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不安な気持ち

暗くなり始めた頃に、ようやく街へ着いた。


休暇もなしで馬を走らせていたので、振動でお尻が痛い。



道中、司君と2人で馬に乗っていたので、いろいろと話した。


ここに来て、初めての魔族討伐の時、何も分からず多くの兵を連れて行って心強いと思ったけれど、先程のような大量の虫の群れになす術もなく味方がやられていき、守ろうとしてもその間に、他の者がやられていき、堂々巡りだった事。生き残ったのは1000人中たったの数名だったという。

虫達を操っていた下級魔族は倒す事が出来たけれど、被害が大き過ぎた。あまりに簡単に死んでゆくので、案内だけしてもらって1人で行けば良かったと後悔した事。


魔族は魔物に血を与え、それを操るそうだ。。虫は魔獣などに比べ弱いが、大量繁殖をさせられるので下級の魔族がよく用いるという。捨て駒として、戦いの前に投入される事が多いので、この世界の人達がいると無駄に被害を大きくしてしまうと覚えておいてほしいと言われた。


見た目は自分達と同じだけれど、彼らはとても脆い。そして異世界から来た自分達はここではとても丈夫で、虫の特攻にも骨は折れるかもしれないが、潰されはしない強度があるらしい。

実践済みだそうだ。それも初級の治癒魔法で治るので、1人で充分に戦えるらしい。


頼りたくなってしまっても、戦いにおいての彼らは全くの役立たずで、守る事にさく戦力すら無駄になるので、俺は連れて行きたくないと司は言っていた。




魔物の侵入を防ぐ高い壁に囲まれた大きな街で、検問の兵士達に帝国発行の英雄カードを見せると心良く歓迎してくれた。


帝都に近い街なので規模も大きいが、この先どんどん進むと、街の規模も縮小されていくと司は言っていた。


もう暗かったので、宿の手配をしてから、大食堂のような場所で、このメンバーで食べる初の夕飯となった。


これまで城にいた時は、各自別の場所で食べていたからこうして顔を突き合わせて食事を食べるのは初めての事だ。


大吾はムスッとして司君を睨んでるし、竜也は背中を丸めてかなりの猫背で詰め込むように料理を食べている。

司君も黙々と食べていて、一切の会話もなく一部険悪な雰囲気を振り撒く奴がいるから空気が重く感じた。


かといって、私がこの沈黙を破る会話も思いつかないので、ひたすら沈黙が続いていた。


食堂なだけあって、沢山の人が別テーブルにいてガヤガヤと騒がしいのが、まだ救いだ。


あ〜、早く食べ終わって宿でゆっくりしたい。


すると、食事を食べ終えた司がようやく口を開いた。


「明日また出発するけど、次の街に着くのは距離を考えても一泊は野宿になると思う。馬は疲れてるから新しい馬に替えて、そのまま乗っていくか、小型の荷車か何か借りようかと思うけどどうする?」


