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アヴィとの繋がり

早いもので、私がこの世界に呼ばれてから1ヶ月以上が過ぎた。


毎日やらなくてはいけない事も多く、感傷に浸る間もないまま日々が過ぎていき、旅立ちの日も刻々と近づいてきていた。


この世界の事もいろいろと学んだ。

地理や、今後私達が目指していく暗黒大陸までの道のりや、そこに至るまでによるといい街や、途中の小さな町や村など。

文字も見て分かるように、食事処や宿、自分の名前の書き方などをいっぱい練習した。


貨幣についても学び、この世界では紙幣はなく、お金は、金貨、銀貨、銅貨になるそうだ。

けれど基本的には、このスロトニア帝国発行の英雄待遇カードを使えば、どの店も金銭はタダになるという。ツケは帝国にいくそうだ。

けれど、旅先で傭兵や荷物持ちを雇ったり、お金が必要な場合は街の領主や、村長などに言えばそれも貰えるという。そのツケは勿論帝国持ちだ。


安心して旅立てるよう、全面的にサポートをする等、帝国の高待遇を授業で熱く語っていたけれど、そっちの都合で勝手に連れて来て、挙句に魔族討伐に行かせる理不尽さについては一切触れる事はなかった。




「あー…………疲れたー…………」


ソファに大の字で寝そべり宙を仰ぐ。


午前中の訓練も終わり、お昼ご飯を食べたら、疲れと眠気が襲ってきた。


今日は授業もないし、このまま寝てしまって、起きてから又訓練しようかな。たまには自分を甘やかしてあげないとね。


そこへメイドが声をかけてくる。


「カエデ様、デザートなど如何ですか?」

「デザート?食べます食べます」


甘いものは心の潤いだもの、疲れた心と体には絶対必要でしょ。


パッと身を起こし、さっそくデザート待ちだ。


お城の料理はさすがと言うべきか、とても美味しく、デザートも完璧だ。いいシェフを使っている。


「今日はいつもと趣向を変えて、東のメトリア王国のデザートです」


メイドがテーブルにいくつものデザートを並べていく。

いつもだったら待ちきれずに、先に出たものから食べていくところだが、この時は違った。


デザートを前に私は動けずにいた。


私、このデザート知ってる!見た事がある!


この星の形のフルーツにクリームをのせて、なんかつぶつぶのタピオカみたいののっけて、色とりどりのトッピングしてあるの。

それにこのピンクやブルーや、緑にオレンジとか何このすごいカラフルなつるんとした団子みたいなの、ってこれも見たことがある。


アヴィに出してもらったやつだ!


「やった…………、やったーーっっ!!」


嬉しさのあまり、立ち上がり飛び回った。


繋がってる!繋がってるんだ!まさかの食べ物で分かるなんて!


歓喜しながらピョンピョン飛び回る私を、メイドが唖然としながら見ていたが、もう嬉しくて仕方がなくて、とてもじっとなんてしていられなかった。


「うひゃー、やったーっ!わ〜ん、嬉しーっ!」


そうだ、味見もしとこう。


ソファにパッと座るとフォークとスプーンを手に食べ始める。


「んんっ!そう、この味!こんな感じだった!」


ハイテンションの私についてこれず、メイド2人はポカンとしていたが、どうだっていい。


この世界にアヴィがいる。そう思うと、旅立ちが待ち遠しくすら感じられた。




この日は、午後の訓練なんてもうなしだ。


こんないい気分の時に、んな事やってられない。

部屋で地図を広げてみたり、旅の計画書を確認して、本を読んでベットに寝転んで過ごした。


気分の高揚が抑えられない。


でもゴロゴロしてばかりで夕飯の時間になってしまっては食べられなそうなので、夕方に城内を散歩し始めた。


この城にいるのも、あと半月ほどだ。


早く出発したい気持ちだが、不安もある。

暗黒大陸に行くまでの道中もあるし、あの大陸に行ったからって、すぐアヴィに会えるとは限らない。


アヴィがあの別空間に食べ物を保存してるなら、人間のとこに来てるって事よね。偶然バッタリ会ったりしないかしら。


そんな事を考えて歩いていると、前方に見知った人物の姿が見えたので足を止める。


司が3階の渡り廊下から、塀に肘をついてぼんやりと城下を眺めていた。

その夕陽にてらされた顔には、いつもの笑顔はなく、どこか寂しげな憂いを秘めたような表情をしていた。


普段は見ることのない表情に思わずドキッとする。


どうしたんだろう…………。


1歩前に踏み出すと、それに気づいた司がこちらを見て、私に気づきニッコリと笑った。

それは、先程とは違い、いつも見せている顔だった。


「楓ちゃん、散歩してるの?いつも頑張ってるから、たまにはゆっくり過ごすのもいいよね」

「あ、はい…………」

「あの2人も予定よりちょっと遅いけど成長してるし、あと少し仕上げれば計画通り旅立てるよ。皆んながいなくなっちゃうと寂しくなるな」


本当にそう思ってるの?

