合う二つの存在は、やがて運命の歯車を回し出す。
錆び付いたその音を、いやに大きく響かせながら……。