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聖女訓練

そうして、聖女教育が始まったものの、1週間経ってもその力を私が使える事はなかった。


これまでの人達も、最初の力の発現に手こずる人が殆どだと司君から聞いたのがまだ救いだったが、さすがに全く反応がないと焦ってくる。


聖女も人によって能力値は様々で、個人差が大きいそうだ。それは勇者や戦士にもいえるという。

そこでレベルを設け、1番下のEランクからD,C,B,Aと上がっていき、1番上がSランクだそうだ。

けれどこれまでほとんどCランクの者が多かったという。旅立ってからもBランクに上がったり、多少の成長はあるそうだが、それ以上の大きな成長はみられないらしい。

つまり、ここを出る時のランクがその人のベースになるランクという事だ。


まあ、今はランクどころか欄外な訳なのだが………。




「ぐぎぃぃー…………」


手のひらを掲げ、ひたすらに念じてるうちに唸ってきた。


1番簡単な光を出す魔法らしいが、僅かにでも光った事はこれまでない。まずは、これをクリアして力を使う感覚を養うそうだが、一体どうすれば力を使えるのか、サッパリ分からなかった。


もう何時間念じてる事だろう。


これまでの数々の聖女教育によって、訓練のカリキュラムは出来ていても、指導官達に力の発現の感覚を教える事までは出来ない。

他の聖女たちの、こうした、ああした、こうすると良かったという助言を教えてくれはするが、ピンとこないのだから、どうしようもない。


今、彼らは何もする事も出来ず、ただ手を掲げて唸る私を見ているだけだ。


いや、もう1人いる。

声を殺すように、くくくっと笑ってる奴が。


「あの、気が散るんでどっか行っててもらえます?」

「楓ちゃん顔すごいよ。顔で魔法使うんじゃないんだから。目をむいて口を尖らしたって使えないから。気合いは伝わったけどね」


椅子に座ってこちらを見ていた司は微笑もうとしたようだが、堪えきれずに口元を押さえて吹き出した。


「ちょっと、失礼なんですけど」

「ご、ごめん。毎回面白い顔するから、必死な感じがいじらしいよね。ぶっ………」

「あの、フォロー出来てませんよ」


まだ笑っている司を睨むが、司はごめんと言いながらもツボに入ったのか、なかなか笑いは収まらなかった。


こっちは1週間で何の成果もなくて焦ってるっていうのに、人の事馬鹿にして失礼しちゃう。

しょせん人事なんだろうな。


「ごめん、笑うつもりじゃなかったんだけど。必死に変な顔してるのがもう可笑しくて」

「はいはい、どうせ不細工ですよ」


アヴィにも、ブスだの不細工だのよく言われたな。


「いや、不細工ではないよ。黙ってれば目もくりっとして可愛いと思うよ」

「はいはい、フォローあざーっす」


こっちは、こんなやり取りにつきあってる暇はないのよ。

初歩の第1段階すらクリアしてないんだから。

だいたい私が聖女ってとこから間違ってんじゃないの?


再びてをかざし、光よ!と念じる。

が、勿論何も起きなかった。


ひーかーりー!!光光光ーーっ!!!


「ちょっと楓ちゃん、また顔っ!気合い入ってるのは分かるけど、一旦落ち着こう」

「充分冷静です」

「いやいや、空回ってるよね。この世界では魔法が使えると突然言われても困るよな。そんなのとは無縁の生活してたんだし。だから、つい頭で考えがちになる」

「…………どうゆう事ですか?」

「光を出そうと頭で考えるんじゃないんだよ。言葉じゃなくて、光のイメージっていうのかな、頭の中からそれを生み出すというか作りだすとでも言うのか。感覚的なものだから、言葉にするのは難しいな」


司は人差し指を上に向ける。

その指の上に火が灯った。


「俺も初めて出来た時は、驚きと感動ものだったよ。どうゆう原理なのかは分からないけど、不思議だよな。火よ出ろとか考えてるんじゃないんだ、火のイメージと指に灯るイメージを思い描いてるんだけど、言ってる事伝わってる?」

「何なくは伝わってます」

「楓ちゃんの思う光ってどんなかな。いっそ具体的なイメージを持ってみたら?例えば、指とか手が光ってる姿を思い浮かべるんだよ。頭でごちゃごちゃ考えないで、無心でその姿だけを思うんだ」


