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悪戯っ子アヴィ

あれ………もう朝?でもまだ暗い。もう少し寝てられるかな?


薄く目を開けてから、再び目を閉じた。


まだ、眠い。でも布団固いな、ゴツゴツしてる。まるで石の上で寝てるみたいな…………。


その瞬間、私、関口 楓はハッとし目を開いた。


昨日の全ての事を走馬灯のように思い出した。


ここは私の世界じゃない!私昨日この変な世界に………!


だが、目を開けて絶句する。


今が何時なのか分からないけど薄暗い世界。

そして下に聳え立つ見渡す限りの木々。


何故か私は人1人分くらいの狭さの、木々より高い岩山の上で寝ていた。


「ギ………ギャアアッ!!」


な、何で!?何でこんなとこで寝てるの!?


怖くて身を起こす事も出来ず、とにかく寝ながら岩肌にしがみついた。


すると、大笑いする声が頭上から聞こえてきた。

頭だけ上の方に向けると、宙に浮いたアヴィが腹を抱えて笑っている。


「あははははっ!すっげー声!ビビった?ぶっ、あははっ!変な顔!超笑える!」


こ、このクソガキー!!お前が犯人か!?


怒りが爆発しそうだったが、ぶち切れて降ろしてもらえなくなったら困るので、どうにか怒りをのみこんだ。


「アヴィ君、人間はすぐ死んじゃうからこうゆう危ないことしないで欲しいな〜。そして、今すぐ下ろして」


精一杯の笑顔で笑うと、アヴィはニヤッと笑った。


「いいぜ、下りるか」


そして、突然私をヒョイと持ち上げると、そのままそこからピョンと飛び降りた。


「う………ギャァァア!!」


凄い勢いで急降下していく。


あーこのバカバカバカバカーッッ!!


だが、着地は衝撃もなく、軽やかにトンと地に降りた。


「ビックリした?」


ニヤニヤと笑うアヴィに対し、放心し、もはや言葉も出ない。


心臓に悪過ぎる。呼吸をする事さえ忘れていた。


ただのお子様のクソガキなら大した悪さを出来ないからいいが、アヴィは中身はクソガキだけど、成人の大きさで、いろんなことが出来る強い力を持っているから手に負えない。


ああ、もう怖かった!

何でこんな目にあわなきゃいけないの!


強く唇を噛んだが、瞳からはポロポロと涙が溢れてきた。


泣いたってどうにもならないのは分かってる。

でも、昨日から気を張り詰めていたからか、1度泣いたら涙が止まらなくなった。


そんな私をアヴィは何も言わず見る。いや、見るなんてもんじゃない。めちゃくちゃ覗き込んで見ようとしてきた。


「なあ、泣いてんの?泣き顔見せろよ」


うわっもう最悪。慰める気ないなら、そっとしといてよ。


涙が止まらなくて、手で顔を覆って泣いた。

だが、感慨にもふけれない。近くでチョロチョロ動くアヴィの気配がするからだ。


昨日はアヴィと話しながら歩いて、そのうちに疲れてきて少し寝させてと木の下で眠りについた筈だった。

それが起きたら、あんな所で寝させられてるとは。

アヴィにしてみたら、イタズラのつもりなんだろうけど、あんな所から落ちたら死んじゃうんだからね!

頭が幼いからなのか、魔族がそうゆうものなのか分からないけど、ホント信じられない!


突然顔を覆ってた手をグイッと引っ張られる。


「うわ〜やっぱり不細工!」


そう言われ、むき出しになった顔をまじまじと見られた。


こ、この、誰が不細工だ!普通だって言ってんでしょ!

扱い易くて助かったと思ったけど、まさかこんな悪戯好きのクソガキだったなんて!

どうせなら紳士と出会いたかった!


