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異世界再び

元の世界に戻ってきて、2か月が経った。


私の生活は変わりなく毎日が過ぎている。

いなくなる前と、戻ってからも何ら変わらない日々。


それでも時間は過ぎていく。

昨日は終業式があって、今日からは夏休みになった。



朝に1度起きてごはんを食べてから、またベットに寝転んで漫画を読んだりしながらゴロゴロ過ごしている。


まぁ、1日目はこんな感じだ。

いきなり宿題をする気にもなれないし、今日はまず夏休みに入ったという実感を味わう日だ。

明日は咲ちゃん達と遊ぶ予定だし、休み中のお盆には父の実家に帰省する予定も入ってる。

従兄弟達に会うのも1年ぶりだな。変わってないとか言われそう。


ボーっとしながらただ天井を眺める。


平和だ。当たり前の安全で心安らぐ生活。

これが私の世界だ。


その時、ノックもせずに突然ドアが開いた。

そして、母親がヒョイと顔を出す。


「楓、悪いけど買い物行ってきてくれない?近所の富田さんとこ行ってきたいんだけど、お昼の食材なくて。夕飯はカレーにするから、それも合わせて買ってきてほしいんだけど」


聞いてはいるが、もう決定なのか母はメモを渡してきた。


「え〜外今暑いよ」

「午後になるともっと暑いわよ。お昼食べなくてもいいの?お母さん作らないわよ」

「もお〜行けばいいんでしょ。アイスも買ってくるからね」


どうせする事もなかったんだし、仕方ない。


お金を受け取ると、帽子を被って外に出て自転車を出した。


ジリジリと熱い日差しにアスファルトの地面が揺らいで見える。


行きたくないなと思ったけれど、そうゆう訳にはいかないのも分かっている。パッと行って、帰ってきたらまたゴロゴロしよう。

今日は午後も予定はないのだから。


自転車を走らせ10分くらいすると、1番近いスーパーへと着いた。

このくらいの時間でも、頭や背中から汗がポタポタと滴った。


本日はかなりの晴天なり。熱中症に気をつけてこまめに水分をとったり気をつけましょう。

頭の中でアナウンスのようにぼんやりとそんな事を考える。


こんな暑い時に出歩くもんじゃないな。

今日最高気温になってるんじゃないの?

店内は涼しいだろうな。早く入ろ。


自動ドアが開き、急ぐように店内へと足を踏み入れた。



そのはずだった。



けれども、急に景色が変わった。

視界に映ったのは、まるで観察するように私をじっと見る多くの人達の姿。


えっ……………?なに…………?

もしかして私、熱中症で倒れちゃった?

でも、倒れるほど外にいなかったし、目眩も怠さもない。


状況が分からずに、茫然と立ち尽くす私の前では何人かが慌ただしく動いていた。


1人の男がハゲ頭の老人にメモを渡し何かを告げる。

すると、老人はニコニコと笑いながら私へと近づいて来た。


警戒して後ろに後退るが、後方にも人がいる。

ふと足元の模様が目に入った。


赤い模様。よく、漫画とかで魔方陣とか呼ばれるあれみたいだ。


「ようこそ、この世界へ。聖女様」


突如、声をかけられ思いっきりビクッとしてしまった。

しかも、すぐ側まで来ている。


「うえっ?あ、あの、今何て……………聖女?」


はい?何?どうゆう事?聖女って何?


完全にパニックだ。

オロオロと周りを見回すが、皆がじっと自分を見つめている。とても、スーパーの一角だとは思えなかった。


こんな事考えたくないけど、まさかまた前と同じように別の世界に来ちゃったんじゃ………………。


一気に血の気が引いた。


「突然の事で驚いているんでしょう。無理もありません。いつものように私からまずは説明しましょう」


そう言いながら、1人の男が前に出た。


「初めまして、立野 司です。君と同じ世界から来た、この世界の先輩だよ」


男は私の前へと来て、そう言った。


へ?な、何?やっぱり、ここは別の世界なの?それで、この人も私と同じなの?