そうは言っても、分かったような、分からないような。

とにかくやってみよう。


「了解です。助言ありがとうございます」


礼を言うと、先ほどの司と同じように人差し指を上に向けた。


光れ!………んっ、これ頭で考えてるな。

無心で、指が光ってるのを想像する。よし、考えない、心を無に。


すると、司がまたぶっと吹き出した。


「………ちょっと、出てってもらえません?」

「ごめん!突然、放心した顔になるから。それって自然になっちゃうの?」

「出てってください」


はっきり言って邪魔。すこぶる邪魔。気が散る。


「ごめん、黙ってるから」


司が大人しくなったので、再び集中し始めた。


何かが光ってるとこ考えてみよう。指?それとも………。


静かに目を閉じる。


目に浮かぶのはあの日のアヴィの姿。


「楓ちゃん………!」


司の声に、ハッとし目を開けた。

その目に映ったのは、キラキラと光輝く室内だった。


「初めてで、こんな広範囲凄いよ」


室内を見回しながら司は言い、それから頑張ったねというような笑みを向けてきた。


出来た。私にも出来た!


思い浮かんだのはアヴィとの日々。

ある日、洞穴で眠ろうとなった時、中が真っ暗過ぎて嫌がった私に、アヴィが手をかざすと光輝く星がいくつもあるように中がキラキラと光ったのだ。

キラキラのプラネタリウムみたいと喜ぶ私に、満足そうに瞳を細めて笑ったアヴィ。

まさか私にもアヴィと同じ事が出来るようになるなんて。


「光1個で苦戦してたのに、こんな光度の強い光を数えきれないくらいだすなんて。何をイメージしたのかな」

「えへへっ、内緒です」


こうやって使うんだ、この力は。ちょっと分かってきたかも。


「うん、コツはつかんだようだね。後はひたすら使う練習をして、安定してきたら回復や防御シールドとか応用編に入るね。魔物の力には毒があるのもいるっていうし、痺れや解毒も必要になるけど、まあゆっくりやってこう」

「回復とか全然想像もつかないんですけど」

「力を使う事に慣れたら、その応用だから大丈夫だよ。まずは1つずつクリアしていこう」

「ですよね。そういえば、あの2人はどうなってます?」


私がこんな苦戦してたのに、あの2人が上手くいってるとかだったら嫌だな、とつい心の狭い事を思ってしまった。


「ああ…………。まあ、楓ちゃんと同じって感じかな。竜也君はすぐへこたれちゃうし、気持ちにムラがありすぎる。逆に大吾君はちょっと乱暴だよね。俺の話は全く聞かないから、案内役の女性に言ってもらってるけど。まあ、そうゆう意味では分かり易い奴ではあるね」

「あはは、苦労してそう」

「でも今日楓ちゃんが一歩リードだ」

「初歩が初めて使えただけですけどね」


旅立ちの日までに、一人前になれているのかが不安だ。けど、それも私の頑張り次第。まずはやってみるしかない。

とりあえず一歩は進めたのだから、そこは安心した。





その日からは、掴んだコツを活かしながらひたすらに魔法の訓練の日々だった。


全く使えなかった時は、唸るばかりで集中も途切れ、今日はここまででいいと止めてしまってたが、出来るようになってくると俄然やる気が出てくるものだ。

日々の成長を自分でも感じられ、成果がでてくれるのが嬉しい。


早く力をつけて、ここを旅立ちアヴィを探したい。


けれど、その思いとは裏腹に、ここが同じ世界だという確証は得られないままだった。


授業の時に、この世界の地図の説明があった際、魔族のいる北の大地、暗黒大陸の話もあった。


暗黒大陸は知ってたけど、よくあるネーミングだし、言葉の変換の力もあるから、それだけじゃ確証には繋がらない。

暗黒大陸に竜神湖ってありますか?と聞いてみたが、人類にとってあの大陸は未開の地なので分からないとの返答しか得られなかった。


改めて、私はアヴィとあの時のいた世界について殆ど話してなかった事に気づかされた。

ヒントに繋がる話が何もない。

朝から晩まで一緒にいたのに、毎日何を話していたんだろうと今更ながら考えてしまう。


疲れると無言で歩いていたし、美味しいものを出してくれるから食べ物の話が多かったかな。後は、アヴィの赤ちゃん時代の話とか、よくからかってくるから、じゃれあいみたいのが多かった。

実のある話なんて、しなかったな。

帰れるって、この世界に戻る時の事なんか考えてなかったから、たまに地名の名前が出たって覚える気なんてなかった。片鱗も思い出せないくらいサラッと流してた。


手がかりはないのに、早く確証がほしくて、安心したくて堪らなかった。アヴィが同じ世界にいるって思うと、それだけで希望がもてるのに。力がもらえるのに。


出会った時みたいに、この広い世界で震えていた私を、アヴィが見つけてくれたらいいのに。

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