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新たな旅の仲間

司に私の秘密を話してから4日が経った。


その間、城の誰からもその事について何も聞かれなかったので、司は誰にも話さないでいてくれたんだろう。


それくらいの良心は残っていたかと、少し安心した。


旅立ちの日まで、残り1週間となった。やる事、やれる事の大詰めで毎日が慌ただしくなってきて、いよいよなのだと気持ちも引き締まってきた。

今日の夜は、英雄の旅立ちを記念する皇室主催の晩餐会が行われるらしい。そこで、貴族やお偉方に私達の事が紹介されるそうだが、全く嬉しくないし、そっち側の体裁だかの自己満足で正直迷惑な話だ。

今までこの無駄な記念の晩餐会を何回開いてきたんだろう。今宵の哀れな見せ物は、私達なわけね。





それは午前中の訓練が終わって、自分の部屋へ戻ろうとした時だった。

もう少しで着こうかという時に、突然グイッと腕が掴まれた。


ビクッとするも抵抗する間もなく、そのまま凄い力で引っ張られ、近くの部屋へと押し込まれた。


え?この後ろ姿……………、司君?


「何するの!?」


いきなりビックリするじゃない!こんな乱暴に何よ!?


振り返り、ドアの前に立つ司を睨みつける。


「…………ごめん。誰にも見られたくなくて待ち伏せしてた」


そのいつになく思い詰めたような表情にゾクッとした。


ま、まさか変なことするつもりじゃないでしょうね?

ここは誰も使ってない客室のようだ。叫んだら誰か来てくれる?でも、聞こえなかったらどうしよう。あっ、この人音とか遮断出来るんだった。嘘、絶体絶命じゃない。


胸元を押さえ、少しずつ後退して司と距離をとっていく。

すると、突然司が顔を上げたので、驚いて足がもつれ後ろにひっくり返ってしまった。


「大丈夫?」


すぐに司が駆け寄ってくる。


「ま、待って!来ないで!」

「どうして?」


もう遅い、すでに司は目の前だ。その手が私に向け動いた。


ギャー、襲われるーっ!!


「楓ちゃん、俺も今回の旅に参加するよ」


差し伸べられた手と、その言葉にポカンとした。


はぁ〜!?おいおいおい!だったら紛らわしい真似すんなーっ!


「え?何か怒ってる?」

「突然緊迫した顔で連れ込まれてビックリですよ!襲われると思って怖かったのに!」

「まさかぁ、楓ちゃん相手にそんな気起きないよ」

「それはそれで失礼なんですけど!」

「まあまあ、怪しまれたくないからササっと話そう」


手を引っ張って起こされ、ソファの前まで連れていかれる。


「それでさっきの話の続きだけど、俺も今回の旅に同行する。事前に話すと揉めそうだから、今日の祝賀の晩餐会で君らの紹介の時に飛び入りで発表する」


ソファに座りながら司はそう言った。


「私の話を信じてくれたんですか?」


私も向かいのソファへと腰掛ける。


「にわかには信じられないってのが正直なとこだけど、嘘を言ってるとも思えなくて…………迷ってるのもあるけど、結局は俺が君の話を妄想でもいいから信じたくなったってとこかな」

「嘘じゃないんですけどね」


でも、思えば何の証拠もないのだ。私だけが知っているだけで。

そう考えると、よくそんな口先だけの話に乗ろうと思ったもんだ。


「司君に協力してほしかったのはあるけど、まさか旅に一緒に行くなんて………。ここにいれば安全なのに、いいんですか?」


司君はここに残って、私の協力者として連絡を取り合ったりを想定してたのに。言い出したのは私だけど、絶体帰れるなんて保証はない。前に話してくれたように、前に旅立った他の人達と同じように死んでしまう可能性だってある。


「協力ね…………。それも考えたけど、情報だけもらっても俺が後から1人で帰れるとは思えない。行った事もない、暗黒大陸で魔の森も大部分をしめてるっていうし、魔物を相手にしながらどこまでやれるかなって。楓ちゃん、帰れると自信を持ってるのは、前に協力してくれた魔族を今回もあてにしてるの?」


司は真剣な表情でじっと私を見てきた。


「それは………、はい、そうです。あてにしてます」

「前は気まぐれで助けてくれたんだろうけど、今回も同じと思わない方がいい。あれから時間も経っただろうし、魔族は人とは違う。生まれながらに強い力を持ち、残忍な性質をしている」