老人は立野を見て、頷く。

立野は老人へとニッコリと笑うと、私の手をギュッと握ってきた。


「さあ、行きましょう。不安でしょうから、私がいろいろと説明して差し上げます」


ニコニコと笑ってはいるが、有無も言わせずグイグイと引っ張るようにして立野は歩き出した。


皆が引っ張られてゆく私をジロジロと見ていた。

喜んでるとか、歓迎してるような目じゃない。

それは嫌な目だった。



そして、私はある一室に連れていかれた。


閉じ込められるような恐怖を感じていたが、そこは豪勢な客室のようだった。


お姫様のようなふかふかでゴージャスなベットに、棚や、立派な応接のテーブルやソファがある。


「さっ、まずは座って」


ようやく彼の手が離れた。


逃げ出すとでも思ってたのか、結構な力で握られてたので、少し痛む手をさすりながら、まずは言われるままにソファに座った。


「ごめんな、早くあそこから離れたくて………。痛かった?」


私を心配するような声に、改めて男を見てみる。


茶色の髪に、茶色の瞳。さっきは動揺して、それどころじゃなかったが、かなりのイケメンだ。

サラサラの髪に、甘めの顔。これは相当モテてたに違いない。


「改めて、俺は立野 司。司って呼んでいいよ。ここに来てもう1年半になる。高2の時からだから、今は高3になるのかな」

「そんなに長く?あ、あの、状況がよく分からないんですが、どうゆう事なんでしょう?」

「そうだよね、何が何だかだよね。俺もこの世界に来た時はパニくったな、受け入れるまで結構かかったし」


司は懐かしむような、そして哀れむような瞳で私を見てきた。


「後から絶望するより、最初に現実を教えてあげるよ。期待も、望みも君にはもうない。ここは俺達のいた世界とは違う別の世界だ、そしてもう帰る事は出来ない」

「なっ、何言ってるんですか?」

「さっき見ただろ、あの魔方陣と術師達を。あいつらが俺らをこの世界に呼んだんだ、戦力として」

「戦力?」


どうゆう意味?まさか戦わせるつもり?私は特技もないただの女子高校生なんだけど。


「世界が違うからか、この世界では俺達の身体能力は脅威的なくらい上がってるんだ。それに信じられないだろうけど魔法も使える。夢みたいな笑える話だろ?」

「魔法………………」


なんかどえらい話になってきた。

私が魔法を使えるって?んなアホな。


「この世界の人達は、精霊の力を借りて詠唱をしたり、魔方陣を描いて力を増幅したりして魔法を使う。でも、どうゆう訳か俺らは無詠唱で想像力っていうのかな、念じるだけで魔法が使える」

「はあ……………」


魔法だなんて言われたってピンとこない。

アヴィが使ってたような魔法を私が使えるっていうの?

そんな、まさか。あり得ないでしょ。


「それが、この世界の奴らが俺らを召喚する理由だ。この莫大な力を自分達が敵わない魔族への対抗手段として使う為だ。俺達は戦う奴隷としてこの世界に呼ばれた」

「魔族…………?奴隷…………?」


司の言葉があまりに衝撃的すぎて、続く言葉が出てこなかった。


魔族って、んな世界観………知ってるけど。この世界って、もしかして前に来たあの世界と同じなの…………?

それに、司君の言う奴隷ってどうゆうこと?


「この世界にはいろんな種族がいてさ、その中の1つが魔族で現状1番強い種族なんだ。ゲームかよって世界だよな、そんな世界に運悪く呼ばれて戦わされる羽目になるなんて本当についてないよ」

「あの、それで奴隷って?」

「ああ、俺が勝手に言ってるだけで内緒ね。聖女様とか、勇者様とかあいつらは言ってるけど、単にパラメーターが万能タイプは勇者で、回復とか補助系に特化してるのが聖女、力に特化したのが戦士って呼んでるだけで敬ってなんかは全然ないよ」