「アヴィ〜、いい男はね、素敵って思われる行動しなきゃ駄目よ」

「ふむ、俺の事だな」

「高い岩山の上に置いてくるのは素敵じゃないな〜」

「でもドキドキしたろ?」


もうあんたなんて君付けしてやらん。ただのアヴィで十分だ。


泣いてるのも馬鹿らしくて、目元の涙をごしっと拭う。


「もう泣かないのか?もっと泣いとけよ」


アヴィは何だか残念そうだ。


は?慰めてくれるならまだしも、面白がってるだけのアヴィを喜ばせる為に泣くわけないでしょ。


「もう大丈夫。いろいろあったからちょっと涙がでちゃった」

「ふ〜ん。もっと泣いとけばいいのに。いつもより情け無い顔で笑えてちょっと可愛かったぞ」

「はは………」


なんじゃそりゃ。人の事馬鹿にしてからかって楽しんでるのね。


「ふー、睡眠もとった事だし、もう出発しましょう」


早くこんな世界とはおさらばよ。

この子とも短い付き合いだし、こんなでも私の救世主様としてのありがたみを忘れず仏のような心で接するのよ。


「えーと、どっちに進めばいいのかな?」


尋ねると、アヴィは腕を伸ばし、指で方向を示した。


ふざけて違う方向教えてないわよね。やりそうで怖い。


少し不信感はあるが、ここはもう信じるしかない。


「じゃあ行きましょう、アヴィ」


お嬢様風にニッコリと笑いかけ、その示された方角へと歩きだした。



昨日の夜、歩きながらこの世界について少し話した。


今私のいるここは、魔族達の中心地である北東の暗黒大陸の中の一角の、魔の森というところで、この大陸の3分の1を占めている大きな森で魔物の棲家らしい。

この暗黒大陸はずっと上空が厚い雲に覆われていて、日の光があまり差さず朝でも薄暗いままだそうだ。


他にも人間の住む大陸があるそうだが、説明も面倒臭さそうで1番大きいのがスロトニア帝国だ、だけで終わってしまった。

けど、それ以上聞いたところで今の私には関係ない話なので、私も深くは追求せず流していた。




しばらく歩いたところで、私の足がピタリと止まる。


「お………お腹空いた…………」


言うと共にに、グゴゴゴゴと地鳴りのような音がお腹から響いた。


思えば昨日の夜から何も食べてない。こんなにお腹が空いた事ないくらい限界の空腹だ。喉も最高に乾いている。


「何だ今の音?カエデのお腹からしたぞ」


アヴィが不思議そうに私を見る。


「お腹空いちゃって………。アヴィ食べ物とか持ってないよね?」

「お腹空くと音が出るのか?」

「あー、まあ、こんなでっかい音出たの初めてなんだけどね。お腹空きすぎて、もう動けない」


自覚したら力が抜けて、楓はその場にへなへなとしゃがみ込んだ。そして、再びお腹もグオーと音を立てた。


「あははははっ!獣の声みたいな音したぞ!」

「はー、もうお腹空いて死ぬ」


グオー!グオー!とお腹まで叫ぶように鳴り出す。


「うはははっ!お前腹からも声が出せるのか!」


ゲラゲラと笑うアヴィに怒る気力も尽きた。

代わりにお腹はグオー!グオー!と元気な音を立てる。


「アヴィはお腹空かないの?」

「あははっ!魔族は食べなくたって平気だぞ、何でもエネルギーにして取り込む事ができるから。食べる事も出来るけど非効率だよな」

「あっそ………」


じゃあ食べ物は期待できないか。ああ、本当にお腹空いた。


「なぁ、あれ食べるか?」


アヴィは木の上の方を指差すと、ビョンと高く飛び上がり木の上の実をもぎって着地した。


「これこれ〜」


ニカッと笑ったアヴィが差し出したのは、真っ黒な、いかにも毒々しい果物のような実だった。


美味しくなさそ〜。っていうか食べて大丈夫なの?

お腹壊しそうだけど、こんなんでも口に入れたくなるくらいもう限界。どうしよう、一口だけ試してみる?


果実を睨むように見てると、アヴィがぶぶっと吹き出して笑い出した。


「まっずそ〜!こんなん本当に食べんの!?」


こんニャロー!あんたが持ってきたんでしょ!