「でもアヴィは強い力は持ってるけど、すごく子供っぽくて、悪い子じゃないと思うんです」

「その時は他に人もいなかったし、君に興味を持ってたからそうだったかもしれない。彼らは長い寿命も持っているから、気まぐれで人を助ける事もたまにはあるそうだけど、その場かぎりの暇つぶしだというよ」

「けど、アヴィは…………」


そんな子じゃない。そう自信を持って言えるほど私はアヴィのことを知っているんだろうか。私が知ってるのは、20日間一緒にいたアヴィのことだけだ。

思えば、あの時からこの世界ではどのくらい経ったんだろうか。


アヴィならきっと助けてくれると思ってたのに、何だか自信がなくなってきてしまった。


「オモチャが帰ってきたって、会ったら危害を与えられる可能性もある。その魔族は探すのは止めよう。暗黒大陸に渡ったら上級魔族の討伐はしないで、魔の森のその次元の渦ってのを目指そうか。生体反応は追えても、暗黒大陸に渡ったら動向まで追えないから自由に行動できる」


司の言ってる事も分かる。

でも、それを受け入れたくない私もいるのだ。

アヴィに会いたいと思う私が。


黙り込んだ私に、司はやれやれといったように息をついた。


「俺はたまに近隣の魔族討伐に行くんだけど、そこで魔物を使役する下級と中級魔族と戦った事がある。人の集落を全滅させて、魔物の餌にしていた。あちこちに無残な死体が転がってとても凄惨だったよ。小さな子供の体を引きちぎってまるでペットに餌をあげるように魔物に与えてたんだ。俺が出会った魔族はそうゆう奴らばっかだった。上級には会った事がないけど、残忍な性質はきっと変わらない」


分かる。言ってる事ちゃんと分かってるよ。

それでも、アヴィを信じたいと思ってる私がいるんだ。私に向けてくれたあの想いは嘘じゃないって思いたいんだ。


「けど…………アヴィは私を嫁にほしいって言った。確かに気まぐれな性格だとは思うけど、全部が嘘じゃない」

「ちょっと待って、嫁?」


司が驚いた顔で私を見る。そして、その視線が上から下までまるで品定めするかのような目で見てきた。


「…………楓ちゃんを?」

「それどうゆう意味でしょう?」

「え?あ、いや、話聞いてると上級魔族っぽいから、何で楓ちゃんなのかなーって。ほら、魔族は力を持った者ほど美しい姿を持ってるっていうし、周りは凄い美貌だらけなはずなのに…………」


言葉を濁しながら、司はチラッと私に目をやる。


「なのに、どうして私みたいなのをって?」

「あ、その、まあ…………、そうなんだけど。ブスじゃないよ、普通に可愛いとは思うけど、美人でも美少女でもないし、どうして?ってのはね。からかわれたんじゃないの?」

「さっきから酷いんですけど!顔は普通でも好きになっちゃう魅力があったんでしょ!」

「魅力?…………………うん、楓ちゃんの魅力か」


司は私から目を逸らし、考え始める。


「もうその反応が失礼なんですけど!」

「ごめんごめん。思えば、好みも人それぞれだよね。性癖が変わってる人もいるし。ブス専なのかもしれないし。あ!楓ちゃんがブスって訳じゃないよ!ただ魔族の美貌の前では、普通の子でもブスの部類に入るんじゃないかって…………!」

「ブスブスうっせー!」


あー腹立つ!司君もっと配慮できる人だと思ってたのに、人の事ブスだの、残念な子扱いしてーっ!


「ご、ごめん………。楓ちゃん絶対O型でしょ?変っていうか、面白いよね。そうゆうとこが魅力だったのかもよ」


もはや顔は排除された。確かにO型だけど。面白さが魅力だって?それ本当に思ってんの?