司はじっと私を見た後、ニッコリと笑う。


「待望の聖女様じゃないからね。あいつらは召喚で力を使い果たし、その数ヶ月後に回復して再び召喚の儀を行う。そうゆうのが何チームにも分かれていて、ルーティーンのように召喚を繰り返してる。失敗する事も多いけど、成功もするから困るよね。だいたい3〜4人揃うと、チームとして魔族討伐に送り込むんだ」

「そんな…………、じゃあ私の前にも他の人達が?」

「ふうん、意外に冷静だね。そうだよ、俺がこの世界に来てから3組のチームが旅立って行ったよ。でも、誰も戻って来なかったし、魔族上層部討伐の知らせもなかった」


司は笑みをたたえたまま、更に言葉を続けた。


「悪い知らせがあるけど聞くかい?実は昨日召喚に成功していて2人いるんだ。柄の悪い荒っぽい男と、オタクみたいなデブが。おめでとう、君を入れて3人のチームの完成だ」


その言葉と、笑みを浮かべながらそんな事を言う司にゾッとした。


誰も戻ってこなかったって………死んだってことでしょ。そんなの行きたい訳ないじゃない。


「…………私に、もしそんな隠れた力があるならここから逃げる事だって出来ますよね?」

「今なら逃げれるね。でも、まだ何も使えないだろ?こんな異世界であてもなく逃げてどうする?指名手配もされ追われる立場になるよ。ここは人間の世界で1番力を持ったスロトニア帝国だ、異世界からの勇者や聖女は周知されていて逃亡者に力を貸してくれる人なんていないよ。この世界の人間皆共犯者だ」

「じゃあ、力を使えるようになってから逃げれば……」

「力を使う訓練の前に首輪をはめられる。逆らうようなら首を吹き飛ばされるよ」

「そんな、酷い…………」


本当に戦わせる為だけにこの世界に呼んでるんだ。彼がこの世界に来てから、3組も。その前にはどれだけの犠牲者がいたんだろう。

それをこの世界の人達は許容してきたんだ。


何だか身震いがした。


「人数が揃ってれば基本2ヶ月の訓練で送りだされるよ。死にたくないなら、死に物狂いで能力以上のもの目指して頑張りなよ」


まるで他人事のように言う司に目をやる。


「司君はこれまでどうして行かなかったの?」

「俺はこの帝国の皇女様のお気に入りなんだ。顔がいいとこうゆう時は得だと思うよ」


皇女のお気に入り…………。

全てはこの世界の人達の采配ってこと?勝手に呼んでおいて、こんな非人道な扱いってある?こんなの酷すぎる。


「見た目の割に肝が据わってるね。昨日の奴らなんて、喚き散らして酷かったよ。その点君は…………。そういえば名前聞いてなかったね」

「……………関口 楓」

「ふうん、楓ちゃんか。短い間だろうけど、よろしく」


司は笑みを浮かべて、握手を求めるように手を差し出してきた。

だけど、握手なんかしたくなった。

よろしくするつもりなんかないくせに。


プイッと横を向いていると、司はテーブルの上に薄めの本を置いた。


「これ読んどいて。昨日の奴らみたいに聞く耳もたない奴用に、ガイドというかマニュアルみたいにまとめたものだから。突然の事で混乱してるだろ。俺はもう行くけど後でメイドが来るから世話してもらって、今日はゆっくり休んで」


司はソファから立ち上がると、すぐに部屋を出て行こうとした。


「あ、あの!司君は元の世界には帰りたくはないんですか!?」


司の背に向け言った言葉に、その足が止まる。


「…………帰りたいに決まってるだろ」


それだけ言うと、司は振り向きもせずにそのまま出でいった。


残された室内で1人、座ったままボーっとする。


あまりの出来事に、今自分の身に起きていることをすんなりとは受け入れられなかった。でも、これが今起きている現実なのだろうという事は分かっていた。


信じられない。これで2回目の異世界なんて。


前の時にはアヴィがいた。その存在にどれだけ助けられただろう。心強かっただろう。

けれど、ここがもし前と同じ世界ならアヴィがいる。

諦めるにはまだ早い。それを確かめられれば、希望はあるのだから。

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