8話:医療班
♦♦レオ♦♦
「ルア!」
レオがそう叫んでいた時には、ルアはもう殴り飛ばされ、サバトヴィレッジの住民の家に突っ込んでいた。
その家の壁は崩れ落ち、ルアの頭からは血が大量に流れていた。
レオは焦りを感じ、急いでほうきをルアの元に向かわせた。だが、その行く手を、巨大化している魔王が阻んだ。
「どいてよ…!」
「答えは否だ。」
魔王の足は、回復魔法で、見事元通りにくっついていた。そのせいでレオはさらに焦りを感じていた。
「『奔流』…!」
レオが本気(殺す気)で水魔法を放つと、
「『魔法移動』(テレポート)。」
魔王はレオの後ろに魔法で瞬間移動し、彼女に殴りかかる。
レオは乗っているほうきを操り、それを避けた。しかし、レオの放った魔法が怪我をしているルアの元に、一直線で向かっていく。
やばい…!
レオは単純にそう思った。
「ルア!」
レオがルアに叫んだ時、怪我をしているルアの体が青く光った。
その光は眩く、サバトヴィレッジ全体は青い光で包まれた。するとその瞬間、ルアは立ち上がった。レオの魔法はその光にかき消され、消えてしまった。だが、驚いたことに、ルアは目をつぶっていた。
「ルア…?」
レオがそう呟くと、魔王はルアの方を向いて
「まだ生きてたのか?今楽にしてやるよ。」
と言った。
ルアはそれに反応するように、目をつぶったまま魔王の方にゆっくりと歩き出した。
すると、一瞬。瞬きをしたその瞬間、ルアは魔王の真後ろにいた。
そのわずか数秒後、魔王は体から血を吹き出して倒れた。それと同時にルアも倒れた。そしてルアの体から発せられる青い光も消えた。
レオは何が起こったのか、よくわかっていなかった。が、ルアが怪我をしていることを確認し、ルアを魔法で医療班に移動させた。
医療班というのは、回復に特化した魔女達が集まり、怪我をした人達を回復させる。今は、怪我したルアが送られてきたことによって、ルアは回復中だ。
「さてと、魔王どうしよっかな…?」
♦♦ルア♦♦
俺が目を覚ましたのはついさっき。目が覚めると目の前にはナースさんだ。彼女に、何故俺がここにいるのか聞くと、
「あなた、頭を怪我してたのよ。それを多分レオさんがここに送ったのよ。」
だそうだ。
後でレオに感謝だな。
「ところでナースさん。魔王は大丈夫なんですか?」
俺は病室のベッド上、近くにいたナースさんに尋ねた。するとナースさんは、俺を安心させるように言った。
「大丈夫よ。さっきレオさんがここに運んできたもの。」と。
…「えっ?」俺は驚いた。
当たり前だ。これはおかしい話なのだから。ここを襲った魔王という名の敵を、回復させるこの場所に運んでくるなんて。しかも、里長のレオがなんて、もっとおかしい。
そう思うが、レオに何かしらの考えがあるんだろう。俺はそれを否定することなんて出来ない。
…レオに会いに行ってみるか。
「わかりました。」俺はそう反応した後に、
「ところで、俺はもうここから出てもいいんですか?」と聴いた。
すると、ナースさんは
「ええ。もう大丈夫よ。」と言った。
俺はその言葉を信じ、ベッドから静かに足を降ろし、立ち上がった。そして着ている小鳥高校の制服を正し、歩き始めた。
だが、「ねぇあなた。そんなに可愛らしい顔なんだから、そんな変の服より、もっといい服を着なさいよ。」と、ナースさんが俺を呼び止めた。
この服、変なのか?一応制服なんだけど。
ナースさんは俺が立ち止まって、返事する前に、俺の手を引き、俺をさっきのベッドの上に座らせた。
そして、「少し待ってて。」と言い、この部屋を出ていった。その数十秒後、彼女は十数着ほどの服を持ってきた。
「さあ、これ着てみて!」
俺は彼女に言われるがまま、まるで着せ替え人形のように服を着替えさせられた。
そして最終的には、黒の肩出しトップスに、白いチェックのスカートを着せられた。俺は自分が着た後の容姿を見れなかったが、コネクトに聞いてみると、
『似合ってますよ。』と言った。
お世辞かもしれないが、俺はとりあえず一安心した。
そしてその後、俺は医療班という場所から解放された。外に出ると、大勢の人がシェルターから出てくる様子が見え、それと同時に、医療班とシェルターの場所が近いことを理解した。
…にしてもこの格好、恥ずっ!だってスカートって普段履かないし!まあ、裾が長いからいいんだけど。
あと、なんで俺の制服回収された!?
ナースさんがさっき、「この服は私達医療班で保管しておきます。」とか言ってたけど、保管ってなんだよ!
…あっ、そんなこと考えてる場合じゃなかったな。レオに魔王を生かした理由を確認しなければ。
そう思って、俺が前方に歩き始めた瞬間、
「ルア?」
後ろからレオの声が聞こえた。
俺はその声で振り向いた。そこには案の定、レオがいた。
「レオ。」
俺は思わず、声に出すことでレオの存在を確認していた。レオは俺の姿を見て、こう言った。
「その服、どしたの?」
まあ、そうなるわな。
「あ~、医療班で…」
「なるほど、『マリ』さんの仕業か。」と、レオは手をポン、と叩いた。
「マリさん?」
俺は聞いたことの無い名に、少し疑問を抱いた。その気持ちを察し、レオは俺に教えてくれた。
「マリさんは、たぶんルアを担当してくれたナースさんだよ。」
「…あの人マリさんって言うんだ。後でちゃんと挨拶しに行こっと。……それはそうと、レオ、ありがとな。俺を医療班に運んでくれたって…」
俺がそう言いかけると、レオはすぐに反応した。
「いいよ、いいよ。仲間なんだし。」
その言葉を聞いた後で、俺は本題に入った。
「…ところで、なんで魔王を生かしたんだ?あのままじゃ、また人に危害を加えるかもしれないだろ?」
俺がそう聞くと、レオは自分の意見を話し始めた。