「だってこれしか食べるものないし。人間は食べなきゃ死んじゃうのよ。もう私、立ち上がる事もできない」

「へー。じゃあ、カエデはこれ食べて俺は菓子でも食べようかな」


アヴィは私へと果実を押し付ける。

そのアヴィの横に、突如顔の大きさ程の黒い渦のようなものが現れた。

その中にアヴィは手を突っ込むと、ホイップが乗ったカップケーキを取り出してむしゃむしゃと食べた。


は……?はーっっ!?お、お前は子供か!?食べ物あるのに、内緒にして見せびらかして食べるなんて、なんて意地悪なクソガキ!


「…………アヴィ、それ何かな?私も食べたいな〜」

「カエデは黒いの食べんだろ」

「そんな事言わないでそれほしいな〜。お願〜い」


こんの陰険野郎!この恨み、元の世界に帰っても忘れないからね!いやいや、私は仏。仏の心よ!


「アヴィお願い!」


それと同時にお腹もグオー!!と大きな音を立てた。アヴィは吹き出し、腹を抱えて笑い出す。


「あははははっ!お前のお腹にまでお願いされちゃ断れねーな!」


アヴィは笑いながら黒い空間に手を突っ込むと、菓子を3個掴んで私に押し付け、またゲラゲラと笑った。


「あ、ありがとう」


もっと勿体ぶるかと思えば素直じゃない。

こうしてる間も、催促するようにグオーグオー!とお腹が鳴るので、指をさして笑ってるアヴィは無視してお菓子を食べ始めた。


あの空間は何なのかしら。

お菓子とか食べ物保存しておけるのかな。便利ね。


あまりにお腹が空いていて夢中で食べていると、喉につっかえた。


ゴホゴホとむせ、喉元をどんどん叩いていると、目の前にスッとビンに入った水のようなものを差し出された。

涙目でアヴィを見るも、苦しいので無言でそれを受け取り一気に飲み干す。


そういえば喉もカラカラだったんだ。変なもの渡されたかと思ったけど、普通の水だった。


ようやく落ち着きアヴィを見ると、何故だか同情するような顔で私を見ていた。


「えっ、何?」

「いや、我を忘れてむさぼり食うカエデを見てたら哀れになってきて。小動物を飼うってこんな気持ちなのかな」

「小動物って………」


ペット扱いかい。おまけに私が?まあ、お世話になりっぱなしといえばそうなんだけど…………。でもペットって。


アヴィはスッと手を差し出してくる。


「つかまれよ。カエデ弱っちいから何度も躓いてただろ。引っ張ってやるよ」


子供のようだと嘲っていたアヴィからの突然のペット扱いに納得いかない部分はあるけれど、面倒見てもらえるのならあえて何も言うまい。

精神年齢は上でも、ここでの私は実質役立たずだ。

あれこれ世話焼いてもらえて、ごはんももらえるならペット上等!

プライドくらい売ってやるから、早く私を元の世界に戻してちょうだい!


楓はガシッとアヴィの手に掴まる。


「最後まで面倒みてくれだワン!」


それまではこの手を離してなるものか!


「ワン?お前本当に変な奴だな」


ぷっとおかしそうにアヴィが笑う。

お腹も満たされ気分もいいので私もアヴィにニッコリと笑い返した。


「さあさあ、じゃあさっさと行くワン!とっとと帰るワン!」


グイグイとアヴィを引っ張って歩き出す。


後どのくらいの道のりかは分からないけど、食料もどうにかなるし、アヴィに面倒を見てもらえるなら行けそうだ。


ゲラゲラと笑っているアヴィを見てると、こんな大変な事態なのにどうにかなりそうだと何だか安心した。


全然深刻そうじゃなく、楽しんでるからかもしれない。

子供みたいなのに、いろいろできて生意気で強気で何でも来いみたいな顔してるとこが心強い。


頼んだわよ、私の命綱!

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