尋ねられ、すぐに突っかかってきたのはやっぱり大吾だ。


「もう少しこの街にいたっていいだろ。着いたばっかで、俺らはこの世界の街だって初めてなんだ。どんなもんか見る時間もないのか?何でお前が全部決めてくんだよ」

「今のところ俺らの動向は魔族にバレてる。長居するとまた遊び半分に虫の群れをけしかけられるぞ。お前がこの街を守るのか?」


その言葉に大吾が怯み、悔しそうな顔で唇を噛み司を睨んだ。


嫌だな、大吾って何でこんな好戦的なんだろう。

今更ながら、司君が来てくれて本当に良かった。この3人で旅なんかしてたら、どうなるか分からなかったわ。


「あの、私は直接馬よりも荷車の方がまだいいかな」


恐る恐る言ってみるも、大吾も竜也も何も言わなかった。


「他に意見はないようだから荷車にするよ。明日の昼までには用意しておくから、それまでは各自自由行動で。今日入って来たのが南門、集合は13時に東門で」


そう言った司を、また大吾が睨む。


「チッ、偉そうに仕切りやがって」


じゃあ、あんたが仕切ってくれんの?文句ばっか言ってないで、いろいろしてくれて、ありがとうでしょ。


「じゃあ、ここから自由時間だから街でも探索してきたら?君に敵う人間はいないだろうし。あ、そうだ、娼館もあるよ」


司は口の端で笑った。

そんな司をまたギロリと睨みつけ、大吾は席を立つ。


「おい、デブ行くぞ!」


大きな声を出され、竜也はビクッとしたものの、のそっと立ち上がると先を行く大吾の後を着いて行った。


「………すっかり舎弟だわ、あれ。異世界に来てまでいじめっ子みたいなのに絡まれてついてないわね」


せめて、大吾がいないメンバーなら良かったのに。


「ああゆう生き方が楽なんだろ。でも、ここではいつかは戦わないといけなくなる。死を前にした時、優先するのは自分だ」

「うん…………」

「今日はどうする?楓ちゃんも街の探索したいの?」

「疲れちゃったから宿で休みたいな」


街も見てみたい気もするけど、今はとにかく休みたい。


「そっか。明日は出発までどうする?」

「司君についていっちゃ駄目?私もいろいろ覚えた方がいいだろうし、それに1人でぶらぶらするにはまだ心細いというか………」

「いいよ。そうだろうと思って声かけたし」


ニコッと笑う司を見ながら、ホッとした。


司に頼ってばかりだな。早く私も一人前の冒険者にならないと。同じ旅の仲間として、司の負担になってばかりでは駄目だ。



その後は宿まで送ってくれ、司と別れた。

これから司は進路の情報収集に行ってくるそうだ。


何だか申し訳なかったけれど、今日はいろいろあり過ぎてドッと疲れてしまったのだ。


個室のベットに寝転がりながら、目を閉じる。


城から出た途端に、洗礼を受けこの世界の現実を思い知らされた。

実際の攻撃を受けたのも初めてだったけれど、無傷で防御をする事も出来た。でも、それは自分の事だけ。

他の人は守れなかった。そして、死んだ人も初めて見た。

私の守れなかった人達。守れたかもしれなかった人達。


今更こんな事考えたって仕方ないって分かってるけど、目を閉じていると、あの光景が思い浮かんでしまう。


怖いな。こんな世界から早く出たい。元の世界に帰りたい。


大吾達はあの後、娼館に行ったんだろうか。

下の世話までしてくれてた、案内役の女性が死んだっていうのに最低とは思うが、ちょっとだけは分かる。

あいつだって初めての人の死に、動揺してるし怖いのだ。

その不安を拭いたくて、何かに縋りたくもなるのだろう。

とは思うけど、女の子の立場からしては、不快で汚くて最低と思ってしまう。

あの性格だから同情もしたくないし。


瞳を開き、窓の外の暗くなった街並みを見る。

街の灯りがあって、人の声もして、沢山の人が生活してる気配がして安心する。


この同じ空の下にアヴィもいるのかな。

もう随分と遠くなってしまった気がする、アヴィとの日々。

暗い森の夜も、アヴィに抱きしめられ眠っていれば怖くなかった。


アヴィと一緒にいた時は、こんな行き場のない怖さと、不安な気持ちになんてならなかった。見捨てられないかとかの心配はあったけど、いつだってアヴィの存在が心強かった。

今は司君や元の世界の2人、それに城の人達や街の人達、多くの人が私の周りにいるのに、あの時のただアヴィと2人きりで過ごしていた時の方が良かった。どうせこの世界に来てしまうのなら、またアヴィと過ごしたかった。


アヴィは私の事まだ覚えてるかな?

好きでいてくれてる?

一緒にいた時は、そんなラブラブモードになんてならなかったのにね。離れてからの方が、アヴィとの事を思い出して苦しくなるよ。


アヴィの無邪気に笑う顔が懐かしい。

同じ世界にいるのに、離れている事がとても寂しくて、会いたいのに会えないのが悲しい。


もう会えないのかな、アヴィ……………。



その夜は疲れているのに、頭だけは冴えていてなかなか眠れなかった。

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