「もういいです、私のことは。はぁ………、それで本当に司君は一緒に行くと覚悟決めたんですか?」

「ああ、そうだ。もう仲間なんだから、敬語もやめて普通に接してくれて構わないよ。とりあえず、魔族の彼の事は保留にしとこうか。無理に会う必要はないだろうけど、まだ惚れてるなら力になってくれる可能性もある」

「はい。でも後悔しませんかね?城を出なければ良かったって絶対なると思うんですけど」


帰れる方法は知っていても、自信がある訳じゃない。

皇女様に気に入られて、婿候補ならここに残る方が未来があるようにも思える。勿論帰りたいだろうが、100%ではないのだから。


すると司はははっと乾いた笑いをみせた。


「こんなとこで全てを諦めて生きてきたくはない。城下町にだって自由に行ける許可が出てるけど、それは俺がここに帰ってくるって知ってるからだ。逃げたってどこにも行き場がない。この世界どこにいたって俺は異端者だ」

「司君…………」

「でも死にたくないんだ。この世界に来てから3組の旅立ちを見送った。俺はこの世界を、ここに勝手に連れて来たこいつらを憎みながらも、自分が行かなくて済んだ事にはどこかホッとしてたんだ。最低だろ?」


どこか自虐的な笑みを向けた司に、かける言葉がみつからず黙り込んだ私に構わずに司は続けた。


「2組目の時の聖女はまだ12歳の女の子だったんだよ。凄く怯えていた。まだ小学生だ、無理もない。旅立ちの時も交わした握手の手はとても震えていて、縋るような目で俺を見ていたんだ。でも気づかない振りをして送り出した。自分がこんなクズな奴だったなんてな、それでも俺は死にたくなかったんだよ」


司は視線を落とし、足の上で組まれた手をぼんやりと見つめる。


「僅か2ヶ月後に生体反応が消えた、死んだって知らせがきたよ。その時に俺の中で何かが壊れたんだろうな。元の世界にいた時の俺は人気者だったし、何だって上手くいって自信に溢れてた。それが小さい子の陰に隠れて、未知の世界を恐れてビクビクした情け無い奴になってしまった。そんな惨めな自分が大っ嫌いで、でも同時に何もかもがどうでもよくなった」

「…………自分を責めないで。全部この世界の人達が悪いんだから」


こんな異世界に呼ばれて、突然戦えだなんて誰だって怖いよ。


「けど選択をしたのは俺だ。こんな状況だから仕方ないなんて言い訳しても、自分が1番自分の事を大嫌いになった。それからはクズなりに帝国の従順な犬のようになっていったよ。俺はここでこうやって死ねまでやってくんだろうなって諦めてた」

「1人で辛かったね……………」


私が同じ状況なら、きっと同じ選択をしてた。誰だって死にたくないし、怖いものは怖い。


「なのに帰れるなんて言葉を聞いたら、諦めてたのに元の世界に帰りたくなった。あの頃の、毎日が楽しかった自分に戻りたくなった。楓ちゃんの妄想でも、本当の事だったとして到達出来なくても、もう諦めたくなかったんだ。誰のせいでもなく、選択した俺の責任。これが俺の決断だよ」


司は顔を上げて、いつものようにニッコリと笑った。


私が話した後、凄く悩んで決めたんだろうな。

これ以上、何を言おうともう覚悟は決まってるんだろう。

ならば、気持ちよくこれからの旅の同志として受け入れよう。

フレンドリーに仲良く仲良く。


「よーし。これからよろしくね、司君」

「ああ、よろしく」


私の差し出した手を、司はギュッと握った。


「でも1回皇女様を見たけど、すっごく可愛かった。ちょっと勿体無いと思わない?」

「いや、俺ゲイだし」


サラッと司は言った。

え?と司をガン見する私へと、司は瞳を細めて笑う。


「だから結婚なんか出来るわけないし、バレたら俺の立場もないし、ここら辺が潮時だったんだ」

「ほ、本当にゲイなの………?」

「うん」


コクッと頷いた司に、ただ唖然だ。


なんて勿体無い!こんなイケメンなのに男が好きだなんて、世の女性がどれだけ泣くことか!

偏見とかないけど、これで1人のイケメンが失われたというのが残念というだけだ。まあ、ゲイでなくても私はその選ばれる選択肢に入ることはなかっただろう。


「知ってるのは楓ちゃんだけだよ、絶対に秘密ね」


司は握りしめた手を、ぶんぶんと振った。


「了解」


負けじとその手を振り返す。


ゲイの人って初めてだけど、本当にいるものなんだ。思いがけずカミングアウトを受けてしまった。


けど、私を信じてくれたから言ったんだよね。その期待を私は裏切りたくない。


頼りになるこの世界での先輩、司君も加わって、この旅立ちも未来が見えてきた。


私ついてる!だから、今回も絶対に帰るんだ!

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