どうせまた新しい人達を呼ぶ準備をしてるんでしょ。


「司君はここに残って、皇女様と結婚するんですか?」

「どうかな、そうなりそうな気もするし、異世界人とで反対される気もする。でも、皇女様のお気に入りだし、帝国としてもこの世界の誰よりも強い用心棒が1人は欲しいだろうから、俺はずっとここにいるんだろうな」

「もし、帰れるとしてもここを選びますか?」

「可能性の話をしても意味がないよ」

「帰る方法を知ってるって言ったら…………?」


私は何を言ってるんだろう。司君の事、信用できないって思ってるのに。帝国側の人間、スパイだって疑ってるのに。


すると司は警戒するように周囲を見回してから、私の手を掴んで引っ張って歩きだした。


そして、えっ?と思ってる間に、近くの部屋に放り込まれた。


そこは大量の寝具やシーツなど置いてある部屋で、私達の他には誰もいなかった。


「音を遮断する魔法をかけた。楓ちゃん、滅多なことは言わない方がいい。あちこちに盗聴の魔法がかけられてるし、侍従の人達には常に監視されてると思っておきな」

「そんなことまで……………」


そりゃあ監視されてるとは思ってたけど、盗聴までしてるんだ。


「だいたい、ここに来たばかりの楓ちゃんが帰れる方法なんて知ってる訳ないだろ。召喚した彼らだって戻す方法は分からないんだ」


司は大きく息をついて私を見る。


話していいのか迷ってる。

でも、きっと私は信じたいんだ、この人のことを。

今隠すように連れて来たのも、私を庇っての事だよね。今までも気にかけてくれてると思ったのは間違いじゃなく、監視の意味もあっただろうけど、それだけじゃないと思う。

1人で遠くを眺めてあんな表情をしていた彼を信じたいって私は思ったんだ。帰りたくない訳なんかないって。


「私、この世界実は2回目なんですよ」


勇気を出して言ってみたが、司の反応はなくシンと静まった。


あれ?もっと食いついてくるかと思ったのに。


「…………そうゆう夢でもみちゃったかな」

「夢オチ!?いやいや、違いますって、ちゃんとした現実でです。どうやって話せばいいのか、今からちょっと前に放課後友達と買い物してたら突然この世界にいたんですよ!」

「そうゆう夢みちゃう時あるよね。気がついたら別世界、みたいな」

「ちょい夢から離れて!とにかく私は怪物みたいな魔物のいる地にいたんです!暗黒大陸!そこで魔物に襲われてたら、魔族のアヴィって子が助けてくれたんです!」


とうとう言ってしまった、私の秘密を!


「…………それは壮大な夢だね」

「もう夢いいから!そのアヴィが教えくれたんです、魔の森にある次元の渦から異世界人が来るって。だから私、アヴィと共にそこに行けば帰れると思って旅をしたんです」

「リアルな夢だね。次元の渦か………………」

「夢夢しつこい。次元の渦は、ここ100年くらいで現れて、開いたり閉じたりしてるって言ってましたよ」

「じゃあ、その渦に飛び込んで楓ちゃんは元の世界に帰れたんだ」


クスリと司が笑う。


あっ、信じてなくて、からかってるな、こんニャロ。


「次元の渦の前まで行っても何も起こらなかったんです。でもしばらくしたら、突然凄い力に引っ張られて気づいたら渦の中に落ちてました。渦っていっても、なんかブラックホールみたいでめちゃめちゃ怖いんですよ!ホント恐怖!」

「それは大変だったね」

「信じてませんね。20日ばかりの冒険で、この世界についてなんて、あの時は全く気にしなかったんですけど、まさかまたこの世界に来る事になるなんて…………。でも、私は1度は帰ったんです。だから、また帰れます」


私はふざけてなんかない。頭がおかしい訳でもない。この世界に来て、元の世界に帰ったんだ、本当に。


その思いを込めて真剣な瞳で司を見た。

その顔はもう笑ってはいなかった。


「………あり得ないだろ、魔族が人を助けるなんて」

「アヴィは私と出会う前日までは赤ちゃんだったんです。それが急に大人に成長してしまって、皆んな可愛がってくれなくなったと怒って家出してきたその日に出会ったんです」

「何だよ、その面白設定は」

「幸運でした。暇を持て余していて、見た目と違って幼い悪戯小僧のアヴィと出会えた事。おまけに何でも出来るから、ご飯もお風呂も心配いらなくてとても助かりました」

「非現実過ぎる。でまかせだ」

「今のこの現状だって非現実でしょうが。たまたま呼ばれた場所が違かっただけでしょう。全然あり得なくなんかありませんよ」


意外に分からず屋だったな。

すんなり信じるとは思ってなかったけれど。


「……………戻ったら家族は心配してた?」

「え?いえ、あっちでは数分しか経ってなかったんで」

「時間軸が違うのか……………」


司は呟き、チラッと私を見た。


「この話は誰にもしない方がいい。同じ世界のあの2人にもだ」

「言いませんよ。司君を信じようと思った私が馬鹿でした」

「俺も誰にも言わないから安心して」


期待していた答えとは全然違う。


帰れるんだよ。帰りたくないの?こうゆう時って、僅かな望みにでもかけてみたくなるもんじゃないの?


けれど、司は〝じゃあね〟と言うと、あっさりと行ってしまった。


嘘ーっ!?こんな衝撃の告白を聞いておいて行っちゃうの!?

帰りたいんじゃなかったの!?


ポツンと1人残された私はただただ茫然としていた。


帰れるという事実を前に、食いつかない人はいないと思っていたのに。私の説明が駄目だったんだろうか?


あり得ないって、こっちだってあり得ないんですけど!

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